おおきくなったらお姉ちゃんと結婚する!と言っていた隣の家の子が綺麗になってしかも婚約届を持ってやってきた件

緩音

第1話

「わたしね、大きくなったらお姉ちゃんと結婚する!」

「ありがとねー。結衣ゆいちゃんが大きくなって忘れてなかったらしてあげるー。」

私は結衣ちゃんを抱っこしながら言う。

「ほんとう?」

「本当だよ。」

「あらあら、いいの優奈ゆうな。そんな約束しちゃって。」

キッチンで夕食を作っているお母さんが顔を出してきた。

「どうせ忘れちゃうでしょ。だってまだ幼稚園生だよ?」

「それもそうね。それにしてもあなたたち本当の姉妹みたいに仲がいいわね。」

私は足の上に乗せている衣ちゃんの頭を撫でる。結衣ちゃんも体を私に預けてされるがままにしている。しばらく結衣ちゃんと遊んでいると家のチャイムが鳴った。

「今日もお世話になりました。これ食べてください。」

ドアを開けると女の人がいてケーキ屋さんの箱を渡してきた。この人は結衣のお母さんの羽奈はなさんだ。

「そんな受け取れないですよ。」

「結衣を預かってもらって本当に助かってるからぜひ食べて。結衣、迷惑かけてない?」

「うん!」

「結衣ちゃんと遊ぶのは楽しいですからまたいつでも預かりますよ。」

「本当にありがとうございます。」

結衣ちゃんのお母さんもお父さんもなかなか仕事が忙しいらしく週に2,3回のペースくらいで結衣ちゃんは遊びにやってくる。

「じゃあね。結衣ちゃん。また来てね。」

「ばいばい、お姉ちゃん。」

天使のように微笑む結衣ちゃんを手を振って見送った。




「夢か......」

六畳間の少し手狭な部屋で起床する。もう見飽きた天井と壁を視界に入れながら立ち上がって朝ご飯を食べる。

(それにしても懐かしい夢だったな。)

あれは10年前くらいの記憶だろうか。結衣ちゃんという女の子がよく家に遊びに来てた時の記憶だ。結衣ちゃんは私の家の隣に引っ越してきた家族の一人娘でよく笑うかわいらしい子だった。最初はちょっと避けられてたけどだんだん仲良くなってお泊りとかもしたっけ。でも結衣ちゃんのお父さんの転勤があって家族みんなで県外に引っ越しちゃったんだよな。朝ご飯を食べ終えて食器を洗いながらテーブルに置かれた写真を見る。そこには高校生の時の私と私に抱っこされている結衣ちゃんが写っていた。

(結衣ちゃんは私と結婚するって言ってきかなかったな。私もそろそろ26かぁ。結婚相手探さないといけない年齢だよなぁ。っといけない遅刻しちゃう。)

私は茶色に染められた髪を結んでスーツに着替えて職場に向かった。

「おはようございまーす。」

「おはよう優奈ちゃん。」

私の職場に入ると目がガンギマっている私の上司が椅子に座ったまま振り向いてきた。

「先輩また残業ですか?」

「ちょっとね。優奈ちゃんが来たしあとは任せてもいい?」

「わかりました。お疲れ様です。」

てきぱきと荷物をまとめると帰ってしまった。

(この会社はブラックだからなぁ.....)

私は座ってパソコンを起動しながらため息をつく。私が勤めているのは製薬会社で私はMR職と呼ばれる開発した薬の情報を医師や看護師に伝える仕事をしている。大学を出てから何とかこの会社に内定をもらったが待っていたのはとてつもない残業時間だった。残業を強制されているわけではないのだが薬を広める責任を担っているのでその責任感から雑な仕事をするわけにはいかないのだ。その結果さっきの上司みたいに身を削りながら仕事をしている。同期で入った人たちは結婚を期に会社を辞めたり転職したりしていった。

(ブラックというかブラックにならざるを得ないと言うか.......さ、仕事仕事。)

私はブルーライトカットの眼鏡をかけてパソコンとにらめっこを開始した。

(疲れたー。)

何が8時間労働だ。そんなのは最初の1か月ですら守られなかったぞ。

真っ暗で電灯も少ない通りをとぼとぼと歩きながら帰った。

「ただいまー。」

誰もいない部屋に私の声だけが響く。私はスーパーで買ってきた半額のお惣菜をテーブルに置いてとレンジで温めるご飯を温めて食べた。

(こんな生活してたらいつか体壊すんじゃないかな。)

そんな不安が最近私をよく襲うが転職先を探す気力もなければ今更この20代後半になろうとしている女を雇ってくれる場所なんてないだろう。

(誰か私を癒すか養ってくれー。)

そんな叶うことのないであろう想像をしながら眠りについた。



目を開けると時計は朝の4時を指していた。

(これもう完全に仕事病だな.....)

最近は4時起きで会社に行くことが多いのでこのくらいの時間になると勝手に目が覚めてしまう。

(でも今日は仕事が休み。いっぱい寝れる.....)

すこし大きなプロジェクトを先輩とこなしたので今日から少し暇になるのだ。

私はもう一度眠りについた。


ブーッ ブーッ

(なに....?)

滅多になることのない私のスマホが鳴っている。誰からかも確認せずに電話に出た。

「もしもし?」

「もしもし、優奈。私よ。」

「お母さん!おはよ。」

「おはよう。もしかして起こしちゃった?」

「ううん。全然平気。それでどうしたの?」

「そのうち暇な日ってある?」

「暇な日?今日は暇だけど。」

「本当!?じゃあ駅前のカフェに12時に来て。」

「よくわかんないけどりょーかい。」

「じゃあ切るわよ。」

「はーい。」

お母さんの声を久しぶりに聞いたな。ずいぶん帰省していないし今度帰ってみようか。お父さんびっくりするかな。


久々に親と会うこともあって美容室に行ってからカフェに行くことにした。

(さっぱりした。)

家か職場に籠ってばっかりだったのでが髪が伸びきってぼさぼさになってしまっているのを今日は久しぶりに整えてもらった。髪を切るとテンション上がるなぁ。

上機嫌なままカフェに入るとお母さんの後ろ姿が見えた。

「お母さん。」

呼ぶとお母さんが後ろを向いて気づいてくれた。

「久しぶり。」

「優奈少しやせたんじゃない?ご飯食べれてるの?」

「忙しくてなかなか。」

「健康には気をつけなさいよ。」

「はーい。それで今日はいきなりどうしたの?」

「今日は優奈に会いたいって子が尋ねてきたから呼んだのよ。」

「私に会いたい子?」

(子ってことは子供?誰だろ。)

しばらくお水を飲んだりメニュー表を眺めたりしながら待っていると声をかけられた。

かえでさん。優奈ちゃんお久しぶりです。」

声の主の方を振り返るとそこには先輩と同じくらいの女性と高校生くらいの女の子がいた。女の子の方は見覚えはないけど女性の方は何か見覚えがある。

羽奈はなさん?」

「覚えててくれたの?」

「え、ほんとに羽奈さん?」

「ええ、久しぶりね。」

「ってことは.....」

「お久しぶりです。優奈さん♡。」

女の子は満面の笑みで私に微笑みかけてきた。


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