第30話 動物園

 サファリパークのダンジョンにやってきた。


「おはようございます!」

 朱里ちゃんがすでに居た。

 やる気が空回りしないといいけど。


「あの!私調べたんですけど!ここはボスモンスター倒したら1時間後にリポップ、しかも最奥の何処かにランダムな場所に出るから同じ所とは限らないそうです!」


「あ、うん」


「それで有力な場所が3箇所あって!3人で分散して待機して出たらそこに集まるってどうですか?」


「いいアイディアだけど、どうやって連絡する?」


「事務所に連絡用のレシーバーあるはずですよ」


 …知らなかった。


「おはようさんですー」

「あ、恵ちゃん今日の作戦なんだけどね」


 分散待機作戦開始だ!


「はい、じゃあレシーバーとコレがレンタル票。帰る時返してね。ちなみに発信機になってるから、ダンジョンで遭難しても安心よ」

 安心、ではない。


 作戦としては、まずボス倒して、そうしたらパルと朱里ちゃん、ドンと恵ちゃん、俺とノバに分かれて出やすいって言われてる場所を3ヶ所抑える。


 見つかったらレシーバーで連絡、みんなでそこに集合。


 これを繰り返す。


 よし!完璧だ!


 4時間後


「しんどい!」


 テイマーをする人自体が少ないせいもあって、ボス戦自体は順調にこなせている。


 ただ、移動中に徘徊しているモンスターに会ってしまうせいで、思ったより集合に時間がかかる。


 集合できてないうちは少人数でボスと対峙しないとならない。


 トランシーバーで恵ちゃんに連絡を取る。

「もうさ、バラバラで行動するの大変だからさ、みんなで行動しない?

 これ一緒でもあんまり変わらなく…あ、ごめん、ちょっと後から連絡するね、1回切るよ」


 前から人影が2つ近づいてくる。


 浅黒い女子プロレスラーみたいな二人組。


 戦乙女とかいう乱暴者だ。


「こんな所で会うとか奇遇やな」

「…そうですね」


「オーブ売りいや」

「えーどうしようかなー」


「うちらは力づくでもええんやで」


「え!そんな事したら訴えますよ?」


「そん時は2度とダンジョンから出る事無いから訴えられんよ」


「ここは法治国家の日本だよ?」


「その日本は力のある探索者に世界一甘い国なんやで」

 ずっと黙って居たもう1人すっと前に出て来た。

 双子なんだろうな、見た目がそっくりだ。


「探索者はね、現行の軍事力を覆し得る存在なの、だから力のある探索者を日本は囲いたいのよ、だから結果を残してる探索者は非常に優遇されるのよ。

 この国はね、探索者の命に値段をつけているのよ、そして貴方の値段はとっても安いのよ。

 分かる?」


「文句があるなら実力つけるしかないんやけど、このままじゃその実力つける前にダンジョンの肥やしになるで」


 双子なのに関西弁と標準語なんだな。


「お前聞いとんのか?」


「え!あ!はい」

 困ったなー、絶対かないそうも無いのに、絶対こいつらにやりたく無いって思ってしまう。


「オーブよこすやんな?」

「いやー…ゴフッ!」

 一瞬で間合い詰められて、そのまま腹にパンチ食らった。


「言うたやろ、この国の探索者は強けりゃ何してもええんやで」

 そう言って蹲ってる俺を蹴り飛ばした。


 まいったなぁ、頭ではすぐに渡してしまう方が良いって思うのに、気持ちがどうしても抵抗する。

 詰んだ?おれ、詰んだ?


「ええ加減にしいや!ほんまに死にたいんか?」


「死にたいのはお前やん?」

 聞き覚えのある女の子も声が聞こえる。


「な!恵比寿!なんでおんねん!」

「あんたがおるなら、ウチがおってもおかしないやろ」


「くっそーお前も狙っとったか!」

「だったらなんやねん?」


「うちはどうしてもオーブが必要なんや!」

「ならセコイ真似せんとちゃんと取引しいや」


「そいつが金払う言うてんのに売らん言うんやないか!」

「え!だって安くない?」


「あれ以上出せんのやからしゃーないやんか!」

「いやぁ、しゃーない言われてもなぁ」

 サイトで12億オーバー見ちゃったしなぁ。


「ほら、こんなん言うから、もう力づくで行くしかないやろ?」

「ここで手を出す言うならウチが相手になるで」


「こっちは2人おるんやで?」


「…お前…S級舐めとるんか?」

 恵比寿の身体から闇が溢れ出す。


「かっ…はっ…」

 とんでもなく強烈な殺気が辺りに充満する。


 恵比寿はその殺気のほとんどを戦乙女にぶつけてる。

 にもかかわらず、ほんの僅か漏れる殺気だけで俺も震えが止まらなくなる。


「わ、分かった、ここは引く!」

 恵比寿の殺気が霧散した。


 戦乙女が膝をつき肩で息をする。


 タイミングよく朱里ちゃんが合流して来た。

「あ!朱里ちゃん、これ使って」


「え!良いんですか!」


「その代わり、パーティで頑張ってね」


「はい!ありがとうございます!」

 躊躇なく使用する。

 この子、割と図太いよな。


「ちょ!お前!何してくれるんや!」

「いや、もうなんかこうやってごちゃごちゃするの嫌になった。

 もうオーブ無いから付き纏わないでね」


「あ、あ、あ、あぁぁぁ」

 ガックリしてる。

 リアルorzだな。


 茫然自失のまま、戦乙女は帰っていった。


「いやー恵ちゃんのおかげで助かったよ」

「…な、なんのことやん?ウチは恵比寿やで」


「何言ってるの?何も隠して無いじゃない、どこからどう見ても恵ちゃんじゃん」


「ちゃうねん、ウチ、認識阻害と認識誤認のスキルもっとってな、両方使う事で絶対バレへん他人になれるねん!

 せやから恵比寿と恵で同一人物なんて絶対分からへんねん!」

 動揺しすぎて自分で同じ人だって言ってる事に気づいてないな。


「よく分からないけど俺には効かないんじゃないの?

 普通に恵ちゃんに見えるよ」


「えー!えー!どうしよう、お兄さんパーティウチ追放やろか?」

「え?なんで?今回も助かったし、一緒にパーティに居てくれると楽しいし」


「う、う、う、お兄さん大好き!」

 目をウルウルしながら恵ちゃん?恵比寿?がハグしてくれた。

「あー!私も負けません!」

 よく事情が分かってない朱里ちゃんもハグしてくれる。


 いやー今日はいい日だな!

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