038 妹

 さっきの屋敷の中、コリンが死亡を確認した後何やら体をいじっている。集中しているようなので邪魔してやろうと声をかけた。


「なあコリン、今日でお前何人殺したことになる?」


「師匠、それは今日一日という意味ですか? それとも僕の人生についてですか?」


 臓腑を引きずり出しながらコリンが答える。


「後者だ。あとお前、何をしてる?」


「僕にはお金が必要なんです」


 大体全員分が分離した辺りで、今度はズボンの後ろのポケットから携帯電話を取り出す。


「もしもし。リアクトさんですか。いつものことをお願いしたいのですが」


 ええわかりました、なんて八歳らしからぬ言い方をして携帯電話をしまう。


「これは叔父に買っていただいたものですよ」


 聞いていない釈明をしやがる。


「そういえば、何人殺した、だとか訊いていましたか?」


「ああ、訊いた。数えられるか?」


「もちろん。今日で十七人ですね。依頼は八回目、クリスの物を含めると十五回目です」


「お前、妹の奴を全部やってきたのか」


「何故妹に手を汚させる必要があります?」


 やはり二桁には載っていたか。しかし、それだけ代償を払って妹の潔白を守るとは。

 全く感心などしない。愚かだとは思う。妹がいなかったら、この少年はこうはなっていなかったんだろう。


「師匠は何人ですか?」


「知らねえよ。三桁じゃあねえの」


 さすが、なんて求めていない称賛をして、コリンは作業に戻った。もう少し邪魔してやろうと質問を重ねる。


「リアクトって誰だ。掃除屋か」


「そうですよ。師匠も使ったことがありますか」


「ねえよ。あれって臓器売買の為だろ? 僕は地球とつながりはないんだ」


「皇国でもありますよ。臓器の活用方法なんて、思いつかない方が珍しい」


「お前って人生三周目くらい?」


「違いますよ。そのくらいの苦労はしましたが」


 僕があげた革手袋の先、光るピアノ線。


 僕を殺す者がいるとしたならこいつだな、とふと思った。


 妹がいる限り、この少年はどこまでも強くなる。僕をはるかに超えるほどに、人を超えていく。


 僕がさっさと妹を殺してやるのが世界とこいつの為なのかもしれないな。


「師匠」


「何だ」


 振り返れない。


「クリスを殺そうとか、考えないでくださいね。僕は後悔していません」


 見透かしたような男だ。

 一つ息を吐いて、振り向いた。

 全身に張り付いた未熟な糸を断ち切って、気持ちの悪い魚のような瞳と目を合わせる。


「あの女の子は『紗映子さえこ』と名乗らせろ。形だけでも幸谷ゆきやのように取り繕わせた方が良いだろう。それから、死なない程度の護身術を僕が叩き込んでやる。今度呼べ。……いやでもあの娘は三歳くらいか。なら早すぎるか?」


「五歳です。ちっとも早くないですよ。師匠が僕らに本気になってくれるみたいで僕は嬉しいですよ」


 本気にならざるを得ないだろう。


 この少年は段違いだ。


 狂っている。


 と思わざるを得ない。


「お前ら兄妹は僕が責任を持ってやる。失望させるな」


 この弟子が僕は嫌いだ。でも、こいつらは僕が育てる以外にない。


「ありがとうございます。絶対にさせませんよ、師匠」

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