第19話 親友


◇◇◇


「スレン様。俺にはやっぱり理解が出来ないのです。あなたに好きな人が出来るなんて。」


こいつ...人を信用する気はないのだろうか。心の中で、はぁ、とため息をつく。


「そんなに信用出来ないなら、どうにかして証明してやろうか?」


僕のこの発言を聞いたカイルはにやりと微笑んだ。これは.....絶対に発言を間違えたな。

カイルは僕が5歳だった頃から、補佐としてずっとそばに居た。歳はカイルの方がひとつ上だが、兄弟のように育てられた僕たちは、今ではこのような関係なのだ。公爵家の中でもトップクラスの身分の僕は友達と呼べる人がいなかった。だからこいつとは身分など気にせず話せるのだ。だがそのせいで、こいつは僕がどんな返事をするのかある程度予想できる。誘導なんかもできる。つまり今の僕の発言も、もしかしたらこいつの予想どうりだったのかもしれない。


その後カイルに言われたのは、「リトリシエに、旦那様と呼んでもらえ」というものだった。それでそのまま距離を縮めてこい、と。これは証明しろとかではなくて、ただの背中を押してくれる友人みたいだが.....?そう思ったが、彼はしてやったという顔をしていたから、何も言えなかった。


◇◇◇


僕はさっき彼女に言い放った言葉を思い出す。


『僕たちは婚約していますから、当たり前ですよ。』


いや、これ完全に、距離縮めるどころか距離ができてしまってるよな??完全にミスってないか??そう思い、すぐに言葉を付け足した。


「それと、スレン様、という呼び方は距離を感じて寂しいです。せめて旦那様、とかどうでしょう。」


よし、頑張ったぞ僕。というか、旦那様ってなんなんだ.....?恋人同士とかなら名前呼びが普通なのでは.....?旦那様というのは、結婚してから呼び合うような.......。そう思った瞬間自分の顔が熱くなった。僕今めちゃめちゃ恥ずかしいこと言ってるな.......!

発言内容が恥ずかしすぎて、照れ隠しの為に彼女の顎を掬い顔を近づけるという謎行動をしてしまったが、まぁ全部恥ずかしすぎるから、今なら何をしても恥ずかしいだろう。だから大丈夫だ。


彼女に触れると、当然のように彼女の思考が僕の心に流れ込んだ。


(近いです近いですっっ!!)


その声を聞いた瞬間、はっとした。

確かに額が触れそうで、僕の前髪は彼女の顔にかかっている。これ、めちゃめちゃ近いのでは...?少しずつ冷静になり始め、そして今の状況を理解した。


めちゃめちゃまずい。



―――――――――


「おかえりなさーいスレン様〜.......え?顔真っ赤ですよ?」


「うるさい」


執務室兼自室に戻ると、カイルがにやにやしながら出迎えてくれた。その後も、何があったのか聞いてくる。僕が自白するまで話しかけようとするみたいだが、流石にさっきの内容をこいつに話すほど羞恥心がないわけではない。というか、僕は人より羞恥心が強い人間だと思う。尚更こいつには話せないな.....。


「旦那様と呼んでもらえそうです?」


「お前なんでそんなに楽しそうなんだよ」


「だって、スレン様が人に心を開くなんて、驚きなんですよ。そんな顔も初めて見ましたし。」


そう言いながら彼はニヤリとこちらを見てきた。僕の顔は、さっきのリトリシエとの会話を思い出す度に火照る。からかってくるが、それも彼なりの優しさなのだろう。そう思うと、本当にいい友を持ったなとしみじみと感じた。


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