第10話 考察
「うーん、今回の進化先も新種なんだけど…うーん」
お姉さんがPCの画面を見ながら唸っている。
「なんかあったのですか?」
「あれから私も色々調べたのよね。
まずはネームドなんだけど、ネームドしたからって進化先が増えるって現象は今までなかったの。
ボスモンスターだからって可能性もあるんだけど、それよりもクラス特性って考えた方がしっくり来るんだよね。
それと、『特殊進化が開放されます。』ってアナウンスも気になる。
『特殊進化先が選択できます』が一般的なアナウンスなのよね。
『テイムモンスターの進化の可能性の拡張』も特殊進化と一緒に考えていたんだけど、それにしては遠回しな表現よね。
『現在テイムしているモンスターの進化先が変更になりました』も増えたとか追加したとかじゃない。
変わったって表現なのよね。
特殊進化が開放って、普通に特殊なモンスターに進化出来るって思ってたけど…これって『特殊進化』が開放されたんじゃないかな。
進化の可能性の拡張も単純に特殊進化先が増えるんじゃなくて、『特殊進化』が強化されているって考えた方がいい気がするの。
だから、増えたり追加したりじゃなくて、変更されているんじゃないかな?」
「えーっと、つまりはどういう事ですか?」
「あなたが連れている特殊進化したモンスターは、既存のモンスターじゃなくてあなたが作り出したユニークモンスターって事よ」
「おお!で、ユニークモンスターってなんですか?」
「ん、もう!この世界に1体しか居ないあなた専用のモンスターって事よ!
それで、この仮説がある程度当たっているなら、この新種のモンスター達はあなたの知識や潜在的なものを活用しているはずなの。
なんか心当たり無い?」
「…無い…とも言い切れない…うー、微妙」
「随分はっきりしないわね」
「新種の名前が俺の好きなフレーズではあるんで、そんな気はするんですけど、どこにでも有るって言えば有るし」
「仮にあなたの知識などが活用されているなら、あなたが見聞を広げれば広げるほど強いモンスターに進化する可能性があるんだから、今からでも良いからとにかくいっぱい知識を詰め込んでみて、デメリット無いんだから、やって損する事はないから」
「でも、ラビットマスターって最弱なクラスなんでしょ?」
「それなんだけど、先代のラビットマスターが弱かったのって常識人だったかもしれないわ」
「やだなぁ、俺が非常識みたいじゃないですか」
「常識あるならボスモンスターテイムしたりしないわ。
そうしたら最初はホーンレスラビットをテイムしてるはず。
それに常識が邪魔をして、ウサギが強くなる事を阻害したのかも。
一般的な動物としてのウサギしか知らなかった可能性もあるし」
「あーじゃあ最初に失敗したのが実は運が良かったパターンですね。
あとはダメ元でとりあえずでもやってみたのが良かったと。
俺グッジョブ!」
「まぁ、結果的にはそういう事ね」
「ところでこの先って俺はどうすれば良いでしょう?」
「うーん、今レベル幾つ?」
「26です」
「良くそこまで上げたわね、どちらにしろここで上げるのは限界だから、近場で行けそうな所探して置いてあげるわ。
新しいダンジョンいく前に、ここの10階のボスモンスターテイムすると良いと思うわ」
「じゃあそうします」
「…もう少し考えてから結論出した方が良くない?」
「考えても結論出ない事に時間かけるの無駄なんで」
「潔いのか、何も考えてないのか、まぁ、あなたがそれで良いならそれで良いけど…」
「じゃあ今日は帰ります!」
「うん、またね」
事務室の中が静寂に包まれる。
全く気配が無かったはずの場所に急に人影が現れた。
「どないやった?」
「あっさりボーパルバニーをテイムして、何事も無かったようにユニークモンスターを有り得ない形で進化させたわ」
「なら当たりやったんだ」
「そうね、このアイテムが本物だったのかもね」
そう言って、干からびた猿の手のような物をバッグから持ち出した。
「せやけど、願いが叶えばそれ相応の代償を払わなならんのやろ?」
「別に願いが叶うなら、どうなっても良いわ。
恵も協力してくれるんでしょ?」
「うん…せやけど、うちはお姉ちゃんと一緒に暮らせるだけでも幸せなんやけど…」
「ごめんね、どうしても私は許せないのよ、私達の家族をバラバラにしたあいつらを」
「…うん、それがお姉ちゃんの願いなら、ウチも頑張る」
「そういえば、依頼が入ってるわよ」
「表、裏、どっち?」
「表ね、あ!でも、ちょっと頼まれごとしてくれない?」
「ええよ、うちでできる事ならなんでもするよ」
「ごめんね」
「ううん、やっとこうして会えるようになったんやもん、もう離ればなれになりたくないし」
「…ありがとう」
「ほな、行ってくるね」
「うん」
恵比寿の居た場所が黒いシミのようになり、そして消えた。
【後書き】
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