星とリングとハーレムと
マノイ
プロローグ
1. 幼い頃の約束とまさかの投獄
「大きくなったら魔法学園で会おうね」
小高い丘の上で五人の幼子達が向かい合って立っている。
その場所はとても見晴らしが良く、眼下に広がる草原や森は青々と鮮やかであり、島を囲う湖は真なる太陽の光を浴びて煌めき、遥か先には力強く聳え立つ山々が視認出来る。
しかし今は陽が落ちてから長く、それらの美しい風景を眺めることは出来ない。
とはいえ闇の中で方角さえも分からないなどということはなく、晴天ということもあり、満天の星空という天然の明かりが彼らを優しく照らし、お互いの表情まで分かるようだ。
「絶対に、絶対ですよ」
穏やかな声色の中に不安気な気持ちを隠せずに念を押すのは、腰まで伸びるロングの髪がとても美しい少女だった。星明り程度の淡い光の中でも、彼女の凛とした姿勢は際立っており、まだ十歳にも満たない年齢であるにも関わらず、高貴な血が流れる令嬢であると誰もが感じるであろう。
「当然だぜ。絶対に来いよな!」
再会を確信して力強く答えたのは、少し肌寒い夜中にも関わらず半袖ハーフパンツ、勝気な瞳にショートカットと元気一杯の雰囲気の少女だった。両手を頭の後ろで組み、平然と立っているかのように見える彼女ではあるが、別れの悲しみを必死で抑え込んでいるだけだった。彼女が泣きそうになっていることにその場の誰もが気付いていたが、そこに突っ込むほど野暮な人は居なかった。
「も、
独特な表現をしながら丸い眼鏡を人差し指でくいっと持ち上げた少女は、真夜中の外だというにも関わらず本を持ち歩き、大事そうに胸の前に抱えていた。人一倍恥ずかしがりやな少女は、ある人物の方を向いては俯き、また顔を上げては俯きを繰り返し、その度に両サイドの小さな三つ編みがぴょこぴょこと動いた。
「……約束」
薄明りの中でも明らかに眠そうに見える少女は、昼間からウトウトすることが多く、寝ていることが多い。彼らと遊ぶ時もやる気が無くいつも離れた所で休んでいる少女だが、どれだけ眠かろうと必ず彼らについて行った。そんな彼女だけれど、普段は爆睡しているこの時間に『眠そう』なだけで済んでいるのは、彼女を知っている人から見たら驚愕に値する出来事だった。それだけ今のこの時間が彼女にとって大事なのだ。
彼女達は全員が一人の人物の方を向いていた。
最初に再会の言葉を投げかけた人物。
想いを寄せる少年へと。
「うん、約束だね。この星空に誓うよ」
少年がそう言うと、五人は一斉に夜空を見上げた。
雲一つない夜空には、無数の星が煌めいている。
中央に広がる巨大な大河に、様々なイメージを想起させる大小様々な星々。
少女達にとっては少年の影響で何度も見たことがある夜空のはずだが、しばらくは彼と一緒に見ることが出来なくなると思うと不思議と尊く感じる。それと同時に、同じ星空の元で生きているのだから、必ず再会出来るのだと安心出来るような気がした。
「お願いお星様。想いを形にしてください」
少年は星空に向かって右手を掲げ、人差し指で星々をなぞり始めた。
その指先はほんのりと淡く光っていて、まるで指につけた絵の具で夜空というキャンパスに絵を描いているようだった。
夜空に描かれた軌跡は四つのリングを形作る。
それらが一際強く光を放つと、ゆっくりと降りてきて少年の手のひらの上に収まった。
「みんな、手を出して」
少年は彼女達の手を優しく取り、人差し指に嵌めてゆく。
「わぁ」
「綺麗だ……」
「っ!」
「……素敵」
淡く光る美しい星空のリングを指につけ、うっとりとする少女達。
「これが僕達の約束の証。すぐに消えて無くなってしまうけれど、僕達の心の中にはいつでもこのリングがあるって信じてる」
何もないところから新たな物質を生み出すなど、
この日のためにこっそりと必死で特訓したけれど、一分程度形を維持するので精いっぱいだった。
しかし少女達にとってはこれだけで十分だった。
これだけで、これから先の長い別離の日々を、頑張ろうという気になれた。
少年の『魔法』が、彼らの別れを涙ではなく笑顔溢れるものにすることが出来たのだった。
「再会したときは消えないリングを頂きたいです」
「格好良いのを頼むぜ」
「もっちゃ指磨いて待っとるわ」
「……楽しみ」
「あ、あはは……」
尤も、普段の勢いを取り戻した彼女達によって、少年だけは笑顔と言っても苦笑になってしまったのだが、それもまた彼ららしいのであった。
斯くして、少年少女達は長い別れを迎えることになる。
次に再会するのは彼らが成長し、十五歳になる頃。
場所は、クラウトレウス王国の郊外にある『クラウトレウス魔法学園』。
長くて短い子供時代を、各自研鑽に努め、そして……
ーーーーーーーー
「ここがクラウトレウス魔法学園かー」
巨大な塀に囲まれた学園に、一人の青年が入学試験を受けにやってきた。
当然、少女達との約束を果たすため。
少女達が約束を覚え、今でも青年のことを想ってくれているかなど分からない。
しかしそれでも青年は絶対に約束を守ると誓い、努力し、本当にここまでやってきたのだ。
「よし、頑張ろう」
周囲には自分と同じ魔法学園の受験者らしき人が沢山いる。
人気で定員が決まっている魔法学園。試験で好成績を残し、彼らよりも優れていると証明できなければ入学は難しい。
しかし青年は全く心配していなかった。
試験に関して言えば、同世代の誰にも負けない程の自信がある。
自信過剰であったり、世の中を知らないといった訳では無く、これで自信をもたないでどうやって自信を持つんだと思えるほどの研鑽を積ま
「ふんふん、楽勝楽勝」
筆記試験は余裕で全問正解だろう。
「えい!」
「……は?」
魔法試験は試験官があまりの威力に驚き茫然としているから合格だろう。
「よし、これで皆と会える!」
試験は平民と貴族で別れて実施されているため、青年はまだ彼女達に会うことが出来ていない。
何故なら彼女達は全員が貴族令嬢だから。
しかし合格すれば平民や貴族などの身分は関係なく授業を受けられると聞いている。
幸せな学園生活がすぐそこまで迫っている。
後は合格発表からの入学式を待つだけだ。
そう、思っていたのに。
「おら、入れ!」
屈強な成人男性に背を押され、青年は
「どうしてこうなっちゃったのおおおおおおおお!?」
合格間違い無しで、早く彼女達に会いたいとウキウキしていた青年は、突然牢屋に閉じ込められることになってしまい、嘆き叫ぶのであった。
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