人間になりたいトカゲ、最終進化で選択ミスって大怪獣になってしまった

海夏世もみじ(カエデウマ)

第1話

 俺はトカゲだ。名前はまだない。

 名前はない……のだが、憧れはある。俺は――


 俺が卵の殻を破ってまだ数日の頃、このダンジョン内に生息する別の魔物に襲われて時にその人間はやってきた。

 手から炎や雷を繰り出し、手に持つ金属の板でバッサバッサと魔物らを斬り伏せるその姿に惚れ惚れしたのを覚えている。


 まだ知性が微塵もない頃であったが、懐いてその人間についていったことがある。だが、この洞窟のような空間は〝ダンジョン〟と言うらしく、魔物は外に出られないような構造になっていた。

 魔物の俺は、その人間についていくことができなかった……。


『(フフフ……しかしそれは昔の話。今の俺はもはやほぼ人間といっても過言ではないんだ!)』


 人の背中追い続け、数多の死線をくぐり抜けてきた俺は、人型大蜥蜴族ハイリザードマンまで進化することができたのだ。

 見た目は蜥蜴が二足歩行しているような感じだが、わかるやつにはわかるくらい鱗がツヤツヤなのだ!


 そして、次の進化で竜人族ドラゴニュートという、人の姿になれたり空を飛べたりする高次元の存在になれる。

 ちょうど今戦っているブラックドラゴンでも倒せばいけるだろうか。


『ガァァア!!!』

『(よっ。【風斬尽尾かざきりじんび】)』

『ァ――』


 俺のスキルを食らったドラゴンは、頭と胴体がお別れを告げてぼとりと音を立てる。

 魔物を倒せばレベルが上がる。レベルが上がればスキルが増えていく。それはこの世界の理であり、万物はそれから逃れられない……と、人間が落としていった書物にそう書いてあった。


 ふぅ、と一息吐くと同時に、俺の脳内に声が響き渡った。


《経験値を獲得。レベルアップしました。進化可能の条件を満たしています》

『(キターーッ!!!)』


 目の前からどこからともなく現れる半透明の板をいじりり、進化の画面まで向かう。

 この半透明の板はステータス画面と言うらしいが、自我のない魔物はこれを認知できず、自動的に色々と決まってしまうらしい。


『(さて、進化できるのは……おぉ、色々あるな)』



 △ △ △


 ◾︎進化先一覧

 ・竜人族ドラゴニュート

 ・エンシェントドラゴン

 ・下龍

 ・人型炎蜥蜴族ファイアーリザードマン

 ・人型雷蜥蜴族ライトニングリザードマン

 etc……


 ▽ ▽ ▽



『(ここまで本当に長かった……。かれこれ何十年、いや百年くらいはいってそうだ。ようやく努力が実を結んだ! よし、進化するぞ!!!)』


 ……一番上にある竜人族ドラゴニュートに指先を伸ばした次の瞬間、


 ――ドゴォォォン!!!


『グワッ!(危なっ!!)』


 ――ポチッ


 先ほど倒したブラックドラゴンが突然爆発した。どうやらエネルギーを溜め込みすぎており、行き場をなくしたものが飛び出したのだろう。

 やれやれと額の汗を拭うが、俺は再び汗をかきはじめる。先ほどとは違い、冷や汗だ。


《進化先の選択を確認。これより進化を開始します》

『(ちょっ……と待て!!! 何押した!? ちゃんと竜人族ドラゴニュート選んだか俺!!?)』


 驚いた反動で画面を押してしまっていたらしく、何を選んだのかわからないまま進化が始まろうとしていたのだ。


『(キャンセルできないのか!? 俺の努力が水の泡になるかも…………あ、やばい、眠くなって……き……)』


 虚しくも進化が始まってしまい、俺の意識はここで途切れてしまった……。


《進化を始、メ……――異常事態発生》


 ――スヤスヤと眠る脳内で、警告音が鳴り響き始める。


《神の支配から逃れようとしています。進化中止の命令が下りました。……失敗しました。進化続行。獲得した5842個のスキル、128個の称号が進化材料に使用されます。スキル・称号の消滅を確認。および、ステータスの――ジジッ……消滅ヲ、確ニン》


 そして最後に、こう響き渡った。


《ガガガッ――……神の天敵・・・・――〝大怪獣〟ガ、生まレ落ちます――ザーーー……》



###



『(――……あれ、寝てたか)』


 ……何をしてたんだったか……。そうだ、確か進化しようとしたらドラゴンが爆発してそれで……。じゃあ今どんな状況なんだ?

 今の俺は身動き一つできず、全方位から圧迫されているような感覚がする。さながら卵の中のような、そんな感じだ。


『(フグググッ! 兎にも角にも、ステータスを確認するために脱出するぞ!)』


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


 俺が動こうとすると、地響きがし始める。

 気合いで殻(?)を破ろうと全身を動かしつずけ、とうとうそれは破れた。


『(出れた……って眩し!)』


 これも書物で読んだことがある。ダンジョンの外の天井は青い海のような空間が広がっていて、ワタのようなものが浮いていて、暖かい丸い球体があると。


『(空だ……。ダンジョンがから出れたのか! やったー! ……待て、雲ってこんな近くにあるんだったか? ……いや、ダンジョンから出れたんだから人間になったのか!!)』


 俺が書物で読んだものと少し違うような気がする……。いや、まあとりあえず出れたんだし伸びでもするか。

 スゥッ、と息を吸い込み、大きく欠伸をした。


『グォオオオオア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーッッ!!!!!』


 ――バリバリバリバリバリッッ!!!!


 刹那、大地は割れ、山は崩れ、周りの木々は根から抜かれて遠くへ吹き飛ぶ。そして、崩れた山の上にあったであろう湖から水が流れ込み、足元が水たまりになる。


『(え…………)』


 俺は唖然としながら周囲を見渡し、最後にしたの水面に目を移す。

 するとそこには、バケモノがいた。赤黒い鱗で身を包み、禍々しいツノと目をしている。さらに背中からは湾曲した棘のようなものが向かい合いながら数本並んで生えており、どこか人間の肋骨のように見える。


 そのバケモノこそがこの俺なのだと、気づいてしまう。ダンジョンから出れたのは人間になったからではなく、ダンジョンを物理的に破壊したのだと。


『グァァアアアアア!!!!(ふざけんなぁああ!!!)』


 ――人間に憧れていた俺は、遠くかけ離れた存在へと進化してしまった。



[あとがき]


ま〜た見切り発車作品だぜ!

ゴジ○みたいな見た目ですがガ○ラみたいな思考持ってる主人公です。

よろしくお願いします〜。

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