夢のような映画への埋没!夢の見過ぎはご用心…

天川裕司

夢のような映画への埋没!夢の見過ぎはご用心…

タイトル:(仮)夢のような映画への埋没!夢の見過ぎはご用心…


1行要約:

夢を見過ぎて帰れなくなった男の末路


▼登場人物

●夢追(ゆめおい)カケル:男性。20歳。大学生。かなりの映画好き。夢見がちな性格。現実に飽きた上で絶望している。勉強や就職の事が面倒くさい。

●母親:カケルの母親。45歳。一般的な母親のイメージで。

●春日井乃子(かすがい のこ):女性。20代。カケルの「現実離れしたい」と言う欲望と理想から生まれた生霊。黒髪の美人。誠実かつ清楚な感じ。

●唱道 昇(しょうどう のぼる):男性。映画『カリスマの撃滅(げきめつ)』の原作者。小説や漫画も描いている。乃子が作り出した架空の人物。実在しない。イメージ的なもので結構です(本編ではこの辺りにリアリティを持たせるため正体は明かしません)。


▼場所設定

●カケルの自宅:一般的な戸建てのイメージで。カケルの部屋は2階。

●ジンドリ公園:カケルの自宅から最寄りの公園。ひとけは余り無い。


▼アイテム

●DVD:乃子がカケルに渡す。中には映画『カリスマの撃滅』が収録されている。それを観た者はその世界観に心を奪われ、「現実よりもその世界に生きたい」と強く思わされてしまう。又「こんな作品を創りたい」と言う作家への夢も持たされる。

●栄養ドリンクのような物:乃子がカケルに渡す。それを飲むと一種の幻覚作用が起きて、理想の世界・空間へその人を入り込ませてしまう。霊的な作用・効果を持つ液体薬。


NAは夢追カケルでよろしくお願いいたします。



オープニング~


魔女子ちゃん:ねぇデビルくん、ぷちデビルくんって、現実離れしたい・現実逃避したいって思った事ある?

ぷちデビルくん:ははは♪そんな事思った事ぁねぇな!なにしろこの現実こそが俺の夢だからよ!フフフ、人間にとって地獄とも呼べるこの現実の世界がなぁ…ひっひっひ♪

魔女子ちゃん:ふぅん。その割にはゆうべ映画観ながら、「はぁ…こんな華やかな世界に行ってみたい…」なんてウットリ言ってたわよね。

ぷちデビルくん:…知ってたの?

魔女子ちゃん:今回のお話はね、或る映画好きな大学生にまつわるエピソードなの。

魔女子ちゃん:彼は勉強も就職も嫌んなっちゃって、いつも映画の世界に逃避ばかりしてんの。

ぷちデビルくん:ほう。情けない奴だな。

魔女子ちゃん:で或る日、最寄りの公園で不思議な女性に出会って、生き甲斐とも言える刺激を貰うんだけど、かなり悲惨な結末を迎えちゃうのよ…

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4269字)


ト書き〈自宅〉


今日は2020年4月1日。


カケル)「はぁ…もう新学期かぁ。ヤだなぁ勉強なんて。大学行っても同じような事ばかりやって、結局は平凡な人生の送り手になる…。はぁ…」


俺は夢追(ゆめおい)カケル(20歳)。

大学生。

もうすぐ進路を決めねばならない。

でも働きたくない。

こんな俺の唯一の楽しみは映画鑑賞。

でも最近は映画も観尽していた。


ト書き〈ジンドリ公園へ行く〉


NA)

大学の帰り。

俺は久し振りに公園に行った。

家から最寄りのジンドリ公園。

昔はここでよく遊んだ。

少しノスタルジックな気分に浸ってたようだ。


カケル)「子供の頃は夢があったよなぁ…あの頃に戻りたいよ…」


ブツブツ言いながら落ち込んでいた時、いきなり声がした。


乃子)「こんにちは。ちょっとイイですか?」


カケル)「えっ?」


振り返ると、見た事も無い女性が立っていた。

黒髪の美人。

歳の頃、20代くらい。

誠実かつ清楚な感じが漂って来た。


カケル)「な…何ですか?」


乃子)「私、今ちょっと大学生を対象にアンケート調査をしてるんですけど、もし良かったらあなたにもご協力して頂けないかと思って。イイですか?」


取り敢えずOKした。

彼女は軽く自己紹介した後、いろいろ訊いて来た。

彼女の名前は春日井乃子(かすがい のこ)。


乃子)「それじゃ最後の質問です。あなたは今、大学生活に満足してますか?」


カケル)「…いえ全然。『やりたい事』がホント見付からないって言うか…。覇気が全く湧いて来ないんです。作家でも出来ればいいんですけどね(笑)」


NA)

彼女は笑顔で聞いてくれた。

そして真っ直ぐ俺のほうを見た。


乃子)「どうも有難うございました。アンケートは以上です」


カケル)「あ、どーも…」


NA)

これで帰るのかと思いきや…


乃子)「それでは本題に入りましょうか」


カケル)「…え?」


乃子)「実は私、学生を対象にしたライフコーチやメンタルコーチ等もしておりまして、今生活に悩んでいる学生や、夢を見付けられないで困っている方々の為に、未来へのステップをご用意させて頂くお仕事もしてるんです」


乃子)「先程『やりたい事が見付からなくて』と言われてましたよね?」


カケル)「え…?あ、はい…」


乃子)「私がその『やりたい事』を見付ける為の支援をして差し上げましょう」


そう言って乃子は1枚のDVDをくれた。


カケル)「これ…何ですか?」


乃子)「あなたの感性を引き出し、作家への夢を膨らませてくれるDVDです」


乃子)「ぜひ1度ご覧になってみて下さい。1本の映画が収録されています。それは今のあなたにとって最高の魅力と道しるべを教えてくれるでしょう」


よく解らなかったが、取り敢えず貰った。


ト書き〈自宅〉


俺は自宅に戻り、早速それを観た。

すると…


ト書き〈観始めて10分後〉


カケル)「す…すげぇ…。この映画…俺の理想の世界そのままだ…」


NA)

他人には説明しづらい感動が俺を襲った。

俺の理想の世界・夢の世界が、その映画に散りばめられている。

観れば観る程、その世界へ入りたいと願ってしまう。

タイトルは『カリスマの撃滅』。

原作者は唱道 昇(しょうどう のぼる)。

「俺もこんなの作ってみたい」

一瞬そう思ったが、その世界へ入りたいと言う魅力のほうが勝ってしまった。


ト書き〈ずっと観続ける〉


俺は7時間その映画を観ていた。

ご飯も食べず風呂にも入らず。

繰り返し観続けた。

もともと映画好き。

でもこれだけ魅了された記憶は無い。


ト書き〈数日後〉


俺は完全にその映画の虜になった。

何度も何度も観てしまう。


カケル)「はぁ…本当にこの世界へ入ってみたい…。現実よりこっちがいい…」


また観終わった…


カケル)「この観終わった時が虚しいよな…」


現実に戻りたくない。

これまで何度も味わって来た感覚。


ト書き〈公園〉


俺はまた公園に来た。


カケル)「俺って『映画病』なんだろうか…」


以前に増して何にもしたくなくなった俺。

そんな時、また彼女が現れた。


乃子)「大丈夫ですか?また落ち込んでるようですけど?」


カケル)「えっ」


不思議な気がした。

俺が落ち込んだ時に必ず彼女が現れる。

まるで女神のようだ…。

そう思った瞬間、俺の精神はガラガラ崩れた。

俺は思いきり彼女に甘え始めた。

在る事無い事、無心した。


カケル)「ねぇ乃子さん!お願いです!僕をあの映画の世界にいざなって下さい!出来るんでしょうあなたなら!あなたはいつも決まって、僕が落ち込んでる時に現れる…!それって、僕を助けてくれる為なんでしょう!?」


完全に支離滅裂。

変人扱いされる事は承知の上。

しかし彼女は全く冷静に、こんな俺に答えてくれた。


乃子)「いいですかカケルさん。私があのDVDをお勧めした理由は、あなたに作家への夢を持って貰う為でした。自分もあんな映画を創れるように成りたい…そんな思いをもって作家への道に挑戦してくれる事を望んだからなのです。映画を観終わった後に、1度くらいそう思ったんじゃないですか?」


カケル)「ええ、確かに何度かそう思いました…。で、でも、僕は作家に成る事よりも、あの映画の世界に入り込む事、あのキャラクター達が味わってるストーリーのほうが魅力なんです!その夢のほうが遥かに大きいんです!」


カケル)「作家に成る夢も確かにありますけど、あの世界を1度でも味わってみたい…!それからじゃいけませんか?作家に成るという道は…?!」


乃子)「はっきり言います。あの映画の世界へ1度入ってしまえば、あなたはもう2度とこの現実の世界へ戻る事は出来ません。もしそれでも良いと言うのでしたら、今すぐあなたをあの映画の世界へお連れいたしましょう」


「やっぱり…」そう思った。


カケル)「…出来るんですね…。やはりあなたは僕をあの世界へ連れてってくれる事が出来るんですね!そうして下さい!今すぐそうして下さい!」


俺はもうこのとき何かに取り憑かれているようだった。

そして…


乃子)「…わかりました。そこまでご決心が堅いのでしたら、もう何も言う事はありません。あなたをあの映画の世界へお連れいたします」


乃子)「但し、カケルさん。これだけは覚悟して下さい。1度あの世界へ入ればこちらの世界へは2度と帰れない上、あなたは映画の主役や脇役、その他のキャラクターの全てを演じなければなりません。その覚悟はありますか?」


乃子)「あの映画はシリーズ物です。その世界観が変わる事だってあるでしょう。そのテーマや構成によっては、あなたの理想通りに行かなくなる場合もあります。原作者の気分次第で構成は変わるもの。それでも大丈夫ですか?」


カケル)「え…?」


俺は一瞬、何の事を言われてるのか解らなかった。

しかしよく考えてみると、何となく解って来た。

確かに映画の筋や内容は原作者の意向で変わる。

流行によっても変わるもの。

その変わった世界観の中で、俺は自分に当てられたキャラクターを演じる。

なるほどと思う。

俺は迷ったが、やはり映画の感動は冷めていない。

寧ろ「本当にあの世界に入れる」と知った事で更にそれへの刺激が渦巻いた。


カケル)「…いいです。それでいいですからお願いします…」


乃子)「…それではこちらを差し上げます。どうぞお飲み下さい。それを飲んだ瞬間、あなたはあの映画のキャラクターの誰かに成っているでしょう…」


そう言って乃子は栄養ドリンクのような物を1本くれた。

俺は夢にしがみ付くようにして、それを一気に飲んだ…


ト書き〈数か月後〉


それから数か月後。

俺はあれからずっと映画の中で生きている。

彼女の言った事は本当だ。

緩やかに流れる雲…大草原…ロマンチックな港町…。

そんな舞台を従えて、俺はその世界の主人公に成っていた。

恋人もいて、来月、結婚する事になっている。


カケル)「はは…ハハハ…これだよ…。この世界だ…。俺がずっと願い求め続けて来た理想の世界…。俺はもうずっとここの住人なんだ…!」


俺はその魅力溢れる映画の世界をずっと堪能していた。

しかしふと周りを見た時に、辺りが暗くなって行くのを感じた。


カケル)「ん…?なんだろ?空がかげって来たような…」


それまで周りにいてくれた恋人や愉快な町人(まちびと)がいない。

急にいなくなった感じだ。

さっきまで見ていた大草原は荒野になった。

不安に見ていると、空が絵巻物のようにしまわれて行く。


カケル)「な…何だよこれ…どうした?」


空が真っ暗になった直後。

グニャグニャになった時計が俺の周りを猛スピードで飛んでいった。

場面が変わったようだ。


カケル)「え…?な…何…コレ…?体が動かない…?」


次の瞬間、俺は独房のような密室にいた。

手足が鎖で繋がれ、俺はボロイ寝台に寝かされている。

すると密室のドアがギィっと開いて…


狂人博士)「ひぃっひっひ…それじゃ始めましょうかねぇ…君の処刑を…」


カケル)「な…何だよ…、何がどうなってんだよコレぇ!」


問答無用。

手術用のメスのような物が俺の体に触れて来た。


カケル)「や…やめ…!やめてくれぇええぇ!ぎゃぁああぁ!」


ト書き〈カケルの自宅の2階を見上げながら〉


乃子)「どうやら原作者の唱道 昇は路線変更したようね。メルヘン路線からホラー路線に転向したか…。だから言ったじゃないのカケル君。映画の脚本やテーマというのは、その原作者の気分次第でどうにでも変わるって…」


乃子)「私はカケルの『現実離れしたい』と言う欲望と理想から生まれた生霊。カケルに将来ビジョンに役立つ夢を掴んで貰おうと出て来たけれど、どうやら彼はそれを拒否して、いつの間にか夢を諦めていた。この世での夢を…」


乃子)「努力せずに夢は叶えられない。その努力と引き換えに充実感と夢の実現がやって来る。それを見落して、ただ楽なほうばかりへ逃げ込んでいては、他人に流される人生を歩まされ、自分が本当に安心できる空間は得られない」


乃子)「これからカケルは、ホラー映画やミステリー映画の中で生きなきゃならない。耐えられるかしら?映画の世界に埋没するのはいいけれど、現実の自分まで見失ってのめり込む事は、危険以外、何物でも無い事なのよ…」


ト書き〈自宅〉


母親)「カケルー!まだ学校行かないのー?もう時間過ぎてるわよー」


母親が俺の部屋へ上がって来た。


母親)「カケル?…あれ、いない。…なによテレビ点けっ放しで。ンまぁ、こんな気持ちの悪い映画なんか観て。カケルー?あんたトイレ行ってんのー?」


カレンダーは2020年4月1日。

点けっ放しだったテレビを「パチン」と母は消してしまった。

俺は何も見えない真っ暗の中。

次は「どこからやって来るか知れないホラー」に怯え始めた…



エンディング~


ぷちデビルくん:こいつも自業自得だな。現実ナメてっからこういう事になるんだよ♪

魔女子ちゃん:でもこういう少年から青年って、世の中に結構多いんじゃないかしら?

ぷちデビルくん:まぁそれはいいけどよ、ラストんトコ、おかしくねぇか?カレンダーが2020年の4月1日になってて、冒頭と同じ日付になってんじゃねぇか。ストーリー内じゃ「数日後」とか「数か月後」とか時間過ぎてんのによ。

魔女子ちゃん:あ、気付いた?そこんトコが実はこのお話のミステリーになってんのよね。

魔女子ちゃん:つまり「今回のストーリーは全部カケルの妄想だったのかも…」って見方が出来るんじゃないかって事。

ぷちデビルくん:妄想だと?

魔女子ちゃん:そ♪でもラストの所で母親がカケルの姿を見付けられなくなってるでしょ?あれは「カケルが現実での自分を失くしちゃった」「自分を見失った姿」を暗喩してんじゃないか、って感じにもなってんの。

ぷちデビルくん:ふぅん。ようわからんけど凝ってんだな。

魔女子ちゃん:夢を見過ぎちゃうと、カケルみたいに本当に現実に戻って来れなくなる事があるかも知れないし、やっぱ気を付けとかないとねぇ。

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=JXxc2JEqDAI

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