指摘用 家事代行のアルバイトを始めたら、美少女姉妹に翻弄されまして

@hitto1124

第1話 きっかけ(仮)

 暑い。


 とても暑い。


 とてつもなく暑いのである。


 夏というのは何故こんなにも暑いのか。いっそのこと四季の中から夏を無くして三季に名称を変更すべきではないか。


 よし今から総理大臣になってこの法案(ほうあん)を無理やり通してこよう。

 冬はまだ着込めばいいのでどうにかなる。だが夏は別である。

 いくら薄い生地を着ても、蒸れるし暑さはちっとも和らがない。

 いっそのこと全裸にでもなってしまえばとも思うが、恐らく冷たい牢獄(ろうごく)に入れられるオチだろう。

 いや、冷たい牢獄に入れるのならそれはそれで良いのでは、とそんなおかしな思考に至るくらいに、檜谷 颯(ひのたに はやて)はこの暑さでやられていた。


 「颯は、都内の公立高校に通う高校一年生である。

 とある事情でアパートに一人暮らしであり、高校までは徒歩で登校している。


 顔立ちは整っているが少し長く、目に掛かる前髪のせいでお世辞にも格好いいとは言えない見た目をしているが、颯自身容姿はそこまで気にしていない為特に生活に支障をきたしている訳では無い。おしゃれにも無頓着で、デザインより実用性を重視しているほどだ。

 成績は上の中くらいで、テストも毎回30位以内に入っている。それなりの進学校ではあるので、奮闘しているだろう。


 そんな颯の得意なことは家事である。

 料理は、基本手抜きながらもファミレスとかで出される以上のクオリティのものは作れるし、掃除も、基本的にゴキブリが出ないよう、細かいところまでキッチリ綺麗にしている。風呂場やシンクなどの、カビが生えやすい水場関連は特に注意して掃除をしているし、ケアを怠ったことはない。

 かなり手慣れているし、手先は器用なのかもしれないが、これでも数年前に比べれば家事スキルは格段に上がった方だ。

 

 颯とて、元々家事が得意では無かった。

 早々に両親を亡くし、中学の頃から幼馴染の家に居候していた際、ただでと言うわけにもいかず、無理言って家事の教えを乞いた。

 初めは慣れないことに四苦八苦して、掃除ではバケツをひっくり返したり、使う洗剤を間違えて大変なことになったりした。(流石にアルカリ洗剤と塩素系漂白剤(えんそけいひょうはくざい)を混ぜるようなことはしなかった)

 料理では、何度も指を怪我したり、切った食材の太さや大きさがバラバラになったり、味がしなかったりと、失敗もたくさんした。


 けれども、諦めずに何年も繰り返していけばコツも掴めるようで、気付けば家事が得意になっていた。

 こればかりは、面倒を最後まで見てくれ、教えてくれた幼馴染と、その母親に感謝である。この件に関しては本当に頭が上がらない。」 



 さて、先程にも言ったように現在は夏。


 エアコンのない古めのアパートで、1人大の字になっていた颯は、夏の蒸し暑さに嫌悪感を抱きながらだらだらとしていた。


 現在夏休みに入っており、課題もさっさと終わらせてしまった颯は、やることがなく、ただ蒸し暑い空間でただ過ごすのみになっている。


 得意の家事もこの暑さでは流石にやりたく無い。


 掃除をしたところで、掃除中に出た汗で二度手間になってしまうし、何よりベタベタとしたシャツを着たく無い。

 特に、男子高校生の身体というものは非常に汗をかきやすいらしく、少し動けば脇やら足やらが染みて、異臭を放ち、都度洗濯はしているものの、何度も着ていれば匂いも染みつくのである。


 どこか涼しい所、図書館やスーパーとかに行こうかなと考えているとスマホが突然震え、電話を知らせる着信音が鳴った。


 差出人を確認した颯はすぐさま顔を顰め、電話に出た。



「もしもし、もしかして今日もやれとか言わないよな…?」


『あー…颯、すまん今日も頼むわ』


「ったく、まぁちょうど涼みたかった所だし良いけど、いつも通り飲み物奢りな?」


『さんきゅーな、まじで毎度助かるわ!んじゃ待ってるわ』


「はいよ、すぐ行く」



 電話を切った颯は早速出かける準備をして、部屋を出た。


 外に出ると部屋にいた時よりも焼けるように厚く、太陽の光を受けて反射している地面に、どこか眩しさを覚えた。



「あっちい…」



 やはり部屋に戻るかとも思ったが、この先にあるオアシスのことを考えることにより、なんとか戻りかけた歩を進めることができた。


 最寄りの駅から電車で2駅ほど過ぎて少し歩くとようやくそいつの家に着いた。


 インターホンを鳴らして、家に着いたことを知らせる。



「冬夜(とうや)、来てやったから取り敢えずドア開けてくれ、暑さで死にそうだ」



 少し離れたところから「はーい」と言う声が聞こえ、カチャリという施錠の音が聞こえると共に思いっきりドアを開けて中に入る。



「ふい〜涼しい」


「っと颯、いくら暑いからって貫通する勢いで入ってくるのは辞めてくれ?」


「悪かったな、ただ俺からも一つ言わせてくれ」



 一泊置いて、ここ数分間ずっと思っていたことを告げる。



「いくらなんでも3日で部屋を散らかすのは辞めてくれ、掃除するこっちの身にもなってくれ」



 そう、颯はつい先日にも冬夜の家に来て、掃除を手伝っていた。はずなのだが、今日ここに来てチラリと部屋を見てみれば、また元通りに戻っていたので流石に呆れるというものである。


 望月 冬夜(もちづき とうや)は、颯の親友である。人当たりがとても良く、顔立ちも物凄く整っていて、男女問わず人気がある。


 成績も、颯ほどではないがそれなりに良いのだが、何故か整理整頓だけは苦手なようである。


 その為颯が時々冬夜の家に行っては掃除を手伝っている(ほぼ颯1人で片付けている)のだが、本人は散らかさないようにはできないようだ。


 それでも、流石に申し訳ないと思っているのかジュースやら飯やら奢ってくれるので、それで手を打っている。


 何より颯自身、掃除は好きなので、手伝っているという感じだ。



「それより今日の気温いくつなんだ?」


「34℃だとさ。ほんとよく来たよなこの暑さで」


「その気温の中呼んだのはどこの誰だか」


「ごめんて」


「まぁでもお前の家冷房あるからな、流石にあのままアパートいたら俺が茹でダコになる」


「まぁあのアパート冷房付いてないもんな、それに古いし夏場は地獄だろ」


「全くだ、早々に課題は図書館で終わらせたが、アパートでやろうとすると汗で紙がしわくちゃになって大変なことになる。それに夏休み明けもテストあるし、多少勉強したいんだがな、なんとも不便なもんだ」


「まって課題の話をしないでくれ、せっかく夏休みを謳歌してたのに思い出したくない」


「いや学生の本分は勉強だろう?流石に課題は終わらせとけよ、レポートもあるんだし貯めてたら詰むぞ」


「それは分かってるけどさぁ、せっかく高校の夏休みなんだからもっと青春っぽいことしたいじゃん」


「分からなくはないが、でも貯めてた結果最終日に助けを求められても答えんからな?」



そう言うと、隣で「うぐっ」という声が聞こえた。

どうやら図星だったようだ。全く、成績は良いのに勿体ないと言うものだ。


 そんなこんなで雑談を交わしながら床に落ちている衣類やらゴミやらを片付けていく。


 掃除の基本は上から下になのだが、この散らかりようはまず足場確保しないといけない。

 3日でここまで散らかる理由は恐らく夏休みに入ったからだろう。しかし、ずっと続くのも疲れるので流石にそろそろどうにかしてほしい所である。


 いったい何をしたらここまで散らかるのか、地面にはペットボトルや漫画雑誌、プリント類で溢れていた。


 冬夜自身出したらそのままにする癖があるようで、特に夏休みは家にいる時間が長い分そのままにする量が増えたのだろう。

 いくら掃除好きとはいえ、大きい掃除をする手間を掛けるくらいならこまめに掃除をしてほしいものである。


 大方片づけ終わり、三日前に掃除した後と大差ないぐらいまでは綺麗になった。

 後は冬夜がこのまま散らかさないことを祈るのみである。


 コップに注がれたお茶を飲みながら掃除による多少の疲れに浸っていると、



「そういえば颯ってこんだけ掃除上手いんだから家事代行とかのバイトしても普通にやれそうな気がするんだけど」



 確かに家事代行をやってみようと思ったことは何度かあった。

 しかし、まとまった時間がなかなか取れず踏みとどまっていたのである。



「まぁ確かにありなんだけどさ、なかなか時間取れないんだよな。一応奨学金のために成績は落としたくないしその分勉強時間が減るからさ」


「でもこうして俺の部屋の掃除手伝ってくれてるじゃん?それにこうして飯とかジュース奢るよりちゃんと依頼として受けてお金もらった方がいいと思うんだよな」


「だったら今度からジュースとかじゃなくてちゃんとお金で払ってもらおうかな」


「ちょっと待ってくれそれだけは勘弁...」


「冗談だ。まぁでも丁度夏休みだしいい機会だからやってみようかな」


「お、いいんじゃねえか?何事も経験っていうしな」


「そんなことよりお前は出したらしまう癖付けような?さすがにまた三日以内とかは面倒見切れないし、ちゃんと家事代行のバイト始めたらお前の部屋掃除する時間取れないからな?」


「なんだろう、今お前にこの提案しなきゃよかったと思ってる」


「頑張って整理整頓できるようになろうな?」



 っと、とりあえず親指を立てておいた。



 その後少し雑談に花を咲かせ、冬夜の家の冷蔵庫にあるもので簡易的な昼食を取り、飲み物を奢って貰うため、外に出た。

 昼過ぎの日差しは、出かけ始めた頃よりも更に眩しく、気温も上がっていて、更に暑くなっていた。

 流石にこれだけ日差しが強ければ、帽子が欲しい所である。



「サンキューな、このまま放置してたら夏休み中に掃除系番組出れたわ」


「冗談じゃ済まなさそうだから辞めてくれ。あと彼女が見たら泣くだろ、彼氏の家が汚部屋なんて嫌だろうしな」


「まぁでもそんな俺も好きとか言ってくれるんだから可愛いもんだぜ」


「このバカップルが……」



 そう、冬夜には彼女が居る。なんでも中学の頃から付き合っているそうで、それなりに関係は長いようだ。

 彼女は柏木 咲季(かしわぎ さき)で、ショートヘアでテンションが高めの元気っ娘である。

 冬夜と咲希は、クラスは違うものの休み時間や放課後になるとほぼ一緒にいていちゃいちゃしているので、見てるこっちが胸焼けしそうである。



「颯も彼女作ると人生変わるぞ?今まで見えてた景色が全部変わるんだから」


「生憎と暫くは相手も作る予定もない」


「そんなこと言って実際彼女できたら物凄い可愛がりそうなんだけどなお前」


「ちょっとその口塞いでやろうか?」


「口で?」


「やかましいわ」


「まぁ冗談だけどな、でも彼女は良いもんだぜ?」


「はいはいっと、そろそろ着くぞ?」



 颯達は今公園に向かっていた。冬夜の家から一番近くの自販機が公園に置いてあり、ベンチもあるので買うには丁度いい場所とも言える。



「にしてもここの自販機だけやけに種類多いよな」


「確かに。でも一昔前は子供がいっぱい遊んでたからじゃないか?」


「まぁ相当売れたんだろうな、今となってはあまり人来ねえけどな」


「そうだなー、今はほとんど家でゲームしてる子供が多いって聞くしな」


「それは冬夜もだろ…」


「それより颯は何飲む?俺はサイダー飲むけど」


「んじゃブラック缶コーヒーで」


「相変わらず渋いチョイスだな」


「うるせ、別にいいだろ」


「はいはい仰せのままに」



 ちょっと腹立つところではあるが、なんだかんだ奢ってくれるのでこれ以上は何も言わないでおいた。

 ピッという音と共に落ちてきた缶コーヒーを持って近くのベンチに腰掛ける。



「あめぇ…」



 自販機に置いてある缶コーヒーはなぜほんのりと甘いのか、ブラックを名乗るならゼロシュガーで居て欲しいものである。

 チラリと横を見れば、プハぁと炭酸独特の爽快感に浸っている冬夜が居た。

 ゴクゴクと音を立てて飲んでいるあたり、暫くは話すこともないだろう。と、ふとラベルに目を落とした。



「ってこれ微糖じゃねえか…」



 どうやら、冬夜は微糖の方を押したようである。



 それから数日が経過した。


 あの後親友と軽く雑談を交わした後公園で別れて部屋に帰宅した颯は早速、スマホで家事代行のアルバイトに申し込んでいた。

 色々手続きが必要なのかと思っていたが、学生証と5分程度の面接だけだった為、意外とすぐに内定を貰えた。ちなみに、人手が足りないらしいのは、ここだけの話である。


 3日ほどの研修期間を終えて、颯は、周りの家より明らかに大きい家の前に立っていた。

 研修期間にも一応先輩と一緒に仕事はしたのだが、それを除けば、今回が初仕事だ。

 だがしかし、今颯の前に見える家は、立派すぎると言える豪邸であり、思わず何度も依頼先の住所を確認していた。



「初バイトでこんな豪邸…俺で大丈夫なのかな…いや、そんなこと言ってられないか・・・」

 そんなことを呟きつつ心をできるだけ落ち着かせる。



 何度か深呼吸した後、緊張と不安に狩られながら、インターホンを鳴らした。



「はーい、どちら様でしょうか」



インターホン越しに、ガラスのように透き通った綺麗な声が、耳をそっと撫でた。

そう、例えるのならば、

───まるで純正調で調律された繊細なピアノの音色───

───あるいは静寂閑雅な森の中でかすかに聞こえる小川のせせらぎ───

そんな美しい声が、颯の耳を支配した。



「家事代行サービスで参りました、檜谷と言います。篠崎蒼依(しのさきあおい)様のお宅で宜しかったでしょうか」


「はい、大丈夫です。今ドアを開けるので少し待っていてください」



 と言われたため、待っている間に颯は再度身だしなみを確認した。

 はやる気持ちを抑えながら待つこと数十秒。施錠の音が聞こえたとともにドアが開き、中から顔を覗かせた。



「すみません、お待たせしてしまって」



 声の主に目を向けると、颯は思わず固まってしまった。


 腰下まで伸びたカスタード色のサラサラロングヘアー、丁寧に手入れをしているのか白くすべすべとしている肌、白のTシャツにクリーム色のカーディガン、少し長めのスカートを履いている。

 少し童顔に近いが凛とした顔立ちで、サファイア色の瞳も合わさった、ザ・清楚系美少女だった。



※{「」の中身は改良予定}

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