ちょっと残念系のヒロインは清楚系の美少女として有名だけど俺の前では態度が違いすぎる件

宮川祭

第1話 冴えない日常から異世界のとびら

 俺がいつまでもウルトラマンや異世界転生の主人公になれるとか信じていたなんてことは、どうでもいいような話だが、中学二年の時、俺は「この力を解放すれば、世界は滅びる」と本気で信じていた。「ああ、俺に触れるな、触れると黒い漆黒の焔に灼かれて死んでしまうぞ」という厨二病全開の妄想だった。


 今でも思うが、あの頃の黒歴史には触れてはならない。だが、大人になった今もなお、そんな妄想を引きずっている部分があるのは否めない。


 異世界から転生したアレク=ビ=シュタリックは、今日も学校で授業を受けている。突然、邪気を感じた。「先生マスター邪気ダークカースを感じ取った。すぐに行かないと世界が滅びてしまう」

「はいはい、トイレね」

 と、周囲の反応は冷淡だ。俺の心の中で響く非日常への叫びは、現実の世界ではただの滑稽な妄想に過ぎない。


 この世はつまらない。俺は魔法が使いたかった。異世界に憧れもあった。例えば、突然、門が現れて、下に魔法陣が浮かび上がり、扉が開くと美少女が現れてこう告げる。「あなたは選ばれました。勇者として私たちの世界をお救いください。どうかお願いいたします」

 俺は驚きつつも、「えっ、俺が、勇者?」みたいな感じで異世界へと旅立つ。


 そこで待ち受ける試練や魔物との戦闘。異世界転移した俺は、異世界では手に入らないような強力な力を持っていて、ドラゴンとの戦闘中に力が覚醒し、「俺つえええ」系になるという展開が好きだ。想像するだけで心が踊る。


 他にも好きな展開がある。例えば、異世界転生した俺は異世界の姫たちとウハウハハーレムを形成するという脳内妄想だ。まず、何らかの原因で俺は命を失う。すると魂だけとなった俺は、美少女の神と出会う。「何者にも負けることのない力を授けましょう。さあ、何がいいですか?」

 俺は「ハーレムが作れる魔法がほしい」と答える。そう、俺は魔法が欲しかったのだ。


 しかし現実は厳しい。実際のところ、俺のいたクラスが急に異世界転移したことなんてないし、転生したやつなんて見たことがない。魔法が使えないのもわかっている。


 結局、そんな非現実的な妄想を抱えたまま、現実の厳しさに直面することになった。俺のクラスには、普通の生徒しかいない。試しにコピー用紙を片手で持って「ファイア」「ブリザード」「サンダー」など唱えても何も起きないし、教室のドアを開けても異世界への入口が現れることはなかった。



 教室の窓から見えるのは、ただの日常の風景だ。部活に励む生徒たち、帰宅する友達と笑い合う姿。そんな普通の光景を見ながら、俺は自分の妄想がどれほど現実離れしているかを再確認する。それでも、心のどこかで非日常を期待し続けている自分がいるのかもしれない。


 高校生活は、特に大きな変化もなく淡々と続いている。毎日が同じように過ぎていく中、あの頃の夢や妄想はどこかでまだ燻っている。だが、俺の中のどこかで、いつか何かが起こるのではないかという淡い期待は消えずに残っているのだ。


 HRが終わると、田辺美優たなべみゆが校門の前で待っていた。彼女の長い黒髪は、陽の光を受けてキラキラと輝き、風が吹くたびに軽やかに揺れる。その美しさは、触れることを躊躇わせるほどだった。彼女の容姿は、男性誌の表紙に載る女性にも負けないほどの魅力を持っている。


 一方、俺は何の変哲もない高校二年生、葛城拓哉かつしろたくや。休みの日は、ラノベやアニメに没頭することが多い。そんな俺の趣味を共有しているのが、美優だった。彼女は普段は優等生として振る舞っているが、俺と一緒にいるときはアニメや特撮の話に夢中になる。


「よお、美優」

「こんにちは、拓哉くん、待っていました」

 彼女は学校では清楚な美少女だが、校門を出ると途端にオタクの一面を見せる。「あのさ、あのさ今期のアニメ見たぁ?『魔法と涙の勇者』の第一話、すごく感動して何度も見返して寝不足になっちゃったの!あああっ、最高の作画そしてBGM、なんといっても主人公の声優さんのあの素晴らしい声っ。最高っ!」


「ごめん、昨日は寝ちゃって見てない」


「それなら、ぜひ、うちで一緒に見よう!」

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