第9話 女体研究部の半分は幽霊部員でできている。(後編)

「うん。ラビュもナギーも奇人変人が大好物なの。キャラが立ってるってやつ? このいかにもヤマトナデシコって感じのお嬢様が、隠しカメラを好む。いい! そう思ったわけ」


「そう思ったわけか……」


「あの、もちろん部員の皆様だけでなく、学園からもカメラ設置の許可はいただいております……。ただ、光太郎様がおイヤとのことであれば、撤去させていただきますが……全員の同意が前提ですので……」


「ああ……」


 あくまでも『隠しカメラふう』ということか。

 学園の許可がおりたというのは信じがたいが、おそらくまた叔母さんが許可したのだろう。


 あの人、真人間に擬態してはいるけど、なんだかんだで変態パラダイス村の出身だからな……。


 そしてよくよく考えてみれば、同じく変態パラダイス村の出身である俺にとって、盗撮されて困ることなんて特にない気がする。


「撮影したデータをネットに公開したりとかはしないんだよな?」


「もちろんです……わたくしが個人的に楽しむだけなので……」


「そっか……」


 なにをどう楽しむのかは、きっと聞かないほうがいいのだろう。


 俺は、なんだかんだで変態には共感するタイプ。

 まして御城ケ崎ごじょうがさきは、あらかじめ盗撮の許可を求めてきたのだ。


 きちんと筋を通してくる真面目な変態を冷たくあしらうなんてこと、俺にはできない。


「俺も別に問題はないかな。ただカメラの場所くらいは教えておいて欲しいけど。壊したりしたら怖いし」


「カメラが破損してもこちらの責任ですのでお気になさらず……ですがカメラの設置場所はお伝えしておきましょう……このパソコンで管理しておりますので……」


 部室の中央にある長机に移動した御城ケ崎は、無造作に置かれていたノートパソコンの画面を見せてくれた。


「こちらです」


「ほお」


 御城ケ崎に近寄り、画面をのぞき込む。

 すると――。


「……っ」


 息をのむ音がした。

 隣を見ると、御城ケ崎が真っ赤な顔でこちらを見ている。


「どうかしたか?」


「い、いえ……特に何も……」


「そうか」


 目を見開き俺を凝視していたのだから、何事もなかったとは到底思えない。

 でも、本人がそう主張するのだから、あまり突っ込んで聞くのもよくないよな。


 素直に視線をディスプレイに戻すと、画面には無数の映像が映っていた。

 頭上からも足元からも、真横からも俺たちの姿が映されている。

 なんかこれ、想像よりかなり多いんだけど……。


「この部屋に隠しカメラは何台あるんだ?」


「108台です」


「…………」


「あ、ごめんなさい。それは初期設置台数で、今は200を突破しています」


「なんかバカみたいについてるな」


「はい。微妙な角度の違いで、見える景色がまるで変わってきますから」


 なんかカッコいい事言ってるけど、盗撮の話だからなあ。


「というか、そもそもラビュはいいのか? スカートの中を盗撮してるそうだが」


「え? べつにへーきだよ。だってラビュ、ハーフパンツはいてるから」


「ああ、うん。……なるほど」


 露出に興味があるのか確かめたくて尋ねたのだが、この返答ではちょっと判断出来ない。


 けれど俺のなんともいえない視線を、ラビュは勘違いしたようだ。


「むむ? もしかしてコータロー、どんな感じか見たかったりする?」


 ラビュがスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げる。

 すると、御城ケ崎がバッとその手を止めた。


「お待ち下さいラビュさん!」


「ど、どしたのユーラ。そんなに慌てて」


「本当にハーフパンツをはいておりますか?」


「も~心配しすぎ! ちゃんとはいてるって」


「そうですか。それなら――」


 御城ケ崎は瞳をキラリと輝かせる。


「脱ぎましょう、ハーフパンツ……!」


「え?」


「そして脱いだ状態でスカートをめくりましょう。スカートをめくると、実はハーフパンツをはきわすれていて、生のパンツを見せつけてしまった! ……これはやはりラブコメ的に外せないイベントかと」


 目を閉じうんうん頷いているが、それは一般的には痴女と評される振る舞いでは?

 それともラブコメの世界だと違うのだろうか。


 ラビュも俺と同様に違和感があったらしく、首を傾げている。


「べつにそこまでの必須イベントでは無くない? それにスカートをめくると下着があるのは当然だし、ハーフパンツのほうがレア度が高いよ」


「大切なのはレア度ではなく、エロス度の高さかと存じますが。そしてハーフパンツの魅力がパンツに劣るのは、誰の目から見ても明らかかと」


 さっきも思ったんだけど、こういうときの御城ケ崎は、やたらとはきはき喋るな……。


 一方のラビュはニヤリと笑っている。

 

「ほ~う、言うね。ユーラと意見が合わないのは珍しい。いつもなら審判の出番だけど、今回はユーラに判定してもらうわけにはいかないし、さっそく新入部員のコータローに判定してもらおっかな」


「俺?」


「そだよ。女の子が自分でスカートをめくり上げたとき、パンツがみえるのとハーフパンツが見えるのと、どっちが嬉しいか? ――審判、判定を!」


 俺を見ながら鋭く叫ぶラビュ。

 どうも判定しないといけないらしい。


 正直にいえば全裸が日常だった俺としては、パンツだろうとハーフパンツだろうと、どちらも別に興味は無かったりする。


 だが多少なりとも厚着のほうが、俺は嬉しい。

 それはわずかな差だが、でも確実に存在する差だった。


 俺は軽く頷いたあと、右手を勢いよく上げた。


「――勝者、ハーフパンツ!」


「やった! ラビュの勝利!」


「そ、そんな……」


 よろめく御城ケ崎。

 そんな彼女の肩に、ラビュがポンと手を置いた。


「まあまあ。しょーがないよ」


 そして顔を覗き込みながら、優しく微笑む。


「ユーラはすけべだからね」


「それ慰めになってるか?」


「たしかに、男性の方は女性の下着を見れば常に喜ぶものだと思っておりました。すけべな女で申し訳ございません……」


 こっちはこっちでなんの謝罪か分からないし。


「その話はもういいだろ。それより、他にどんな部員がいるのか聞かせてくれよ」


 俺は強引に軌道修正を図った。

 こんな話題をいつまでも続けられるとさすがに困る。


 全裸村出身の俺といえど、下ネタは苦手なのだ。


「俺とラビュと御城ケ崎、あと倉橋で部員は4人。……ナギーって人は?」


「ナギサ様ですね……2年生で……我々の先輩です。本日はいらっしゃいませんが……」


 2年生か。

 つまり『ナギサ君』と同学年。

 分かっていたことではあるが、いよいよ同一人物で確定だな。


「それであともうひとりなんだけど……」


 なにやら難しい顔でつぶやくラビュ。

 その様子から察しのついた俺は、軽く頷いてみせた。


「そいつも、今日は来てないわけだ」


「んー、今日はっていうか、この部室に来ることはないかも」


「ん……?」


「『参加せずに名前を貸すだけなら良いよ』って言ってたから、本当に名前だけ借りてるの」


「へえ……」

 

 本物の幽霊部員もいるんだなぁ……。

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