飴色に呑まれる

蛸田 蕩潰

飴色に呑まれる

お互い住んでいる場所も身分も知らないのに、ばったり顔を合わせる人がいる。

その人を、仮にCとしようか。

Cさんは、中性的で美しい顔立ちで中背、いつも厚着をしているから体型はよく分からない。

大抵喫茶店なんかにいて、時たま僕がちょっと休憩にとでも寄ったところに、偶然といたりする。

Cさんは、僕を見ると決まって「賭けをしないかい?」なんて言ってくる。

この時、私はだいたいこう答える。

「賭けるのが、おカネ以外なら」

そうすると。

「よぉし」

などと言って、懐から何かしらの道具を取り出す。

この懐が本当に不思議で、そこからトランプやらサイコロやらを、時には麻雀牌と点棒さえも取り出すのだ。

どうやら今日のそれは、トランプらしい。

「じゃあ私はこのキャンディを賭けよう」

そう言って、Cさんは不思議な色の棒付きキャンディをチラつかせる。

Cさんが賭けるものといったら、大抵それだ。

「じゃあ僕は、このキャラメルを」

ポケットに入っていたキャラメルを取り出して提示する。

「よし」

どうやらお眼鏡にかなったらしく、Cさんは少し目を輝かせていた。

しゃぱりちゃきちゃき、プラスチックトランプの軽快な音がして、マジシャンのような手つきでカードを配るその指使いが、どうにも悩ましくも思えた。

僕の目の前にあるカードは2枚、そしてCさんの手札も2枚。

「ブラックジャックだ」

その声に頷き、僕に与えられた札を確認する。

♡の10、それに♧の2。

惜しい、これがJとAであったなら。

しかしてカードとはこういうものである、ひとまず次の選択をせねばならない。

「1枚引きます」

そう宣言して、山札の1枚目をめくる。

引き寄せた札は♧の4。

うわぁ、余計に困る。

こういう時、追加で引きたくなってしまうのもまた人の性…。

「私の番。引くね」

「あ、はい」

Cさんの指が山札に伸ばされ、音を立てて、私の引いた次の1枚目が、Cさんの手札になる。

「ふぅむ…。うん、私はこの手でいいや。君はどうする?もう1枚引くかい?」

眉のひとつも動かさずに、Cさんはそう言った。

Cさんはこういうところがある。

表情の機微が本当に読めないというか、無いのだ。

ブラックジャックだけどポーカーフェイス、麻雀にしてもなんにしてもだ。

「…」

そしてこうして懊悩する僕を見る時だけは、愛らしくも蛇みたいな端正なその顔をニヨニヨさせている!

ああもう本当にわからない、ええいままよ、引いてしまえ!

「…引きます」

そうして見えたのは、♢の6。

21を超過、ああ、僕の負けだ。

「…バーストです」

「…っはは、君ほんと単純、ちょっと見つめちゃっただけで簡単に引いちゃった、あ、私の手札これね」

そうしてみせられたのは、♡の9に♢の2、そして♤の8。

「どっちにしろ負けじゃないですか〜!」

「くふふ、ざーんねん、キャラメルはいただいたよ。じゃあ私は行くね、あ、特別にこれはあげる。次は頑張って」

そうして、ほとんどの場合僕は負けて、でも特別にと棒付きキャンディをもらう。

不思議な色の味のする、Cさんにもらう以外では見たことの無いキャンディ。

そのキャンディがまた美味しくて、また欲しくなって、そうしていつしか、僕はまたCさんに出会うことを、心待ちにしてしまう。

それはきっとキャンディのせい、そう、キャンディのせいだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飴色に呑まれる 蛸田 蕩潰 @6262-334

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る