現実にありそうでなさそうな話
Mila Holly
とある少女の夢
私はいつも夢を見る。夢くらい、誰だって人生に一度は見るだろうと思う。
眠るときに見る、夢。
幸せな夢があれば、悪夢もあり、知らない場所にいる夢を見ることがあれば、知っている場所の夢も見る。
知らない場所の夢?例えば…そう。知っているようで、知らない、遊園地やショッピングモール、のどかな街に海岸、そして、学校。
夢の中の自分や友達は、地図が無くとも、ここがどこなのか、何があるのか、全て知っている。
けれど頭の中では、「ここはどこ?」と考えてしまう。もしかしたら、この感覚は私だけで、他の人は違うかもしれないけれど。
以前、友達から夢の話を聞いたことがある。
例えば、こんな話。
夢の中で目が覚めると、知らない塾にいた。同じ年代くらいの人たちがたくさんいて、長い間、ずっと模試を受けさせられた。そして、模試が終わったと思ったら目が覚めた。
こんな夢を聞いたときには、哀れに思った。その日は、現実は平日で、そして運悪く、模試の日でもあったのだから。
それから、まだ私が幼い頃、母親がつけていた日記をまだ覚えている。その日記は、私の成長記録も所々に書いてあった。今はどこにあるのか分からない。いつか大掃除で埃を被ってまた私の前に現れるかもしれない。
その日記には、確か、母の几帳面な字で、こう書いてあった。
「娘が初めて自分の夢の話をしてくれた。娘が一人で船に乗ってしまって、私たちはそのまま車で帰ってしまったらしい。」
いつの頃の話か、もう正確には分からない。けれど、その夢はまだはっきりと記憶に残っている。
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まだ幼稚園に入る前の話だ。
家族でドライブして、港に行ったのだ。
当時の私は、港の様子なんて知らなかったのだろう。ただ広い野原に、船が一艘。それだけだ。
あれが港だったのかと考え始めたのは、小学生の頃、ふとこの夢を思い出した時だ。
あれがなんなのか、理解するには当時の私にはまだ早すぎた。
船に乗って、皆でどこかへ行くつもりだったのだろうか。
気がつくと、一人で船に乗ってしまって、私を置いて出発した車に向かって、私は叫んでいた。
「おいていかないで」
そこで目が覚めて、隣で寝ていた母を、私は泣きながら叩き起こした。
まだあの頃は夢と現実の区別が曖昧だったと思う。いつから夢を夢と認識したのかは、定かではないけれど。
「どうしたの?」と笑う母に、ただ泣きながら夢で見たこと──当時の私からすればさっきまでの出来事──を話していたのを覚えている。
母は、そんな私を抱き締めてくれたのだ。
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そんな出来事も、もう気が遠くなるほど昔の話だ。けれど、母は、昨日のことのように思い出すのだろうか。
いつからか、夢は夢だと理解した。
いつからか、夢を見ただけで母を起こすようなことはしなくなった。
いつからか、母の隣で寝ることもなくなった。
だけど、今でも泣いてしまうような夢を見る。昔から、数年間の空白を空けては見る、あの夢。
あの夢が、何を意味しているのか、私には分からない。ただ言えるのは、その夢を最初に見たのは、小学校に上がる直前くらいのこと。
それから、小学生になってから。
それと、高校生の夏。
あの夢を、どうしてずっと覚えているのだろう。口外しなくとも、書かなくとも。
「夢を覚えている」?私からすると、少し違う覚え方かもしれないが、要は本当にあったことのように、思い出せるのだ。
感覚としては──昔の事を思い出す感覚に近いだろうか。鮮明に、事細かには覚えていないけれど、大体の内容は思い出せる、あの感覚。
その夢は、年齢を重ねる毎に、段々鮮明になっていく。語彙が増えたからなのだろうか。単に成長したからなのだろうか。
それは分からない。
もやがかかっていたところが鮮明になったり、文字が読めるようになったり、音が聴こえるようになったり。
ただ、夢の中の自分自身の行動はずっと同じで、何も変わることはない。
そして、夢の内容は意味不明だ。場所も飛びに飛び、時間帯も夜から急に昼になる。
ところで、夢から覚めた後の感覚は、誰もが覚えているものなのだろうか。私は平日でも休日でも、家を出る時刻ギリギリに起きたときには、とても焦る。焦りにより、夢の内容が吹き飛び、目覚めがどうこうというものは二の次になる。
どれだけ睡眠不足でも、どれだけ眠くても、「遅刻」という二文字を聞くだけで、体と脳が一気に目覚める。もはや一種の能力かもしれない。
話があまりにも飛んでしまった。何を話そうとしていたのだろう。そうだ、目覚める感覚だ。
例の夢は、起きると必ず泣いている。自我とは関係なく。そして、部屋がいつもより静かに感じるのだ。
その夢を、私は、誰かに読まれることが無くとも、ここに残そうと思う。
まだ覚えているうちに。
忘れてしまう前に。
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その夢を見る日には、決まって深い深い眠りに落ちる感覚になる。布団に沈んでいく。まるで体が海の底へ沈むような感覚で。
気がつくと、目の前には空港のような施設が広がっている。天井には、壊れかけの蛍光灯。今にも消えそうな明かりを灯している。
その明かりは消えることはない。そして、明るくなることもない。
最初はガラス張りの入口にいるのだが、歩いていると、荷物点検所にたどり着く。
荷物点検所と言っても、動かないベルトコンベアが一つ。向こうへ上り坂になっていて、ベルトコンベアが置いてあるその先は、真っ暗で何も見えない。実際、点検所なのか若干怪しい。
その場所から右に目をやると、一際目立つ部屋がある。ミラーボールを回しているような明かりが、外まで漏れている。明るい。
色とりどりの光が、くるくる回っているのが見える。
その部屋の入口には扉があって、開いている。そこから見えるのは、本当に幼い子供の影が二つ。両手を上げて踊っているのだ。
これは成長してから気づいたことだが、その部屋では外にも聴こえるくらいの音量で、音楽がなっていて、影はそのリズムに合わせて踊っているらしい。
最初こそ怖かったのだが、次第に見てみたいという好奇心が沸いてくる。同時に、絶対に扉の中へ入ってはいけないという意識もある。
どちらが現実の意識で、どちらが夢の意識なのかは分からない。
その扉の手前に、左に曲がる通路があって、いつもそこで曲がるのである。その先は明かり一つ無い真っ暗な世界が広がっている。
その道を、私はただ進む。別に何を思うわけでもなく、ただ進むのだ。
その先が明るいことを、どこかで知っているのだろう。
暗い道を進むと、急にひらけたところに出る。
まるで瞬間移動したかのように。
相変わらず暗いのだが、周囲の様子は何となく分かる。松明があるのかと思うくらい、薄暗い。
それから、目の前に大きな障子がいくつかあるのだ。
暗いと思っていると、急に辺りは明るくなる。勝手に障子が開き、外が見える。
青空の下、赤い葉をつけた木が生い茂って、綺麗なのである。あれは紅葉だと、私は勝手に思っている。
気がつくと、目の前には旅館の女将さんのような女性が一人、立っている。
その人をみると、何故か
「嗚呼自分は死んだのだ」
と悟る。
それが当たり前かのように、何の疑問もなく、ただ死んだのだなという気持ちだけが出てくる。
そして、女将さんの隣には、白い犬がいる。
これがまあ大人しくて、首に白と赤の──現代のベルトのような首輪ではない何か──を身に付けている。
そして、幼い頃は分からなかったが、この犬には名前がある。
姫若月彦命
──だったと思う。何せ、最後にこの夢を見たのが数年前なのだ。目が覚めたとき、既におぼろげだったあの子の名前を、今さらはっきりとは思い出せない。
夢の中では確実に読み方と漢字が分かっていたのに、覚めたらすっかり分からなくなってしまった。この字面的に、昔の名前であることは間違いないだろう。
その犬は、大きくて、しゃがむと丁度目線が同じくらいになる。その目線になって、私は、犬を撫でる。撫でながら、意識が遠くなっていく。
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そこでいつも目が覚める。
いつも泣いている。
でも悪夢だとは思わない。良い夢とも思わない。
あの夢を、また見られるだろうか。
あの犬に、また出会えるだろうか。
そんな期待を込めて、あの犬は、「ひーちゃん」と呼ぶことにしている。「姫」の「ひ」である。
あの夢をまた見る頃には、私は、どのくらい成長しているのだろうか。もしかしたら、死ぬまで見ないかもしれない。
私の見る、夢の話は、これで終わり。
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あとがき
初めまして、Mila Hollyと申します。
今回は、短編です。
少女の夢、いかがでしたか?
今回は、眠るときに見る「夢」をテーマに書いてみましたが、いつか叶える「夢」をテーマに書いてみたいです。
気まぐれに細々と書いていきます。
よろしくお願いいたします。
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