異形頭たちの休息時間
星山藍華
Day01 夕涼み
「あっちー……。もうやってらんねー」
ノートパソコン頭の犀さんは全開で作動しているハンディーファンを片手に、行きつけの居酒屋へ入る。
「大将、まだハッピーアワーやってる?」
「あと一〇分だけな」
「んじゃ急速充電ケーブル。アダプタのアルコール増し増しでよろしく」
適当に空いているカウンター席に立ち、ネクタイを外し、上着を脱ぎ、それらを背もたれに掛ける。バッグを椅子の荷物かごに入れ、着席する。
「はいよ。ケーブルとアダプタ。あと冷却シート」
「気が利くね、大将。聞いてくれよ、今日俺の上司がさー……」
犀さんは手際よくケーブルとアダプタを繋いで、頭の側面にある差し込み口に接続する。いつものように仕事の愚痴をしゃもじ頭の大将に言い聞かせては、アルコール増し増しの電力とキンキンに冷えた冷却シートで熱暴走寸前の機体を冷やす。なんとも迷惑な客だ、大将は思ったことだろう。しかし大将は淡々とサービスを提供する。
「ちーっす大将。あ、犀さんじゃないですかー。こんなところで奇遇っすねー」
礼儀も知らないような態度で犀さんに話しかけてきたのは、 スマートフォン頭の安藤さん。犀さんとは同じ会社の同僚で、犀さんは開発部、安藤さんは営業部。しかも犀さんの担当営業が安藤さんなので、たまに連絡を取り合っている。加えてどの端末でも遊べるソーシャルゲームで遊ぶ仲でもある。
安藤さんも犀さんの隣に座り、同じものを注文する。
「お、安藤さんか。今上がり?」
「もうやってらんねーっすよー。営業部長に『大学生ノリの言葉遣いは止めろ』って言われて、ちょっと凹み気味っす」
「はは、俺にもその口振りじゃ、一生直らなさそうだな。あと、スーツよりパーカーの方が似合いそうだし」
「ちょ、犀さんまでー!」
大将はケーブルとアダプタ、冷却シートを安藤さんの前に置く。安藤さんは顔の下部にある差し込み口にケーブルを差し込み、迸る電流の痺れに快感を覚える。
「いい差し込みっぷりだねー。そうだ、今日のイベント、一緒にやらないか?」
「お、いいっすねー」
「――注文は?」
犀さんと安藤さんがゲームを起動する前に、大将は注文を催促する。ゲームに熱中されると二人は長い時間居座りかねない。
「あ、じゃあ、焼き鳥一〇本セット。USBメモリで」
「俺はキムチと芋チーズコロッケ、二次元コードでよろしくー」
「はいよ」
注文が終わると二人はゲームにログインして、イベント限定のお使いクエスト、討伐、採取を次々とこなしていく。一通り終わると、二人はアルコール増し増しのアダプタをお代わりし、ゲームからログアウトして雑談を楽しむ。
夜が賑やかになってきたところで、安藤さんは明日も早いから、と勘定し、気分良く居酒屋を後にした。犀さんは〆に酔い覚ましのトマトジュースとつまみのバナナチップスUSBメモリを差し込んで一人の時間を嗜む。
「澄ました顔しやがって。ここはバーじゃねんだよ」
「大人の夕涼みだよ、大将」
「もう夜だけどな」
「細かいことはいいんだよ」
犀さんは一人きりの時間をスリープモードで過ごし、意識があるうちに勘定を済ませ、家に帰っていった。
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます