第55話 勇者

 スライムダンジョンから出てきた。


「…っち」

 えぇ!舌打ち!

 振り返ると、苦虫を噛み潰したような顔をしてる光莉ちゃんがいた。


「あいつらしつこい…」

 そう言う光莉ちゃんの視線の先を見ると。


 見るからに態度デカそうな3人組がいた。


 盾職だろうデカい盾を持った男と、いかにも魔法使いという出立ちの女、そして、その真ん中に金色の全身鎧に金色の盾、金色の剣を持った金ピカ戦士が仁王立ちしている。


「お前、俺の聖女をなに連れ回してるんだ?」

 うん、言ってる意味が分からない。


「え?ちゃんとパーティ申請してますけど」


「そーいう問題じゃねぇんだよう!なんで聖女を勝手にパーティ入れてるんだ?って聞いてるだよ!」


「そりゃ、パーティ入れてくれって頼まれたんで」


「テメェ、誰に断ってパーティ入れてんだって聞いてるのが分からないのか!アァン!」


「本人以外に聞く人います?ていうか、どちら様?」


「ハァァ?お前黄金の勇者ヒロキをしらねぇのか?」


「…あれかな?最近見つかった勇者?」


「金ピカダサ」

 光莉ちゃんそれは思っても言っちゃダメだと思う。


「いい噂1つも聞かないんですよね、あの勇者」

「きぃ悪いわぁ」

「死ねばいいのに」

 なんか光莉ちゃんだけ、ギアがひとつ高い感じがする。


「とにかく!俺の聖女だから!さっさと解散しろ!聖女をこちらに引き渡せば今回だけは見逃してやる!」


「え、普通に嫌だけど」

 …

 …

 …

 沈黙が流れた。


「もう一回言ってみろ」


「普通に、嫌、だ、け、ど」


「テンメェェェ!調子こいてんじゃねぇぇぇぞぉぉぉ!」


「あれだよね、どんなに大きい声で脅かしても、手出したら終わりだよね」


「ハッハァ!お前、勇者特権しらねぇな!」


「勇者、特権?」

 思わず首を傾げた。


「国って勇者欲しいやん、せやから他の国から勇者が亡命しやすくする為と自国の勇者取られんように勇者に特権つけて勧誘するねん」


「ふーん」


「あ、でもあの勇者ランクDだからたいした特権持ってないはずです」


「教導願いってのがあるんだよ」

 勝ち誇ったような顔で勇者がそんな事言い出した。


「何?何?」

 みんなに聞いてみる。


「勇者は自分を高める為に教えを乞う権利を持ってるんや、余程の理由がない限りお願いされたら断れん。

 あの人はそれを利用した弱いものイジメをしようとしてる訳やんな」


「え!そんなに強いの?」


「本人は強いと思うとるんちゃうの?」


「ウッザ、マジで死ねばいいのに」

 光莉ちゃんの辛辣が止まらない。


「具体的にはどうするの?」


「どうするんですかね?どうするんですか?」

 朱里ちゃんが勇者に聞いてくれる。


「実践訓練に決まってるだろ!」


「パルの即死は使って良いんですか?」


「良いわけねぇだろ!禁止だ!」


「じゃあ優先権は?」


「そんなもん有るわけねぇだろ」


「あ、それと教導願いはお前だけだからな、他の戦闘職入れるんじゃねぇぞ」


「うん、分かった戦闘職は入れないよ」


「お互いが勝敗を認めないと解除されないルールで良いな?」

 それ多いよね。


「ねぇねぇ、なんで片方じゃダメなの?」

 小声で恵ちゃんに聞いてみた。

「戦闘開始に勝利宣言で終わってしまうからやん」


「あーなるほどその手があったのか」


「お前がどう返事しようが変えねぇけどなぁ!」

 どこから出てくるのか分からないが、とにかく凄い自信だ。


「しょうがない、お手柔らかにお願いします」


「泣いて土下座したら考えてやるよぉ!」

「泣いて土下座したら、勝敗を決めるの?」


「決めるんじゃねぇ、考えてやる、だぁ!」


「じゃあ泣いて土下座するまでは考えもしないんだね」


「そういう事だな!さっさと這いつくばって媚びろや!」


 泣いて土下座しないなら、勝敗とか考えなくていいんだ。

 そっかー、そっかー。

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