気楽に異世界旅々を!

にしのみや あいだ

第一章"このアホらしい者共と共に行こう!

@1.異世界は思っていたより現実的でした。

俺の名前はヒイラギ カズハ。自宅の平和を護るべく家に寄生する…自宅警備隊だ。しかし、そんな俺にも陽の下を歩く日だってある。何故なら今日は…『好きな漫画の限定グッズ発売日だからだ。』


胸を踊らせ、外に出る。今の時刻は九時、うるさい学生も、汗臭い社会の歯車サラリーマンも居ない絶好の時間だ。


──────



両手に戦利品を握り、うっきうきで路地を歩く。胸の高まりが収まらない。あぁ、家に帰ったらどうしよう…。

そんな事を考えていると───なんと!目の前からトラックが猛スピードで現れる。


「あ、俺。此処で死ぬのか?」


消え行く意識の中で俺は最後、そう考えた。




@1.異世界は思ってたより現実的でした。


「起きて下さい、ヒイラギカズハさん」

「───はっ?!!」


目が覚めるとそこは神々しき建物の中だった。白色の建物の中、そして声をかけてきた女神…と言うべき風貌の女性。


よく見ると、膝枕をされている様だった。人肌離れて数年…親以外の女の子とこんなにも触れ合ったのは初めてだ。

………しかし、何かが妙だ。顔が〜〜よく見える。本当に。


「………空がよく見える」

「なっ!?!!」


そう言い放つと、照れる女神の顔が見える。かわいい。


「わっ、私の胸は薄っぺらくないですよ! 失礼ですね、貴方ッ!!!」

「いや、そんな風には言ってないのだが…空がよく見えるなと」

「それを失礼と言うんですよ! 変態!」

「俺は別に、うん。胸が崖みたいだななんて一度も──────」


頬に激痛が走る。彼女は俺を無理矢理その場から退かし、やっと女神の様な話をし始めた。


「……こほん……ヒイラギカズハ、貴方は不運にも不慮の事故で死んでしまいました。これ程迄に若い命、大変悲しき事実です」

「………」

「…貴方の死因は溺死、随分と苦しい死に方をしたのですね。可哀想に」

「は?」

「え?」


え?俺は確か、絶対にトラックに轢かれて死んだ筈だった。だが、彼女の口からは溺死と告げられる。


「いや俺。トラックに轢かれて死んじゃったんじゃないんですか? 死んだのはともかく、なんで溺死なんです?」

「それが〜、トラックに轢かれそうになった際に用水路に落ちちゃったんですよ、貴方。浅くて子供でも溺れない様な所だったんですが、気絶しちゃっていましたので…そのままぽっくりと」

「くそぉ、俺の死に方が情けねぇ」

「遺族の方々も、笑っておられましたけど…けど、泣いてはいましたからね! うん、そこら辺は元気出してください!」

「別に『トラックに轢かれそうになって気絶して子供でも溺れない様な浅い用水路に溺れて溺死した』からって、誰もそんな、蔑んだりは───〜」

「もうフォローしなくて大丈夫ですはいすみません。」

「…まぁ、そんな貴方にもう一度チャンスを与えましょう。」


女神は暖かい手を俺の頭に優しく添え、撫でながら優しく話し出した。


「ゲームや漫画の中でも『異世界系』のお話をよく読んでいましたね。異世界、行ってみませんか?」

「行きます行きますぜひ」

「あ、そうですか…普通、いや。大半は戸惑ったりする筈なんですが……まぁいいや」

「勇者の方々には、特別に神々が自由な力を与えています。何にしますか?何でもお望みの物をあげますよ。例えば〜〜魔剣や超怪力。サキュバスのチャームを選んだ人も居ましたね」

「その力を使い…人々を脅かす魔王を倒して下さい! お願いします!」

「…その言い方からして、俺以外にも現実世界から来た人は居るのか?」

「はい、他にもいます。容姿は皆それぞれ現実とは違いますが…他のキャラクターとは違う圧倒的な『チートスキル』を持っています。なのですぐに分かると思いますよ。勇者同士パーティーを組んでも良いですね! さぁ、能力を選んで下さい」

「………じゃあ、魔力。他の勇者もあっと驚く様な膨大で底の無い魔力が欲しい。それが俺の願いだ」

「分かりました。では、見た目はどうしますか?」

「何でもいい、醜くなければな」

「承知しました。では、転生を開始します。能力は『底が無い圧倒的な魔力』。そして、見た目は『白髪の長髪、蒼色の瞳が美しいロリっ子』。では! リスポーンッ!!」

「え?」


消え行く体を背に、俺はとある言葉に驚愕した。今、あのクソ女神は何て言った? 白髪の…蒼色瞳が美しい『ロリっ子』?!!


ふざけんじゃねぇ。容姿は何でもいいと言ったが…ロリっ子はおかしいだろ!!? 俺は女神の胸元に掴みかかる。


「ふざけんじゃねぇクソ女神! 何だよロリっ子って!!! 容姿はちょーっとカッコつけて何でもいいとか言ったのは俺だが…ロリっ子はねぇだろ!! そんなんだったら俺は美人で巨乳のみたらし団子の姉ちゃんがいい!!」

「え? いや…何でもいいと言ったのでランダムでやりましたけど」

「取り消しだ! 取り消しッ!! この転生辞めさせろ!!」

「けど、もう転生が──────」

「ちっくしょおぉおぉおおぉおぉ」


俺は消え行く視界を前に、そう叫んだ。






2





「っは?!! んだよ…この姿は!!?」


転生が完了した様で、目の前を見ると白髪の綺麗な髪が目に映る。しかも視点がいつもより低い、もうこれは遅かれ早かれ確定でロリっ子の女の子に俺はなってしまった様だ。


「くそぉお!ふざけんなよあのドグソ女神! 次会ったらあの平べったい胸蹴り飛ばしてやる!!」

「………てかこの何処だよぉ。普通だったら『転生が完了しました、勇者様今から貴方は魔王を((以下略』って言われる筈なのにっ!!? 何だよここ! ジメジメしてる暗い部屋の中じゃねぇかよ!!」


辺りを見渡すと、紫色や黒色。暗い色で作られた部屋の中に俺は居た。気味が悪い。


「まぁ、一旦ギルドとかに行ったりして……」

「………おい」

「ぴぎゃあぁぁあぁぁあぁ?!!!!?」


横を見ると、大柄な男性の顔が隣にたっており、此方に声を掛けて来た様子だった。慌てて後ろに下がり、視線をその男に向ける。

鼻から上を隠している不気味で妙な黒い仮面、所々に銀色の装飾が見える。

華麗に着こなされた黒白色のタキシード。全てを透かすような白髪の髪、圧倒的なこの威圧。そして例のこの部屋…俺は直感で感じた。此処、『魔王城』だ。


女神さん、転生先間違えてますって……


そう思っているのも束の間、あの男が口を開いた。


「よくぞ聞いてくれたな小娘ッ!! 我は魔界の公爵にして、魔王軍幹部、七大罪の一員。貪欲、暴食を司る黒魔術! ベルゼブブ・アテネ!!」

「いや俺何もお前に聞いてないんですけど」

「…我じゃなくて我輩の方が良かったか…? いやだがな〜〜〜」

「おい……っておい! お前聞いてんのか人の話」

「んあ? なぁ小娘…いや、汝よ。我は我輩の方が似合うか?」

「もういいよお前」

「そう感情的になるな小娘よ!!! 我輩は魔界の公爵にして、魔王軍幹部、七大罪の一員。貪欲、暴食を司る黒魔術! ベルゼブブ・アデッ?!!!」


俺は長ったらしく再度説明を続けるアテネの股間に渾身の一撃を食らわせた。理由は単純、自身の身長的にも丁度の位置にあったから殴りやすかったからだ。


「うぐっ…貴様、中々やるな…ふ、フフフ…フハハハハハハハッ!!!! とでも言うと思ったか! 俺は゛っ?!!?!! 」


もう一度股間を殴った。

アテネは地面に蹲り声にならない声を上げた。


「小娘…二度目は流石に魔王軍の我、我輩でも耐えきれん……」

「ふっ、分かるぜその気持ち。股間に物が当たったらクソ程痛えもんな。うん、マジで」

「なら尚更殴るなよ」


しょげしょげと起き上がるアテネは地面にあぐらをかき座り、俺もその前に座り込んだ。


「で、ここ何処だよ。このじめっじめしててキノコでも生えてそうなここ」

「おい貴様その言い方は何だ。そんな事より自己紹介が先だろう、小娘。貴様の名は何だ、」

「ヒイラギカズハ、お前は───、うん。アテネだな。もう分かる」


あの自己紹介のインパクトが強すぎて、もう名前を覚えてしまった自分が情けない。


「…ここは魔王城内の我輩の部屋だ。というかキノコとは失礼だな汝よ。それは魔王の我輩でも傷付くぞ…というか、この我輩から聞かせて貰うがお前は何故ここに居る。魔王城の中に、しかも我の自室に勝手に入られても困るんだが…」

「なんか〜、転生したらここに居た。あのドジ女神がどうせ行き場所ミスったんだろ。けっ、ふざけやがって」


俺はもう一度あの女神に会った時には顔面を殴ると心に誓った。


「口の悪い小娘だな〜〜貴様転生者か、その膨大な魔力にも納得がいったぞ? まぁ、この我だからな。本当はそれくらい分かっては居たがな。フハハハハハハハハハハハハ!!」

「その笑い方やめろよ。気色悪ぃ。ま、魔力とかはちゃんと再現してくれてんだな〜あの女神。ま、そこだけはフォローしといてやるよ! ガハハハハ〜!!!」

「貴様の笑い方も見た目とは裏腹に吐き気がするような笑い方だな、お主にも直接聞かせてやりたい位だ………」

「…それより貴様、転生者と言ったか。その様子からしてまだ駆け出しのルーキー、仲間も居ないクソボッチニートなのだろう…可哀想に」

「おいやめろ」


急な蔑みに俺は即座に言葉を返す。


「では、お前に良い提案をしよう。俺をこの城から出してくれるのなら、小娘。お前の下僕、いや、使い魔となってやろう。いい提案だろ? 魔王軍最高幹部の一員の我だぞ、断る理由がまず無い筈だ」

「なんでだ?お前魔王軍なんだろ、魔王城に居て何が悪いんだ。いい事しかねぇだろ」

「それがな…我輩はこの城に閉じ込められているんだ」

「理由は単純。なんか魔王軍の弟子や部下を虐め回っていたら全員死んでしまってな…それで反逆者としてこの城…我の部屋の一角に閉じ込められているのだ。な、俺は悪くないだろ?」

「お前が悪い、なんでちゃっかり弟子やら部下やら虐めてんだよ。しかも死ぬ程って…そりゃ閉じこめられるのも納得だわ」

「いやな、それは〜うん。確かにな! フハハハハハハハッ!!!!」

「うるせー、しかもお前そんな事すんなら仲間になってもいつ裏切るか分っかんねぇし無理。普通勇者の仲間は正義感溢れた奴だって決まってんだよ」


俺はアテネにそう言った。直後に手に違和感を感じる。右手を見ると──────紋章の様な赤色の痣が手の平に浮かんでいた。

ニヤリと悪魔が微笑んだ。


「うおぉおおぉ?!!!、なんだよコレ。おいアテネ!! 俺の右手がッ?!!!」

「強制的に主従関係を結ばせてもらった。今日からお前は俺の主人、宜しく頼むぜ」

「いやだぁあぁぁあああ!!!?! 俺はこの部屋からは出たいがお前と仲間なんてなりたくねぇ! 普通は勇者の仲間は優秀な賢者とか…すんげぇー強い正義の騎士とかケツとタッパのデカい姉ちゃんだって決まってんだよ!! なんでお前見たいな悪魔と契約しなきゃいけねぇたんだ!」

「うるっさいわッ!! では、お前は我輩と共にこの城で朽ちていく運命になるぞ! 我の話し相手に永遠になってもらうぞ?しかもプライベートは一切無し、ずっと我輩と喋って貰う人形の様な人生になるがそれでもいいと言うのなら、その契約。解いてやらんこともないがな。フハハハハハハハハハハ!!!!」


高笑いを始める悪魔を横に、俺は歯を食いしばった。


「悪魔め…なんて非道な選択をさせてくるんだ」

「我輩は魔界の公爵にして地獄の番人。何度もその手の言い回しは耳が腐るほど聞いておる。観念するんだな」

「ちくしょーーーーっ!!!!?」

「では、契約通りテレポートしたい所だが。一つ問題がある」

「この部屋では我輩の魔力が使えないような魔術が施されおり、俺は他人の魔力を奪えない。そして、その肝心の魔力がなければ我輩の取り柄である黒魔術は使えない。以上だ」

「よっしゃお前死ね」

「おい小娘、まだ話は終わっとらんぞ」

「貴様の魔力を使わせろ。主従関係を結んだんだ。下僕の我も主人の魔力を使って攻撃が出来るようになる。だから契約したんだ、最後まで話を聞かんか。まだまだケツの青い餓鬼同然だな、へっ」


言い終わるとアテネは俺の頭に紋章の刻まれた左手を乱暴に置き、俺の魔力を吸い上げ、テレポートの準備をし始める。


「おまっ、あんま髪クシャクシャにすんなよ」

「………」

「おい聞こえてんだろ手を動かすな言ってんだよ聞こえねぇか」

「…『我、最強の悪魔、アテネが命ずる』」

「うわコイツガチで無視しやがった」

「『この地への移動を可能にせよ───〜、テレポートッ!!!』」


そして俺の視界は白に染まって行った…









「………ぷはっ!??」

「何故お前はテレポート中に息を止めるんだ。普通に息はできるぞ?」

「るせー、何か譲れないものが俺にはあんだよ。てかここどこ? すっげー野原って感じの場所なんだが…」


辺りを見渡すと森や茂み、広がった野原などが見える。

そしてその中にはスライムやらのモンスターも遠目でしばしば見えた。


「うっひょーー! 異世界って感じ。俺はこういうのを望んでた訳よ!」

「此処は確か───、『始まりの国"ラディッシュ』と言う名だった筈だ。ほら、あそこに街が見えるだろう。あそこがそれだ」

「…見えねぇんだけど、ま。ちょっとおぶってけよアテネ。幼女にあんな遠くまで歩かせんのか? 主人の命令だぞ〜早く〜早くぅ〜!」

「…仕方あるまい。良いだろう! この我は器が大きいからな! 特別に許可してやろう。久々の外の世界だ。貴様の命令に背従って旅をするのも悪く無いぞ!」


そう言うとアテネは乱暴に俺を背中へと乗せ、すたこらさっさと街の方へ走って行った。



「……ここが始まりの国、ラディッシュ。随分と異世界感溢れる世界じゃねぇか!」


俺は街へ着くや否やアテネの背中から降りると隣に並び辺りを見渡す。


「ふっ、弱者ばかりだな。流石は初心者や市民が最初に集まる国だ。でかいだけしか取り柄の無い無能国家。人間臭くてたまらんな」

「おい、そんな事言うなよな。もしかしたらここに魔王を倒す原石がいるかもしれねぇんだ。例えば? 俺とか俺とか俺とか…」

「誰もお前のステータスなど聞いとらんわ! …ったく、随分と大きな理想だな。まぁ、我に歯向かう態度も無ければ口を動かす事しか脳の無い小娘とは違うのでな、我輩は」

「うるせぇアホテネ。というかよあれは何処だ、アレは」


辺りを不自然にキョロキョロと見渡す。


「アレとは何だ。ソープか? それともサキュバスのやっているエッチな淫夢を見させてくれる風俗か?」

「それもすっっっっっっごい気になるけどよ、まずは異世界定番のギルドに行って登録して冒険者になる所からだろ! 断言する、俺はそれをしたくて転生してきたと言っても過言では無い!」

「あぁ、あれか。死亡率が高いのにも関わらず毎度応募者が後を絶たないという冒険者か。まぁ、暇潰しにはもってこいだな。我輩も登録? というものをしに行こうと思う。まぁ、この我輩が居るからな! 嘸かし褒め称えられる事だろう!!」

「よっしゃ行くか!!!」


俺はうきうきとギルドへと向かった。






3






「すみません。ギルドの登録は最年少でも『十三歳』からが規定により定められています。ですので登録は出来ないです」

「…マジ?」

「我輩は出来るのか?」

「はい! 十三歳以上であれば学歴などは無しですぐに登録できます!!」

「まじかよぉっ?!! なんでコイツは良くて俺は駄目なんだ。くっそマジでこの見た目で良かった事一つもね゛えっ!!!!」


俺は頭を抱えカウンターの前で膝から崩れ落ちた。一番の楽しみ、いや、それをしにやってきたギルドが十五歳以上からだと…?俺はより一層あの女神の事が嫌いになりそうなんだが…


「…汝よ、一旦手を貸すがよい」

「…は? 別に良いけどよ。何やんだよ」


手を貸すと、アテネは紋章の付いていない左手の方を掴み、こう言った。


「『契約』」


そう言うと、自身の手の平にはまた別の紋章が浮かび上がった。これで両手ともサキュバスの子宮ら辺に付いている紋章的なのが両手の平に刻まれた事になった。アテネの方はと言うと、その紋章を目立たない舌へと移動させた様で、手の平の目立つ紋章は無くなっている。

え、俺にもやらせてくれよそれ。


「おまっ───?!! 何したんだよ!!?」

「今日から貴様は我輩の下僕となった」

「は?」

「…アホでも分かるように説明すると、俺はお前と主従関係の魔術を使い、お前を我の下僕とした。だから今の状態はお前は我輩の主人であり、はたまた我輩はお前の主人である。どっちとも同じ主従関係の魔術を使ったのだ」


俺がまだ納得していないのを表情で悟ったらしく、態とらしく溜息をつくと、カウンターに行儀悪く肘を起き、ギルドの職員の女性にこう告げた。


「コイツは俺の使い魔…って事で良いか? それならこの年齢制限は引っ掛からない筈だ。主人の使い魔の年齢はギルド側は何歳でも良いと明言している」

「…それなら良いですよ。お二人とも、少々お待ちください」

「アテネ〜〜〜っ!! お前…なんて良い奴なんだ!!」

「世間知らずの下僕に社会のルールを教えるのは我輩、いや。主の役目だからな! フハハハハ!!!!」


こうして俺は、ギルド定番の調査…『ステータス調査』をする事となった。




「では、そちらの仮面を被った男性の方からお願いします」


呼ばれるとアテネはニヤリと口元が隠されていない仮面の中で不敵な笑みを浮かべ、其方の方へと向かって行く。

ギルドの中に居た酒を飲んでいる柄の悪そうな冒険者も皆が此方へ視線を向ける。

そして、アテネの能力値が計られた。


「……すっ、凄い!!? 幸運値以外の全てのステータス全てがカンストしています…?!! こんなの初めて見ました!!」


ギルド内の皆がざわつき始め、アテネの方へと視線が向いた。それを知っていたかの如く、アテネは自慢げに笑っていた。


普通は転生者の俺がするんじゃない…?その展開…


「役職は、魔法使いの上位互換、アストロジスやエレメンタリストなどはいかがです!! ……あれ? もう役職には付いて居たのですか。役職名は───黒魔術師…? 聞いた事のない役職ですね…」

「まぁ、当たり前だがな! 何故なら我輩は魔界の公爵にして、魔王ぐんッ?!!?」


俺はまたもや妙な自己紹介を始めようとするアテネの口を急いで塞ぎ、何とか止めさせた。


「またあの自己紹介を始めんな! 殺されるぞっ……!」

「むぐぐぐぐ〜!!!(おい、いい所を取っていくな小娘)」

「では、次の方…使い魔のお嬢ちゃん。こっちにおいで、」

「おい、ほら早く行きなよお嬢ちゃん…ぷっ、!」

「……(くっそぉ゛〜〜?!! ガキ扱いしやがってあの野郎!!!?)」


俺はイラつく本心を必死に堪え、お姉さんの方へと向かった。アテネの使い魔と言う事で、ギルド内の視線は自身に釘付けだ。

ふふふ…いいぞこの展開。

これで俺が無双して、あんなクソアテネなんか飛び越えるくらいのステータスを───


「体力や幸運値は平均…やや少し平均以下ですね。あまり飛び抜けたステータスも無し。役職は冒険者一択ですかね?」


皆の視線が他の方向へ向き始める。しかし、もう一度自身に視線が向けられる一言がギルド内に響き渡った。


「───すっ、凄いですよ?!! 魔力が…魔力が無限に近い程あります!!! そこに居る仮面のお兄さんより凄いですよ! この魔力数値…一体全体勇者でも無いのに…何なんですかこの人達はッ?!」


いやですから勇者ですって…転生先が魔王城だった勇者ですって……もういいや、うん。


「(まぁ、魔力が膨大な勇者に、魔王軍幹部。言葉が良ければ最強に見えるっちゃ見える編成だな…)」

「お嬢さんには魔法使いの上位互換のウィザードか、僧侶より強力なヒールプリーストが向いています。この魔力だと、ウィザードですと強力な即死攻撃を連続で打ち出せますし、ヒールプリーストだと回復魔法をほぼ無限に使えますよ!!」

「じゃあ、ウィザードにします」

「はい! 是非とも!!」


にんまりと英雄を見た様な目で此方を眺める彼女の瞳には、金のマークが浮き彫りになっていた。…絶対に利用する気だな、コイツ。






4






「………よーし! ここら辺でいいか!」

「うむ…我輩の人間引っかかりセンサーにも誰も反応しとらん、ここらで良いだろう!」

「なんだよそのセンサー」


俺達は誰も居ない野原に出向き、魔法の威力を試してみる事にした。魔力をMPへと変え、ほぼ全部の魔法が使える様になった自分は今、最強の魔法使いへと成り上がったのだ。

普通は効率が悪いので地道に溜まる自然回復の魔力を倒すと確実に貰えるMPには変えないが俺は別だ。膨大な魔力がある上、魔力の自然回復も数分で終わる。


今の俺は…最強だ!


「え〜と、まず何を撃てば良いんだ? 前見た某ノベルで使っていた爆裂魔法とかか? それともファイアーやらすっげーかっこいい魔法とかか? くぅー!! 夢が広がるぜ!」

「好きな魔法を撃てばいいぞ! あ、我輩には当たらないように調節しろよ。我ざ自慢の仮面にヒビが入っては嫌だからな!!」

「分かった。よーし! 撃つぞ!」


俺は長ったらしい詠唱を口にした。不思議と脳内にそのセリフが流れ出てくる。

辺りには虹色の光が輝き出し、大量に魔力を消費するとでてくる様な独特な臭いが鼻につく。

そして今、詠唱が終わろうとしていた…。


「『今こそ、その堪れた力を解き放て』!」

「『カオス・インフェルノ!!!』」


ぱすっ…



「「え?」」


アテネから借りた杖から出てきたのは、期待外れの空気砲だった。


「…ぷっ! フハハハハハハハハハハッ?!! 何だ! 今のは!!! ククク…! 貴様は本当に面白い奴だな小娘よ!! 今のがお前の本気か? 笑わせるのも程々にしろ!!」

「ッ───〜〜?!!」

「いや、絶対おかしいぞ!?? 俺ちゃんと唱えたよな?! 詠唱! 爆発の"ば"の字も無いぞこの魔法っ!!!?」


もう一度契約したプロフィールを見てみる。ちゃんと魔法は撃った筈だったが、魔力は減っては居なかった。俺が不思議に思っていると、右端に何かの数字が書かれてあるのに気がついた。


「…『57』? なんだよこの数字」

「……っぁあ? これか。これはな、ズバリ知力の指数を表す数値だ。これに書いてある知力が無ければ操れまい。簡潔に説明すると馬鹿は魔法を扱えないと言う訳だな…で、それがどうしたんだ?」


「……俺、知力『32』なんだけど……」


「…ブハハハハハハハハハッ?!!?! 本当に…貴様っ…?! 馬鹿なんじゃないか?? ククク…豚に真珠もこの事だ! いや、豚に金剛石も褒め言葉だろう…本当に小娘、貴様の脳はクルミで出来ているのか?ハハハッ!」

「おい! こんなの解約だ解約っ! 他の役職にしてもらいに行く!!」

「それは無理だぞ小娘よ、決まった役職は変えられない。スキルだけを覚えて他の役職にする輩もおるからな、その為だ。まぁ、諦めろ。『魔法の使えない魔法使いさん』よぉ?」

「くぅ゛〜〜〜〜?!!?!」


目元を何度も拭い、地面に笑い転げるアテネを横に、俺は絶望の表情を見せた。





「………おい、お前は何か買わなくて良いのか?」


俺は一旦現実逃避をすべく、服屋でギルドから貰った資金を使い魔法服を買った。白色の魔法帽子に、端に輝く金色の装飾が美しい。所々に青色が入っているのも綺麗だった。

杖も…魔法は使えないが持っておいた方がいいと思い、おまけ程度に自身の身長位ある大きな杖を買った。


魔法の杖を買う時に、アテネが後ろで大笑いしていたのは腹が立ったがな……


「我輩は別によい。この服は魔王軍幹部専用の特別一級品。汚れを寄せ付けずいつも清潔なまま、しかもあらゆる攻撃や魔法を弾く特別製だ。」

「…まぁ、匂いは弾けないから毎度洗う必要があるんだがな」

「おいそれすげぇ欠陥じゃねぇか。まぁいいんじゃねぇの? いつも同じ服着てたら汚れなくても嫌だろ」

「まぁな」


俺達はまたギルドの方へと向かっている。理由は単純、パーティーメンバーを集める為だ。二人では心細いし、何よりコイツとずっと一緒って言うのが嫌だ、うん。

ギルドへ入ると皆がこちらをチラチラと見て話をしていた。こんな初心者向けのギルドにこんな奴らが居たら噂になるのも確実だ。


まぁ、俺。魔法使えないんですけどね。


「…で、どうよ。誰か来てるか? アテネ」

「…むむ、埋まっていて何処にあったのか分からんぞ…お! あったぞ!! 募集者ゼロだ!!」

「まじかよ」


どうやら他の募集紙に埋まっているのが要因だと考えられるが、ここは駆け出しのルーキーが初めて来るギルド。こんな高レベルパーティーに自ら入りたいと思う輩も居るとは思うが、足でまといとなるのを恐れたのだろう。他のパーティーに行っているのが大半だったとカウンターのお姉さんも言っていた。


「ん〜、このまま二人で頑張るか小娘よ、」

「絶対に嫌だお前と同じなんて」

「…我輩ここで泣くぞ?」


「───なぁ、このパーティー募集紙を貼ったのは君達?」


「ん?」


話し掛けて来た相手を見ると、茶髪のいかにもモテそうな爽やかで笑顔が綺麗な青年が居た。レベルを見ると35、そこらの上級者と同じ程のレベルの様だった。


「あぁ、そうだが…どうした?」

「君のパーティーに入ってもいいかな?」

「おいちょっと待て貴様、最初に言っておく。この小娘は魔力はあるが魔法は使えんぞ? 足でまといで口からは文句しか出てこないカスだ」

「何だか物凄い悪口を言う言われている様な気がするんだが、なぁ? "アホテネ"」

「おぉ? 誰がアホテネだ、"カスハ"。貴様御自慢の髪むしってやろうか???」


睨み合うアテネ達の仲裁にあの青年は割り込み、俺達の喧嘩は幕を下ろした。


「レベルも、他の上級者と同じ程だな。良いだろう! 我がパーティーの一員に認めて野郎じゃないか!!! 感謝するが良い! フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

「ありがとう、僕の名前はラーベル。一応剣士の上位職のソードマスターだ。他のパーティーを何度も追放になった身だが…よろしくな!」

「え?」

「ん?」


今、何か〜こう。物凄い言葉が聞こえた様な…?


「お前、さっきなんて言った?」

「クビになった…って所?」

「なんで何度も追放されてんだよお前、犯罪とかしなさそうだし〜、レベルが高すぎて嫉妬されて…?」

「あぁ、それ? 僕ね、『幼くて、小さな少ししか熟していない幼い少女が好きなんだ』」

「だから他のパーティーに行った際に、こう…欲望が抑えられなくて…十三歳?位のパーティーメンバーの女の子を…夜、こっそり、襲っちゃって…♥」

「首絞めた時とかのあの苦しそうな顔ッ! 本当に好きだった…好きだったのに……パーティーを追い出されちゃって…。それを何度も他の所でも繰り返してたから、上級者ギルド出禁になっちゃってね、ココに来た訳。ね?」


おいおいコイツマジでパーティーに加えなければ良かった。


「そして偶然君の様な僕の大ぁ〜〜〜好きな年齢の子が居て本当に…フフフ。どうやって年齢制限を超えたのかは謎だけど…君に会えて良かった、好き♥」


耳元で態と吐息が掛かるか掛からないかのギリギリを狙い囁いてくる彼を見て、俺は絶句した。


「おい、パーティーに入れる陣営を間違えた様だな。ご愁傷さま、」

「まじかよぉおおぉおぉ?!!!」

「あは!」






「……ふふふッ! パーティーに入れてくれてありがと!」

「合意の上では無いのだがな…まぁ、最後まで確認しなかった貴様が悪いぞ、」

「………うるせー。お前も少しは悪いだろ」

「うぐっ…」


奴は最終的にパーティーメンバーに加える事となった。


ラーベルはアテネが一員に入れて良いと誇らしく語った際に印を素早く押していた様で、契約はそれで決まっていた。…入れたくなかったんだがな…

今はクエストでゴブリンの巣に囚われている人質を助けに行く。と言うクエストを受け、向かっている途中だ。


「いや〜、まさか入れてくれるとは思いもしなかったよ〜! できるだけ問題起こさない様に頑張るね! 僕」

「おい『できるだけ』じゃなくてやんな。ヤったら殺す…」

「…その威勢の割には我輩の背中に張り付いてしか威張れないのか?フッ、負け犬の遠吠えだな」


俺はアテネに罵られながらも、背中にへばり付きラーベルを睨み付けた。


「けど驚いたね〜、魔王軍幹部の一員と魔法の使えない最強魔法使い…個性豊かなパーティーだと思ったよ、僕の入っていた中で過去一癖の強いパーティーだね」

「『ドSロリコンソードマスター』も追加された事だしな! 言葉に表すと本当に面白いパーティーだ! フハハハハッ!!」

「笑い事じゃねぇーっつーの。本当は…本当はもっとかっこいいメンバーが揃えば勇者みたいなのに…」

「例えば口煩いナルシスト黒魔術師じゃなくて、正義に満ち溢れた魔法使いとかさ。ドSロリコンソードマスターとかでは無くて、子供を助ける事に生き甲斐を感じるソードマスターとか…うん、全く正反対のパーティーが出来上がってしまった」

「我輩から言うと魔法が使えない魔法使いではなく、もっと優秀な魔法使いが欲しかったな」

「僕も〜」

「うるせー! お前ら後悔しても知んないからな!!!?」


俺はそう妬みも籠った返事を返す。


「…それよりお客さんが来てるんだけど、」

「お客さん…?」


ラーベルの見ている方向に目を凝らすと、此方に走ってくる沢山の人影が見える。

そう、ゴブリンだ。


「気を引き締めて行こう、ゴブリンはゴブリンでも皆高い知能を持っている。一体一体が成人男性一人分だと思ってもらって構わない。最悪住処に連れて行かれて死ぬケースもあるからね」

「何それ怖い…」

「この我輩が着いているんだ。その心配はあるまい! さぁ!! 下等生物共よ、我に立ち向かって来いッ!!!」


俺達は気を引き締め、ゴブリンの方へと向かった。




正直もう逃げたい…


……To be continued

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