第101話 裏稼業

「お姉ちゃん!それはあかんて言ったやんか!」

 恵ちゃんが強烈に反応する。


「そういう事言ってられる状況なの?

 少しでも向こうとのレベル差縮め無いと逆に私たちが向こうの経験値になってしまうわよ」


 クラスの特性上もあるし、元々の資質の差もあると思うけど、状況判断に関してはお姉さんの方が的確だ。


「ダンジョンでモンスター倒してじゃダメなんですか?」

「ダンジョンでモンスター倒すってのは、協会の人間からしたらとても目立つ行為よ。

 勇者主義に目をつけられる可能性が上がるのは、今は危険だわ」


 変に勘繰られたら、処理されそうだもんな。


「せやけど、裏に入ったら抜け出せんくなる」

「それは今更じゃ無いか?白銀殺したら絶対俺たちはお尋ね者になるだろ?」


「…そうやけど」


「殺しても心が傷まない相手をちゃんと選ぶわ、覚悟を決めたならそこまでしないとアイツらは倒せないわ」


「……」

 恵ちゃんが無言でこっちをジッと見つめてくる。

 背が低いから、上目遣いになるんだよなぁ。


 ちょっと涙ぐんでるし、なかなかグッと来るものもがあるな。


「ちゃんと考えてる?」

 お姉さんがジト目でこっちを見てくる。


「え!あーやりましょう!」

 元々そういう考えが無かったわけじゃないしな。


「なんか、軽いのよね」


「軽くても重くても、結果が同じならそれで良くないですか?」

 シリアスなのは俺には似合わないよ。


 そして、俺たちは善良な探索者から、ただの人殺しになった。


ーある倉庫街ー

時刻は深夜。

ひと気の無い場所に俺たちは潜んでいた。


「ターゲットはあれや」

7人組の男が何やら大きな箱を運んでいた。


「アレは何を運んでるんですか?」

朱里ちゃんが恵ちゃんに聞く。


「人…人だったものやな」

「だったもの?」


「探索者には肉の鮮度を保つスキル持ってるやつがいるんだって」

俺も聞いてた情報を朱里ちゃんに伝える。


「あ、なんか色々察したから、もう説明聞かなくて良いかな」

朱里ちゃんが、しかめっ面をして話を遮った。


「全部違法や、なんなら殺して集めたものもあると思うで」

「探索者も含まれてる?」


「やろな、この国じゃ探索者は死んでもしゃーない思われてるから、一番生体パーツにしやすいんやで、丈夫だし」

「てことは、結構レベル高い?」


「その方がうちらにも都合ええやろ?」

確かに。


「欲しいのは報酬じゃなくて経験値だしな」


「ほな行こか」


倒すのは簡単だった。

どんなに警戒していても、うちのウサギ達には敵わない。


ピノと朱里ちゃんが雷撃で麻痺させて、たかしが範囲火力、あとは恵ちゃんがトドメを刺す。


これで全員に経験値が行き渡る。


「明日はダンジョンかぁ」

ちょっと憂鬱だな。

ダンジョン行くのがあんまり楽しくないって初めてかもしれない。


どうせ殺すなら悪人が良いな、罪悪感をもたないで済むもんな。


お姉さんにその事を伝えたら

『大丈夫じゃない?その辺は勇者主義も居なくなっても騒がれないような奴選んでるみたいだから』

って、返事が来た。


探索者って、悪い奴多いな…。

いや、違うか、悪い奴が手っ取り早く力手に入れるのに、探索者になりやすいのか。


ーダンジョン内ー

「おい、もうスキル使うなんてしねぇからな、経験値稼ぎたいならお前らもあいつら攻撃しろ」

そう言って、白銀はダンジョンにいる別に探索者パーティを指さす。


「……」

俺たちは無言で探索者達を攻撃した。


倉庫街の悪党以上の経験値が入る。


この感覚…麻痺してた方が楽なのかな?

それとも、忘れちゃいけないのかな?


んー、よく分かんないや。

どっちでも良いかぁ。

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