オールドタイプ
@IC0
第1話 プロローグ
ある帰り道、21時くらいのことだった。
道沿いにある公園のベンチに制服を着た女の子が座っていた。
他に誰もおらず、こんな夜更けに一人でそこにいる姿を訝しげに思った。
だからといって声をかけたりはしなかった。
心配をしたが、そういう一人でぼーとする時間みたいなのを楽しんでいるのかもしれない。
人には人の都合がある。
しかし念の為家に帰って一時間後にもう一度様子を見に来ようと思った。
□□□
一時間後。
「ま、いないか」
良かった。
いたらなんて声をかけようか。
通報されないかとか不安だったがそもそもその子は公園から消えていた。
家に帰ったのだろう。
そう思い、踵を返した。
「え?」
目を疑った。
女の子がいたはずのベンチの下に鞄が地面に落ちているのが目に映った。
”誘拐、事件”
一瞬で嫌な想像が頭をよぎった。
「(おいおい、マジか……)」
とりあえず親御さんにコンタクトを取るため鞄の中に身分証があるか確認しよう。
「…なんだこれ」
鞄の中を開けるとまず教科書類が目に入った。
ただ様相が変だった。
偏見かもしれないが、教科書たちは女の子が持つにしてはあまりにもボロボロだ。
不可解に思いつつ一通り調べた。
しかし身分証らしきものはなかった。
そして他の持ち物も破損が酷かった。
偶然の産物によるものか当人の性格が暴力的だったのか。
色々憶測が浮かぶが、俺には深夜こんなところで一人ベンチ座っていたことと関係しているんじゃないかと思えてならなかった。
もしイジメによるものであれば、鞄を置いてどこかに行くケース……
”自殺、暴力、カツアゲ”
そう遠くには行っておらずこの辺りで人気のない場所に行った可能性が高い。
見切り発車かもしれない。
だが俺は走り出し同時に警察にも電話をした。
□□□
「ここらで人気のない場所と言ったらここ野鳥の森だよな……」
嫌な予想が当たっているならここで事が起こっていてくれると助かるのだが。
警察に連絡はしたがやはり事件性は低くて取り合って貰えなかった。
走り出したことが吉と出るかまだ分からないがスマホを手に辺りを探した。
「(マジか、本当にいやがった)」
半ば信じていなかった。
経験則から予想がそう当たるものではないと思っていた。
しかし現実、暗くてよく見えなかったが恐らくさっき公園にいた子が4人くらいの男女に囲まれていた。
ぶわっと憤る気持ちが溢れてくる。
夜更けにこんな人気のない森で女の子を一人取り囲む理由なんてそうあるものじゃない。
イジメが真実味を帯びてきてしまった。
今すぐ飛び出したくなるが必死に心を落ち着かせた。
「(落ち着け、その前にしなきゃいけないことがある)」
今出ていったところで一時凌ぎにしかならない。
それに作戦も何も立てられていない。
ひとまず二次災害を防ぐためにスマホで一部始終を録画する。
内容は聞こえないが声は荒々しく胸ぐらを掴んだり顔を殴ったりやはり暴力を振るっていた。
しっかり動画として納めた。
これで十分傷害罪として問える。
「おい!」
俺はスマホをしまうと逸る気持ちをこれ以上抑えれず飛び出した。
「…なんか用?」
素知らぬ顔であくまでしらばっくれるようだ。
俺が今やってきたと思ったのだろうか。
「誤魔化しは無理だぞ。証拠も撮ってるからな」
「チッ、マジだりいな」
「見られたじゃんどうすんの!?」
「おいお前、もうサツに連絡したのか?」
「あ…」
しくじった。
冷静でいられていたつもりがつもりだった。
「その反応…してないな?」
「携帯奪って壊せば行けるんじゃね」
「マジで馬鹿じゃん? 逃げんなよお前!」
連中は調子を戻した。
多勢に無勢。
警察への連絡は失態だが情勢は問題なかった。
「逃げねえよ。お前らみたいな醜いやつらは鼻から俺の手で潰したかったからよ」
一人刃物を持っているが大丈夫。
腕っぷしには確たる自信があった。
問題は正当防衛がどこまで有効かだが。
なるようになるしかない。
□□□
油断した。
刃物を持っていた男は野球をやっていたらしく投擲で腕に刺さった。
ムカついたから過剰に殴ってしまった。
「大丈夫……なわけないか」
暴力を振るわれていた女の子に声をかけた。
殴られたとき唇を切ったのだろうか。
腫れてしまっている。
「ごめん、携帯で警察に連絡いれてもらっていい? 揉み合ってる中どうやら液晶壊れたらしくて、操作が効かないんだ」
「……」
「あ、警察より先に救急車の方がいいんだっけかこのとき」
「何者…なんですか? どっかの有名な人ですか? こんな人数相手に勝てるなんて」
「武芸嗜んでる一般人だよ」
彼女は疑いの目を残しつつもお礼を言うと警察を呼んだ。
□□□
後日、俺は再び彼女と再会した。
親御さんも同席している。
「学校の立ち位置とか大丈夫ですか? 余計なことしちゃったかなって不安なんですよね」
「大丈夫ですよ。元々嫌われていた人たちだからむしろ消えてくれて嬉しいみたいですみんな」
あの後イジメをしていた者たちは退学措置。少年鑑別所で現在検査を受けているようだ。
「宮原くんこの度は娘を助けていただき本当にありがとうございました」
「はい、どういたしまして」
親御さんが良い人そうで良かった。
学校ではいじめを、家では虐待をという最悪なケースを考えたがどこにも頼れるところがなかったわけではなかった。
夜遅く公園のベンチにいたのは親に心配かけたくなくてイジメのことは黙ってたがさすがに持ち物があそこまでボロボロにされたらもう言い訳できないと思い帰るに帰れなかったとのことだ。
「あの…武芸嗜んでるって、どこの武道で習ってるか聞いてもいいですか?」
「富士山田市の宮原道場で、主に自分より大きい存在を倒すことを目的とした登心流を学んでますね」
「宮原って言うと……」
「俺の祖父がやっている道場すね」
「すごい。武道の家系だ」
「いやいや」
「宮原道場……」
「興味あるの? 莎奈」
「お、いいね。でもうちかなーり厳しいよ?」
「…私やりたい。私も宮原さんみたいに強くなりたい」
「別に体だけが強さじゃないよ」
「うん、わかってる」
「そっか」
彼女は変わりたいのだ。
イジメをする人間が百悪いのだがきっとそういうことじゃない。
照れ臭くも彼女は俺に憧れてくれている。
そのために行動しようとしている。
ならば俺は推すだけだ。
「親御さんとよく話し合って、それでも来たいならぜひおいで。いつでも歓迎するよ」
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