絵 描かれなかった、彩るもの
金子ふみよ
第1話
絵が描かれていた
一滴の赤が、筆先から落ちた
赤にする予定もない
コントラストを引き立てるわけでもない
飛び散った赤を消去するために
スポンジを渡す手があった
ティッシュを差し出す手があった
カッターを握らそうとする手があった
別の色が重ねられた
赤は塗りつぶされた
そこに赤があったとはまるで見えない
赤が存在したことを認めないかのように
絵の中の
意図のない塗布を
画家でさえほどなく忘れてしまう
まして娯楽がてらの来場者は
その絵のそこに赤があったなど
つゆとも気付くことはない
絵のところどころでは
赤が豊かに調和しているというのに
ただ
空は見ている
テントウムシは知っている
絵は、
赤の上に加えられたあの色は叫んでいる
一点の赤があったことを
描かれる絵の中には
描かれはしないが彩る色があることを
すると
一人の鑑賞者が連れにささやいた
その連れは友人につぶやき
瞬く間にその絵の見方は一変した
絵 描かれなかった、彩るもの 金子ふみよ @fmy-knk_03_21
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます