第3話 鑑定!
真っ先に思い浮かんだのはそれだ。
要するに面倒事が多いので他所から無許可で異世界人を連れてきて解決させる。
そんな無茶苦茶な理屈でこんな拉致を行っているのだから、こいつらイカれていると朱里は思った。
ただ、国王と王女の反応を見る限り、当然、常識といった様子で、呼び出した異世界人に対して何の罪悪感も感じている様子はない。 間違いなく、これは日常的に行われ、彼等は朱里達を呼び出してこき使う事に何の躊躇も葛藤もなかったのだろう。
何故なら、朱里はあんな感じの顔をした連中に見覚えがあったからだ。
――この度は我々の不手際でご家族を奪ってしまい申し訳ありませんでした。
そう言って頭を下げたのは母が死んで少ししてから現れたモノレールの運営を委託されている会社の関係者だ。 名刺は貰ったが帰った後に破り捨てたので名前も何も覚えていない。
言葉こそ申し訳ないといった様子が窺えるがそうでなかった事は対面した朱里には良く分かっていた。
目は口程に物を言う。 昔の人は上手く言ったものだ。
罪悪感に苛まれています、精一杯償っていきたいです。
そんな事を宣うが、言葉、挙動の端々にさっさとこの場を後にしたい、次に行きたいといった本音が透けて見えたからだ。 理解はできる。
事故の被害者は朱里達だけではないのだ。 こいつ等は他の遺族の家をまだまだ回らなければならない。
その為、さっさと話を纏めて次に行きたいのは分かる。
だからと言って大切な家族の死をそんな流れ作業のように片付けられて納得いくかと聞かれれば朱里はノーと答えるだろう。 だから彼女は努めて感情を表に出さずに話し合いに同意し、上手く纏まったと上機嫌で帰っていく背中に死ねとあらん限りの憎悪を叩きつけた。
目の前の連中からはそいつらと同種の雰囲気を感じたのだ。
その証拠に説明にも随分と馴れている。 恐らくは何度もやってるからすらすら出てくるのだろう。
この時点で目の前の連中には不快感しかなかった。 それでもこの先、どう動くかの判断材料と状況把握の為に話を聞かざる得ない。
取り敢えず、奴隷のようにこき使うつもりで呼び出したのは理解できる。
次に聞きたいのはこのステータスとかいうゲームみたいな代物についてだ。
自身の能力を数値化できるのなら確かに便利かもしれない。 就職の際、履歴書なんて代物が要らなくなる。
さて、このステータス。 文字通り当人の能力を数値化した物ではあるのだが、厳密には少し違う。
この世界の生物全てはステータスという見えない鎧を着こんでいるとの事。
つまり朱里の筋力値は13となっているが彼女の筋力が13ではなく、筋力に+13されているのだ。
ステータスは他の生物を殺害するとその生命力――日本人に分かり易く言うと経験値を得る事で強化される。 それにより強化、レベルアップする事になるのだ。
そして数値が強化され、更に強くなれると。 ミュリエルと名乗った王女は魔獣などの大型生物は経験値効率がいいですよとバカみたいな事を言っていた。
言外にその大きな生き物を殺して来いと言っているようなものだ。 聞けば聞くほど正気じゃない。
そして異世界人には世界の壁を越えるほどの強き魂があるので特殊なスキルが付与されると付け加える。 要はスタートダッシュに必要なものは与えているから大丈夫だと言っているのだ。
――胡散臭すぎて吐き気がするわ。
確かに身体能力強化やら危険察知やらがスキル欄に乗っていたので確かなのだろうが、こんな訳の分からない数字と文字の羅列を並べられたからって大きな生き物を殺すのは嫌だ。
「皆様は救国の英雄、当然ながら我が国は支援を惜しみません!」
ミュリエルは笑顔で朱里達に安心しろと力強く頷いて見せる。
勝手に拉致しておいてこの言い草だ。 これは笑う所なのだろうか?
「では、詳しい話は後日行うとして、これから皆様には鑑定を受けて頂きます」
ミュリエルが小さく手を上げると大きな水晶玉を持ったローブの老人が現れる。
「難しい事はありません。 その水晶に手を乗せて頂くだけで結構です」
その場に居た全員が思わずといった様子で顔を見合わせる。
朱里は無意識レベルでプライバシーを晒されるのは嫌だなと思っていたが、そうでもなかったものが居たようだ。 一人、中学生ぐらいの少年が勢いよく手を上げて前に出る。
「お、俺からお願いします!」
喋り慣れていないのか声がやや裏返っていたが、ミュリエルは特に気にせず微笑んでお願いしますと促す。 少年は差し出された水晶に手を置くと映像のようなものが光と共に浮かび上がりステータスが表示された。
村岡 太郎 Lv.1
VIT 130(+50)
STR 15(+50)
DEF 8
INT 3
DEX 5
AGI 5
Skill
言語理解、力神の加護
――なんか偏ってない?
自分と比較すると随分と力に偏っているなとぼんやり思ったが、スキル欄が少ないのが妙に気になった。 だが、周りはそうでもなかったようで「おお」だの「素晴らしい」とか言っているので中々いい感じの数値のようだ。
次、スーツを着たサラリーマン風の男。
沖 誠二 Lv.1
VIT 150(+50)
STR 20(+50)
DEF 13
INT 20
DEX 15
AGI 8
Skill
言語理解、力神の加護
――あれ?
力神の加護は据え置き? 強化の数値も同じだし、これは偶然なのだろうか?
周りの反応はさっきと同様に素晴らしいとか言っている。
次、高校生ぐらいの女の子。
小南 麻友 Lv.1
VIT 80(+50)
STR 5(+50)
DEF 5
INT 20
DEX 25
AGI 15
Skill
言語理解、力神の加護
三人目を見て朱里は全身から汗がぶわっと噴き出すのを感じた。
ステータスの数値自体には個人差があるけどスキル欄は据え置きだ。
自分だけ違うとなんだか面倒な事になりそうだと嫌な予感に襲われた。
祈るような気持ちで他のステータス鑑定を見ていたが、一人残らずスキル欄は全く同じ。
どうしよう? 悩むのもしんどいし開き直って手を上げるべきだろうか?
そう考えて朱里は手を上げかけて――ゾっとしたものが背筋を駆け抜けるのを感じた。
理屈ではない何か凄まじく嫌な予感がしたのだ。 手を上げてあの水晶に手を乗せると取り返しのつかない事になる。 そんな嫌な予感だ。
何だこれはと考えたが、答えは自身のステータスにあった。 危険察知。
字面通りに受け止めるなら危険を知らせる物だろう。 つまり鑑定されると不味い事になる?
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