普通
ほのかな
単話
(本文に出る高理解力症候群は架空の症状です)
高理解力症候群。それは近年少しずつ生まれもった者が出てきた、名前の通り理解力が高い脳の病気。理解力が高いのは病気ではなく才能や長所ではないか?と思う人もいると思う。だがこれに該当する人はその力があまりにも高すぎて、苦しんでしまっている。大きすぎるものというのは何だっていいことにはならないことが多い。例えば筋トレしまくって逞しい体と力を得た場合。とても便利だと思う。外見だっていいし、喧嘩を売られることもそうそう無い。仮に喧嘩になっても火の粉を払うかのように軽くあしらえる。だがこれがファンタジーのような力になってしまうと別だ。喧嘩で便利なのは変わらないだろうが、手加減したのに殺ちゃったとかなりかねない。細かいところを追求すれば、いちいち物に触れるのに気を使わなければならなかったり、生き物が相手ならもう触れることもできないかもしれない。能力が高けりゃいいというわけでもないのだ。現に高理解力症候群によるトラブルはすでにいくつもある。職場の上司が陰で汚職行為をしているのをすぐさま暴いてしまったり、犯罪行為をしようとした人をすぐに感知して取り押さえてしまったりなどある。一見社会に貢献できていることばかりに見えるが、これらの処理に関してうまくいかないことが多い。最初の汚職に関しては、調べた結果確かに怪しい状況証拠は出たのだが、警察が逮捕に踏み切る決定的なものはどうしても出なかった。いや、まだ無かったと言うべきか。そいつは後に目をつけられてた警察に逮捕されたが、それは件の通報の後に犯人が決定的な物を残したからだ。そう。彼らは理解できてしまうのが早すぎる。故に後から見て「あの時動くのは早すぎたよな」なんてことになることが多い。それにこの事件。犯人が逮捕されたのは良かったが、きっかけとなった通報した社員は会社にとって邪魔とされて解雇された。そしてこういった実例のせいで、高理解力症候群の人材は要らぬ事に気づきやすいからと、雇用を避ける企業が多い。また、実生活でも弊害は多い。ある女性は、近所に住むとある男性を目にした途端急に恐怖を感じ、警察に通報してしまった。その時はまたしても特に何もないので男性は捕まらなかったが、後の調べで家庭内暴力を行なっていたことが判明した。だがその女性の行動といえば一目見ただけの人をいきなり通報するという気狂いにすぎないもの。男が逮捕されるまで彼女は周りからいわれない言葉ばかり投げかけられ、事件が解決した後も人を見るのが怖いからとほとんど外に出れない。このように便利というより本人含めて色々な人に迷惑をかけることが多く、定期的に頭をボーっとさせる薬を処方して、常人に近い能力で生活することが推奨されている。そしてその薬をたった今僕は受け取った。
「一日の朝昼晩と夕食後に一錠ずつお飲みください。もしも頭が落ち着かないという場合は、一日に一錠までは多く飲んで大丈夫です」
笑顔の薬剤師さんから説明を受け、そのまま普通にお金を払い、何も言わずに薬局から出た。あの薬剤師さん、笑顔だったけど内心は怖がってたんだろうな。他の患者には最近の体調を
聞いてたのに、僕の時だけ説明だけしてさっさと薬を渡してた。よほど帰ってほしかったのだろう。
「この薬飲めば、こんな今の自分とさよならできるわけか」
この病気に関して診察を受けたのはつい最近だ。昔から頭がいい・・・ではなく頭が良すぎると可哀想に見られることが多かった。一回くらい普通に褒めてほしかったが、そんな日などついぞこなかった。そして可能性に気付いたのは職場の上司。余計なことばかり理解できてしまい、精神的に虚弱になっていた僕に、もしかしたらと診察のパンフレットを渡してくれたのだ。そしてそれが的中。今日から毎日薬の日々だ。
「普通・・・か」
今回の病気を考えるなら、僕は普通じゃない人として生きてきたことになる。確かに温度差は感じていた。僕が気になって悲しくなってしまった事を周りや両親は理解できなかったり、読んだりする漫画は大抵誰かと被ることはほぼほぼ無かった。それは苦しいし、確かに寂しい。自分だけ世界を区切られて追放されたかのような気分だった。でもそれも今日でおしまい。普通の中に僕もようやく入れる。さようなら苦しかった自分。さようなら異常だった自分。さようなら。
「神様」
人の住処から遠く離れたどこか。神様とその部下のような存在が話をしていた。
「先日、人類に促進をもたらすために、産まれゆく人々の一部の理解力を向上させた件に関しまして、現在の経過を報告いたします。」
神様と呼ばれた存在は、静かにこくりと頷く。
「うむ。頼む」
そして部下は何とも呆れた顔で報告を始めた。
「一時期は優れた人々の活躍によって色々な事件の解決に貢献できたりと素晴らしい功績が出たのですが・・・結局普通の人も、向上させた人も、その能力を迷惑としか感じず・・・神様与えた能力を抑えるような薬を使うようになってしまいました。またこんな結果です。
「ううむ・・・またか」
神様は頭に手をやり、彼もため息をついて呆れてしまった。
「なぜ人は普通から進化しようとしないのだ。数多の可能性があるというのに。なんと勿体ないことか」
「さあ・・・やはり我々にはどうしようもないのでしょうか?」
神様はまたため息をついたが、弱音を吐くようにはいかないようで、
「だが我々が任された区分を投げ出すわけにもいかない。次の手を考えよう」
「承知いたしました」
どうやらあの薬はもうしばらくでお役御免になりそうである。だがまた人間に変化が起きた時。また私達は普通に戻そうと努力してしまうのだろうか。それとも、人の言う普通をやめる日が来るのだろうか。
普通 ほのかな @honohonokana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
鬱小説家という生き物/ほのかな
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 10話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます