見習い管理官・連城光太郎とハーレム狙いの少女たち~全裸村からやって来た真面目な少年は、故郷復活という大切な目的を持っているので、変態美少女たちの淫らな誘惑になんか絶対に負けない!!~

阿井川シャワイエ

序章 新人風紀委員・連城光太郎と見目麗しき少女たち

プロローグ~連城光太郎、その幼き日の記憶~

 幼い頃の俺は、いつも裸だった。


 家にいるときはもちろん、野山を駆けまわるときも裸、学校に登校するときも裸、そして授業を受けるときでさえ俺は裸のままだった。


 先生に注意されなかったのかって?

 そんな経験一度もない。


 とはいえ、俺の父親を知っている人なら、きっとこう言うことだろう。

 

 「お前は村長の息子だから、誰も注意なんてできなかったんだ」と。


 でもそれは違う。違うと断言できる。

 確かに当時の俺は偉大な村長の息子として、学校どころか村中の人たちから特別扱いされていた。

 いつの日か父さんの跡を継ぎ、この村を立派に治めるだろうと、誰もが俺に期待のまなざしを向けていたのだ。


 だから俺が変な行動をとっても指摘しづらい状況だったというのは否定できない。


 でも村の人たちが、裸でうろつく俺を叱らなかった理由はそうじゃない。

 もっと単純明快で、ずっと明々白々めいめいはくはく


 だって――村の人たちも全員裸だったんだ。


 俺だけじゃなくて村人みんなが裸で暮らしていたのだから、注意なんてされるはずがない。


 『変態パラダイス村』

 俺が住んでいたあの連城村れんじょうむらは、世間からそう呼ばれていたらしい。


 ――春は桜が舞い散る中で、みんな陽気に全裸で踊り。


 ――夏は蛍のまあるい明かりが、男女の裸体を闇夜に浮かべ。


 ――秋は色づく紅葉の落ち葉が、寝転ぶ裸体に彩り添えて。


 ――冬は雪が降り積もるなか、みんな輪になり肩寄せあって全裸。


 かつて俺の村を訪れ、その素朴で牧歌的ぼっかてきな光景に感銘を受けたという変態詩人ドレッドは、世界的にも名著めいちょとして名高い彼女の初期創作集『日本のうつくしき変態』の巻頭で、連城村をそのように紹介していた。


 多忙なはずの彼女なので、本当に連城村の春夏秋冬を体験できるほど長期滞在していたかは正直怪しいものだと思う。


 それでも高名な変態というだけあって彼女が切り取ったあの村の風景は、実際に住んでいた俺からみても文句のつけようがないほど色あざやかに表現されていて、彼女の本を読み返すたび、ついつい郷愁きょうしゅうにかられてしまう。


 今でも目を閉じると、楽しかったあの日々の光景が思い浮かんでくるんだ。

 小学校の先生や、村に一軒だけある商店のおばあちゃん店主、俺の母さんたちも、みんな全員いつだって裸で……。


 けれど、そんな四季折々に全裸が乱れ咲く変態村にも例外はあった。


 都会からやってきたという駐在さん一家。

 彼らだけは村の中でも洋服を着て過ごすことを『許可』されていたのだ。


 外部の人間だから――それだけが理由ではない。

 

 当時の俺は気付いていなかったが、あの変態パラダイス村は警察による監視対象になっていた節があって、駐在さんが俺の父さんに「次に警ら隊が来るのは、来週の半ばになるようです。本部の連中はこの村のことを快く思っておりませんから、どうかご注意を」などと、真剣な顔で警告しているのを聞いたことがある。


 駐在さんはあの村の変態的な在り方にかなり好意的で、そしてだからこそ彼ら一家は特別扱いされていたのだ。


 どうも彼は俺の父さん――変態パラダイス村の村長でもある連城双龍れんじょうそうりゅう――とこの村で対話を続けるうちに、いつしか心酔しんすいするようになっていたらしい。


 そして俺は、誰からも尊敬されている父さんのことを、子どもながらに誇りに思っていた。


「お父さん! ボク、大きくなったらお父さんみたいに立派な変態になる!」


 そんな言葉を直接本人に伝えたことさえある。

 いまにしてみれば無邪気なものだ。


 長い髪を後ろで軽く縛り、作務衣さむえを着てニコニコと微笑んでいる父さんは、村長というより穏やかな芸術家といった風貌で、俺がそんな変態宣言をした時も困ったように笑いながら優しく俺の頭を撫でてくれたっけ。


「ははは、たしかに光太郎こうたろうなら、僕よりこういうことを上手くやれるかもしれないね。でもね、これだけは覚えておいてほしいんだ」


 父さんはしゃがみこんで俺の両肩に手を乗せると、目をじっと見つめ、ゆっくりと語りかけてきた。


「いま光太郎は『立派な変態』と言ったけど、変態には立派とか立派じゃないとかそういう概念はないんだよ。どんな変態も、悩みを抱えて生きるちっぽけな人間にすぎなくて――だからこそ、困ったことが起きてしまうんだ」


「こまったこと?」


「うん」


 父さんは、静かに頷く。

 そして俺の背後にそびえたつ青々とした大きな山に視線を向けた。


 ホタルが暮らす綺麗な小川が流れるその山には、一番上の母さんのお墓があるのだ。


「自分のしたいことを、したいようにして生きる。多くの変態がそれを望むけれど、でも現実はそうもいかない。他人に迷惑を掛けることなく、ひとり静かに変態行為にいそしむというのは、なかなかに難しいんだ。どうやったら理想がぶつかりあうような変態同士が、他人に危害を加えることなく、同じ世界で、共に手を取り合って笑顔で暮らせるようになるのか。父さんは、いつもそのことを考えてるんだよ」


「ふうん……?」


「はははっ、まだ光太郎には難しかったかな」


「ううん、そんなことないよ! だってどうすればいいのか、ぼく知ってるし!」


「そうかい?」


「うん!」


 元気いっぱいに頷いた俺は、父さんに褒めてもらおうと、その言葉を口にしたのだった。


「ヘンタイの人たちをカンリする、ヘンタイカンリシャがいればいいんでしょ?」


 父さんはハッとしていた。

 けれどその反応を見た俺はむしろ得意になって、意気揚々と言葉を続けたんだ。


「ひとつ、ヘンタイのカンリシャたるもの、すべての者に優しくあれ! ひとつ、ヘンタイのカンリシャたるもの、理性は決して手放してはならない! ひとつ、ヘンタイのカンリシャたるもの、孤独を恐れず、どこまでも理想を追い求めよ! これすなわち、連城のヘンタイカンリ3箇条である!」


「光太郎? それをどこで聞いたんだい?」


 父さんは俺の肩をギュッと掴んだ。


 その力強さに驚くと同時、なにかいけないことをしたらしいことに気付いた俺は、目をそらしかすれた声でつぶやく。


「えっと……ちゅーざいさんが言ってた。『あれは多くの人をすくうことのできる、立派な決まりごとだ』って。『光太郎くんもお父さんの跡をついで、立派なヘンタイカンリシャになりなさい。そうすれば、この村はもっとはんえいするだろうから』って」


「……秋海あきうみさんか。弱ったな。いつの間にそんなことまで知ったんだろう……」


「……?」


 そのときはなにも理解できなかった。

 けれど父さんが困惑していた理由も、今ならなんとなく想像がつく。

 あの村は――あの歴史ある『全裸村』は、滅びゆく運命だからこそ政府からその存在を黙認してもらえていたのだ。


 だって生まれてくる子どもの数があんなに少ないのに、移住希望者を拒絶し続けたあの村に未来なんてあるはずがない。


 だからこそ父さんは、駐在さんという外部の監視を受け入れたんだと思う。


 外の世界からやってきたあの家族との交流を通じ、俺たち子ども世代に少しずつ『普通』の生活を学ばせる。

 そうして将来的に「村から出ていく」という選択肢を選ぶように仕向け、ゆるやかに滅びの道を進もうとしていたのだ。


 なのに――その肝心かなめの駐在さんが、この村に魅了されようとしていた。

 ミイラ取りがミイラになるこの図式は、父さんにとっても予想外だったに違いない。


 でも当時の俺は、水面下で進行するそんな異常事態など知るよしもなかった。


 なにも知らないまま、駐在さんの家に住む「洋服のおねえちゃん」と一緒に遊びまわってばかり。


 そして父さんから、東京に住む叔母さんの家にしばらく泊まりに行くように突然言われたときも、俺はなにも気付いていなかった。


 ちょっとした観光気分で、迎えに来た叔母さんについていっただけ。


 そんなお気楽な俺が目の当たりにしたのは、話で聞いていた以上に巨大なこの国の中心都市――東京。


 生まれて初めて見る大都会に圧倒された俺は、窮屈な洋服を長時間身にまとっていたこともあってか、叔母さんの家に着くなりすぐに体調を崩して寝込んでしまった。


 遊びに行くことさえできず、見渡す限りの大自然が広がる連城村での光景が恋しくなって、父さんが迎えに来てくれるのを指折り数える日々。


 けれど……。

 俺があの村に帰る日は、ついにやってこなかった。

 蒸し暑い夏の日、俺は衝撃のニュースを知ることとなる。


 ――父さんが逮捕されたのだ。

 

 『村人を洗脳し、露出を強制していた変態村長、逮捕!』


 小学生だった俺が覚えているのは、新聞にでかでかと書かれたその見出しの一文と、その隣に小さくせられた父さんの顔写真、ただそれだけ。

 

 そしてその日以降、俺の人生は大きく変わってしまった。


 変態パラダイス村には、警察の捜査の手が入った。

 住んでいたみんなは『保護』され、その後どうやって暮らしているのか、その行方はようとして知れない。

 

 逮捕された父さんは――脱獄したらしい。

 火事が起きたどさくさにまぎれて、拘置所から姿を消したのだとか。


 けれど俺は、嘘だと思う。

 だって本当に父さんが脱獄したのなら、なによりも先に俺の前に姿をあらわしてくれるはずだ。


 俺がどれほど心配しているかわからない父さんじゃ無いし、絶対に来てくれる。

 それなのに、いまだに連絡すら寄越さないなんて、どう考えてもおかしい。


 だからきっと父さんは、いまもどこかに捕まっているんだと思う。

 基本的人権を無視した超法規的措置によって、現在も国の管理下におかれているのだ。


 だから……だから俺は。


 誓ったんだ。


 誰もいない一人ぼっちの部屋で、父さんとあの村のことを面白おかしく書き立てた週刊誌をぐしゃぐしゃに握りしめながら誓った。


 俺が父さんを助けてみせる。

 

 変態の仲間を集めて、父さんが囚われていると思われる変態管理局に乗り込むのだ。

 

 そしてゆくゆくは、すべての変態たちの楽園、変態パラダイス村。

 あの村を、日本に復活させる。


 ――父さんの正しさを日本中に知らしめるために。

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