雨の日に君と下校する
もりくぼの小隊
第1話
SE///雨の音
朝から降り止まぬ雨。多くの生徒は傘を持って来ており次々と下校をしていく、貴方もその中のひとりである。
「はぁ、もう、どおぉ~しようぅかなぁ……」
だが、下校をしていく皆とは異なり玄関前でこの世の終わりと立ち尽くす女子の姿を貴方は見かけます。彼女は確か隣のクラスの女子です。貴方とは接点はありませんが、このまま気にせず帰る事は出来ず貴方は気になったので声をかけます。
「え、ええと……誰くん、だったかなぁ?」
特に接点は無いのだから知らないのは当然。貴方は軽く自己紹介をします。
「あぁ、|D組の。うん、知ってるよ、わたしCだしおとなりクラスだもんねぇ、わかるわかる……アハハ」
微妙に戸惑ったままの彼女、雨音に消えてしまいそうな乾いた笑い。これは貴方に警戒しているのか、名前に特にピンときていないのを誤魔化しているのかはわかりませんが、そんな事よりも、何かに困っているのではないかと感じ、嫌がられるのではと思いながらも貴方は彼女にどうしたのかと聞きます。
「ええと、実は困っているといえば困っているんですけどぉ、いやまぁぶっちゃけちゃいますとね、傘を忘れてしまったというかなんといいますか……ヘヘ」
朝から雨が振ってたのに傘を忘れたのかと無言で思わず黙ってしまう貴方に、彼女は慌てて言い訳を始めます。
「ち、違うんですよ、傘をね、持って来たつもりではいたの。分かります、折りたたみ傘というコンパクトな便利雨具。それをね、鞄の中に入れて来たんだよッ、わたしの中ではバッチリとッ!」
つまりは傘をバッチリと入れたつもりではいたのだけど実際は入れ忘れていたというわけかなと貴方が納得すると、彼女はジトリとした眼をします。
「ウゥゥ、忘れたんだななんてグサッとストレートに言うなぁ。わたしの心の中では忘れてないんですもん。わたしの身体が傘を忘れただけなんで、だってわたしの頭は直前までは忘れたなんて思っていなかったんだから。そう、これはそうアレだよアレ、アレ〜……シャトル・ミール計画!」
何を言ってるかは理解はできないが「キャトルミューティレーション?」とでも言いたかったのかと聞くと。
「キャット、なに?――て、そうそのキャットミュートレーシングて言いたかったの……てどういう意味、静かに猫がレースする大会?」
更に言ってる事がわけの分からない方向に行っていますが、間違いなく彼女の口走った「シャトル・ミール計画」も「キャトルミューティレーション」も傘を忘れた言い訳とは関係が無いはずなので貴方はそこは無視をする事にして「もう一度聞くけどつまりは傘を忘れたんだよね?」と言うと彼女は何かを言いたげに口をモゴモゴと動かしますが、ガクッと肩を落として
「はい、認めます。わたしは傘を忘れたのです」
と、言い訳は諦めたと観念して答えました。貴方はあまりにも落ち込んでいる彼女を見て「よかったら」と傘を差し出します。
「ぇ、なんですかこの傘……君の傘?――て、いやいやいやダメですってそれはっッ、わたしに傘を渡して君はいったいどうするつもりなんですかっ」
走ればまあ何とかなるかなと答えると。
「走るッ、このドシャ降りの中を走るッ。いやいや確実に風邪っちゃいますからやめましょうよそういうのは。なめてると辛いのが風邪という悪魔なんですから。ほら、わたしが傘を返せば万事解決雨あられですね」
でも、そっちはどうするのと聞くと。
「まぁ、わたしはお母さんに迎えに来てもらうという最終カードを切りますのでなんとかなります。帰るのはだいぶ遅くなっちゃうけども」
どうやらお母さんに連絡をしてもすぐには来てはくれないようです。貴方は少し迷ってから「じゃぁ、途中まで一緒に」と傘を一緒に使って帰る事を提案します。
「ぇ、一緒に……それは、相合傘というやつでは……いや、それはわたし何かと噂になってしまうと困ってしまうのでは……」
何だか口元をモゴモゴと動かしてよく聞き取れませんでしたが貴方は「別にこっちは大丈夫。そっちがよければて話だよ」と返すと、彼女はしばらく「うぃぅ〜」「ぃや〜」「たぁ~」と唸り「ヨシッ」と覚悟を決めた顔でこちらを向くと
「よろしくお願いしますッ」
と、頭を下げて手を差し伸べるので貴方は「うん、よろしく」と彼女の手を握るのでした。
「あれ、なんで握手になって――て、そうだっ、わたしが言いたかったのってポルターガイストだったんですよッ。さっきのネコネコレーシングクラブではなくってねッ」
と、やはりよく分からない事を言って彼女は「いや、スッキリしましたよありがとう」と手にした貴方の手をブンブンと振るのでした。
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