第2話 雌雄は決さずに
ボクがリロリアナ様の代わりに世界を旅することに問題はない、しかしどの様な期待をされているというのだろうか? 真意を聞かなければ。
「リロリアナ様、ボクが世界を旅してきてお話しして差し上げるのは分かります。ですが、リロリアナ様を名乗るというのは」
「あなたがピアナジュとして旅して回って何の意味があるのよ、わたしの顔でわたしとして旅すれば、世界の人たちはわたしが旅してきたと思うじゃない、名案でしょ」
リロリアナ様は御自身がこの退屈な世界から旅立たずに、世界の人々が旅してきたリロリアナ様を見ることで旅したつもりを演じ、虚構に
とは言え、バイオロイドは
「はやく支度をして急いで旅してくるのよ」
「分かりました。お待たせしないように近くの世界を旅してきます」
「そうそれと、わたしの『
圏体というのは『自立圏外活動保全装具』を指す略称であり、人の野外活動における身体への負荷軽減を目的として造られた特定補助器具の総称である。器具とはいっても葉緑体と人工ミトコンドリア、装着者のDNA、これらを配合物として造られた真核生物性ファイバーに特殊精練加工を施したものをフロントシェルにコンジュゲートした自律型人工動植物異装体であり、この世界ではそれが私服である。
この装具から個体識別を可能とするほか、装着者に対して生理栄養素の補給、外傷や疾患の外用治癒を皮膚組織から行うことや、排泄物質を分解し糖と有機窒素化合物を合成する窒素同化を行なって装具自体も自律的に修復を行う。
無論弊害もある。身体をこの圏体で覆うと装着者はこの大きな真核細胞に浸漬した一粒の構成体となり真の一体感と外界からの遮断に快楽を得る。この体験は他者との接触に畏怖の念を抱かせ人類を絶滅危惧種へと加速さた一因にもなっている。
因みにバイオロイドの外皮はこの自律型人工動植物体でできているため圏体の装着する意味はない。
「リロダリア様のDNA情報を仕様に含めているとはいえ、リロリアナ様の圏体を着用するというのは、問……」
「心配ないわ、だって”あなた“を作るとき、わたしのDNAを渡しておいたの」
「なっ、なん ……、」
「なんてことないでしょ、どうせ弟じゃないんだし」
その通りである ──── ボクは弟ではない。
これは偽者という意味の他にバイオロイドというものは
バイオロイドは自己の修復を可能とするが、自己の増殖は不可能である。そして雄株が存在するといった情報は何処にもなく、意図的に開発者達が人類とバイオロイドの生存圏が逆転しないようにと安全装置の一環として材料選定を行った結果の一つでもある。
バイオロイドにはもう一つ動物との決定的な違いがある。
記憶力が薄弱であるため、根に持つ様な刻みつけるだけの感情を持てないことだ。
── まさに世界が待望した作物 ──
そして、終わりを迎えるときは根を張るというのだから随分な皮肉だ。
「分かりました。では準備して参ります」
「あなたは、リロリアナ。 わかったわね」
「分かりました。リロリアナ様」
もはや真意がどうのという問題ではない。リロリアナ本人の複製体であり、禁忌とされるもの。禁則事項となっている生存者の複製体は畏怖されるべき行為である。元来、死んだ者のDNAを仕様に組込みコピープレス体を製造するのは近親者の悲しみを癒やすなどの目的からであった。しかし実施には厳しい条件があり管制機関が認めた場合に限り可能である。
だがいつの時代にも特権を有するは者たちはいて、過去には理想的な異性や歴史的著名人などのコピープレス体を随従させる行為が横行したそうだ、それも一体ではなく数百体だ。それらを親衛隊に持つ特権者たちが集まり自慢しあい、張り合い、抗争しあうとハリウッド映画より豪華キャストが集い世間を騒がせたのは言うまでもない。無論、今はハリウッド映画など史実でしかお目に掛かりはしないが。
禁則を犯してボクがボクをオーダーした。
つづく
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