第20話 スキルやステータスの解釈

 「簡単に言うとスキルは世界が配給しているアプリケーションのような物です」


 アプリケーション、端末にインストールされる事による様々なコンテンツ。

 ゲームなどもこれに分類される。 


 「ごめん、理解が追い付かないからもうちょっと詳しく」

 「えぇ、そうですね。 技能という分かり易い形になっているから認識が追い付かないだけだと思いますが、ステータスをスマートフォン、スキルをアプリケーション、そして数値をマシンスペックと捉えてください。 このシステムの分かり辛い所は個々でマシンスペックにバラつきがある事と、アプリケーションのダウンロードに必要な条件があるという事でしょうか」


 そこまで言われて朱里の脳裏に理解が広がる。 

 理解してしまうと浸透するまで時間はかからなかった。 

 確かにスキルは凄まじい。 剣術スキルがあればド素人でも習得一秒後には剣の達人だ。

 

 そんな事がどうやれば可能なのだといった疑問はステータスという外付けの鎧とそこにインストールされたアプリケーションによる物と認識してしまえば妙に簡単に納得できてしまった。

 ステータスが数値化されている時点でゲーム臭いと思っていたので今更だとも思ったからだ。


 「――という事は条件さえ分かれば理屈の上ではどんなスキルも習得可能という事ですか?」

 「そうなりますね」


 即答した応供に驚いたのかミュリエルは言葉が出ないようだ。


 「何だったら実演して見せましょうか?」


 そう言って応供はパチンと指を鳴らすと何もない空間からバラバラと何かが床にばら撒かれた。

 朱里は何だこれと視線を足元に向けると生き物の牙だった。 


 「何これ?」

 「ワイバーンの牙です」

 

 さらっととんでもない事を言っているような気がするが、努めて気にしない。

 そんな事よりも応供が使えないはずの『空間収納』のスキルを獲得している事だ。

 

 「そんな。 空間収納はかなりのレアスキルのはず……」

 「――とまぁ、こんな感じでシステムの構造さえ理解すればアンロックはそう難しくありません」

 「これ、とんでもないチートって奴なんじゃないの?」

 「まぁ、そうですね。 現実感が薄れるのであまりゲーム用語で括るのは好きではありませんが、とんでもないズルでしょう」


 さてと言って応供は話題を変えた。


 「これからの方針ですが、何かありますか? もしもないのなら俺に協力して頂けませんか?


 朱里とミュリエルは思わず顔を見合わせる。 

 正直、朱里はほぼノープランなので分かり易い道を付けてくれるのなら大歓迎だった。

 ミュリエルも加護を得る以上の目的がな――いや、まさかと可能性の一つが脳裏を過ぎる。


 「あの、オウグさん。 いえ、様。 スキルの取得条件を調べられるというのならまさか加護の取得も可能なのですか?」

 「加護ですか? アレはちょっと特殊ですね。 与える側の同意がいるので何らかの手段で神に接触しないと身に付けられませんよ」

 「……そうですか……」


 少し期待していたようで露骨に肩を落とすが、応供はふむと首を傾げる。


 「ミュリエルさん。 加護が貰えるなら何でもいいですか?」

 「え? えぇ、この世界で何の加護もない状態はかなり不味いのでこの際、どなたでも頂けるのであれば……」

 「それは良かった。 なら俺のをあげますよ」

 「は?」


 そう言って応供はミュリエルの頭を鷲掴みにすると掴んだ手から光が生まれ、ミュリエルの頭部へと移動した。 


 「はい、終わりました。 ステータスをご確認ください」

 

 ミュリエルは噓でしょと言わんばかりにステータスを確認すると――


 ミュリエル Lv.51

 VIT 1300

 STR 80

 DEF 55

 INT  530(+3000)

 DEX 330

 AGI  50


 Skill

 言語理解、火魔法、火耐性

 空間収納、阿羅漢の加護 


 「ぷ、プラス三ぜ……」

 「良かったですね。 これで加護なしだと嘆く事はなくなりました」


 どうでもよさそうな応供の言葉なんて聞こえていなかった。 

 ミュリエルの専門は魔法。 その為、最も重要視するべき数値はINTだ。

 それに特化した加護。 自身の能力を最大限に活かす事の出来るスキルだった。


 「あの、応供君? ミュリエルさんに何をしたの?」

 

 何が起こっているのか理解していない朱里は感極まって涙を流し始めたミュリエルの様子にやや引きながら尋ねるが、応供は小さく肩を竦める。


 「欲しがっていた物をあげただけですよ。 ともあれ、他者への加護の付与は俺でも可能のようですね。 補正値が当人のレベル依存なのは中々に使い易い」

 「じゃ、じゃあ私にも……」

 「朱里さんにはズヴィオーズ様という最高の女神様からの加護があるので必要ありません」

 「えぇ……」

 

 正直、効果微妙だからミュリエルと同じのにして欲しいと思ったが、あまりズヴィオーズという神を軽視するような事を言うと応供の機嫌を損ねてしまいそうなのでそれ以上の不満は口にしなかった。

 

 「では、お二人とも協力して頂けると解釈しても?」 

 「私は大丈夫。 正直、何をしたらいいか分かんないし」

 「オウグ様。 ありがとうございます。 私はあなたに従います何なりとお命じ下さい」


 加護を貰って嬉しいのかミュリエルは応供に跪いてそんな事を言い出した。

 その様子を応供はなるほどといった様子で眺めていたのが、朱里には少しだけ不気味だった。


 「ありがとうございます。 では早速、行動に移るとしましょうか」


 こうして応供を中心に三人はこの辺境の地で動き出す事となった。


  


 「――まず、我々のやるべき事は二つあります」

 「二つ?」

 

 応供はまずを指を一本立てる。


 「一つ目は個々の――というよりはお二人の強化ですね」

 「あのー、水を差すようで悪いんだけど私、戦いとかはちょっと……」

 

 現代日本の価値観で育った朱里には他人を殺傷するといった選択肢を取る事は難しい。

 

 「その点は問題ありません。 朱里さんにはあるスキル習得して頂きます」

 「えっと? それは一体……」

 「ミュリエルさんも控えていますし、さくっと行きましょう」


 応供は差し出すように空の手の平を差し出す。

 

 「何?」

 「じっと見ていてください」


 言われた通り何もない手の平をじっと見ていると応供の手の平から光の球が現れる。


 「これを見つめてください。 中身を覗き込むような意識でお願いします」


 言われた通りにする。 ほんのりと黄色く輝く光の球はほんのりと温かい。

 

 ――なんだか安心する。


 ぼーっと眺めていると段々と意識が――

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