第2話


 SE///雨の降る音


 「はいそれでは、一緒にその帰りましょうかねぇ、エヘヘ」


 SE///傘を開く音


 貴方は傘を開くと妙に照れくさげにしている彼女よりも先に前に出て「どうぞ」と傘を傾けます。


「う、なんだかジェントルマン。いやはやそれでは、おじゃましま〜す」


 なんだか玄関に上がるような感じで彼女は傘に入ります。


 SE///傘に当たる雨粒の音


「うわぁ、意外と大きいんですね〜」


 彼女が貴方を見上げながらニヘラとした笑いを見せるので「まぁ、そっちよりは背は高い」と思ったよりも近づいてる顔の距離を意識しないよう照れ隠しに答えると、彼女はキョトンとした顔をしました。


「ぇ……あ〜はは、違いますよ背の話じゃなくて傘が大きいなて話ですよ。大きいからそちらも濡れなくて一安心かなぁって、ほら、わたしの方に気持ち傾けてるじゃないですか」


 早とちりをしてしまったと貴方は「ごめん」と謝ると彼女は


「いやいや謝る意味はよくわからないですよ。わたしも最初に傘が大きいんだって言えばよかったなぁ。いやはや、お互いさまという事でここは喧嘩両成敗にて一件落着と」


 別に喧嘩したわけでも無いじゃないと言うと


「あらま、本当ですね。アハハ、どこから出たんでしょうね喧嘩両成敗って。エヘヘ」


 彼女が笑うと貴方も釣られて笑い雨の中を歩き出します。


 SE///傘に当たる雨粒の音


「しかし、こうやって二人で歩くとなんですかね、ほら、ええと」


 貴方は「恋人同士」という言葉が頭に浮かびますが流石にそれは自意識が過剰すぎると考えを打ち消していると彼女が言います。


「あれだ、散歩している犬と飼い主みたいな」


 彼女はこちらとは少しズレた物言いをする子だなとなんとなく理解し始めながら「こっちが犬?」と聞き返すと。


「違いますよわたしが犬です。わたし、ワンちゃん超好きなんで、生まれ変われるなら将来はローデシアン・リッジバックになりたいくらいなんですから」


 なんだか人の名前みたいな言葉が出てきて貴方が首を傾げると、彼女は知らないのかとショックを受けた顔をします。


「まさか知らないんですかローデシアン・リッジバック。大っきいコートみたいなカッコイイお犬さんなんですけどっ」


 貴方がテニスコートくらいの犬を一瞬想像してしまうと。


「違いますよ、テニスコートの大きさじゃなくて人が着るコートです。何かこう羽織るコートみたいな毛色のカッコイイこなんですって」


 何故考えた事がわかったのかと貴方は目を丸くしますが、彼女は「見ればどんな勘違いしてるかわかりますって」と何やら得意顔。どうやら好きなものに関しては察しがいい様子です。


「まぁわたしの生まれ変わり先の話はいいんですけど、雨の日にレインコート着てるワンちゃんて可愛くありません? あれは一種のお宝に巡り合う可愛さですよねぇ。スマホでパシャリしたい、そんな気分。パシャパシャってね」


 彼女は指でスマホを形作ってパシャパシャと口に出しながらパシャパシャとした雨に濡れた地面を貴方と共に歩きます。


「お、蛙ですよ蛙があんなところにいますよ。うわ、可愛い。ほらほら一枚パシャパシャリといきましょう」


 彼女は道端の蛙を見つけると指で作ったままのスマホを向けて声を出してパシャパシャと撮る真似をします。貴方は彼女が夢中になって濡れないように傘を傾けてしまい、少しだけ肩が濡れてしまいました。


「あ、すみません。わたしが変なことしたから」


 彼女もそれに気づいて反省。貴方は「気にしないで」

 と言いますが彼女はそうもいきません。


「そこのコンビニによっていきましょう。肩を濡らした罪滅ぼしというか雨から守ってくれたお礼と思っていただければ」


 別に気にしないでいいと貴方はもう一度言いますが彼女は首を横に振ります。


「いいえいいえ、それはわたしの気がすみませんのでよっていきましょう。買い食いです奢ります。わたしのお小遣いポケットマネーが火を噴きます」


 彼女は「ガオ~」と可愛らしく唸りながら進路をコンビニにへと向かわせます。貴女はこのまま進めば傘から外れてしまうと速歩きし、結局彼女と一緒にコンビニによる事にしました。




 


 SE///コンビニの自動ドアの音


 「やっぱりというかなんというか、遠慮してたいしたものは買いませんでしたねぇ。わたしの財力ふところは気にせずフランクフルトでもカレーパンでも何ならスムージーだって買ってもよかったんですよ。そんな百円ちょっとのアイスコーヒー一杯だけなんて」


 彼女は気持ちよく奢りたかったようですが、貴方はこれで充分だよありがとうとお礼を言います。


「まぁ、どういたしまして、というのも変な話ですよ。それはお礼なんですからありがとうはいりませんよぅだ」


 彼女はなんだか複雑な表情で唇を尖らせます。何だかそれが可愛らしくて貴方は笑います。彼女は「なんで笑うんですか」とちょっとご立腹である。


「はぁ、まぁいいです。あの、急いで帰るて感じじゃないなら、そこで飲み食いしながらダベリません?」


 貴方は特に急ぎはない、君がいいならと頷くと途端にちょっと悪い顔をします。


「フッフッフ、よくよく考えれば学校帰りに買い食いなんてワルのする事ですね。コンビニ前でたむろするなんてワルの境地、わたし達は結構な極悪人ですよ?」


 学校帰りの買い食いくらいは誰でもやってるし、店の端っこに移動してるよね? と、言いたくはなりますが彼女はワルになりきってるので黙っておく事にします。


 SE///雨の音


「そういえば、コーヒーに備え付けの砂糖とミルクを取らなかったですけど、忘れんぼうですか?」


 彼女が疑問に思ったか貴方にそう告げますが貴方はいつもブラックだからこれでいいと告げると。


「ブラックてことは無糖! なにそれダーティブラック! ワルの境地マフィアじゃないですか!」


 何だかよくわからない事を言って衝撃を受けています。どうやら彼女はブラックコーヒーが飲めないようだと理解しますが。


「いや、飲めないわけではありませんって、まだ飲もうとしてないだけです」


 と、妙に強がった発言をしながら買ったばかりのチョコドーナツをレジ袋から取り出します。SE///レジ袋の音


「知ってます? ドーナツの穴は丸いのは無限大の可能性を示しているのだとか」


 何かの雑学かと聞くと。


「雑学というか、アニメキャラの台詞というかなんというか、あ、知らないのならいいです。はい、これ半分こどうぞ」


 彼女は真面目に返されたのが恥ずかしかったか、ドーナツを半分こに千切ると貴方に片方渡します。


「ブラックコーヒーならもちろん甘いものは欲しいですよね?」


 差し出してくれたドーナツ。貴方はブラックコーヒーだけでも充分ですが、きっとこれはもうちょっとお礼を受け取ってほしいという意思表示かなと解釈し、貴方はそのドーナツをありがとうと言って受け取ります。


「いえいえ、どういたしまして、それではわたしもいただきまーす。ん~~、甘いものは美味〜い」


 彼女はドーナツを口にすると満面の笑みを浮かべています。その笑顔に釣られて食べる半分こドーナツは確かに甘くて美味しくて、コーヒーが進みます。


「ふふふ、やはりドーナツがあってよかったでしょう。甘いものはやはりみんなを笑顔にしてくれますね」


 どうやら貴方も笑顔になっていたようで、彼女も更に柔和な笑顔でドーナツを食べきります。


「無限大な丸い穴のドーナツも無くなってしまうのもあっという間ですねぇ」


 ちょっと淋しげな彼女に残りをあげようかと言いますが。


「違いますよそういう食いしん坊な事を言ったわけではないですって、デリケートな乙女心というやつですよ今の言葉は」


 デリケートな乙女心というのを貴方はよくわかりません。


「いいんですけど理解しなくても、無限大な可能性は買ってくれば再びその手にできますが、明日の自分のために多少の我慢も必要なのです。夏場は特に甘くて冷たい誘惑も多いからなぁ、はあぁぁ〜ァ」


 彼女は何やら深く溜め息をつきますが、雰囲気からどうやらこのドーナツはすぐに彼女の前から消したしまったほうがよいだろうと貴方は残りのドーナツをたいらげ、コーヒーを多めに飲むのでした。






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