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 太陽の輝きをそのまま閉じ込めたかのような豊かなブロンドヘアーの三つ編みが歩くたびに揺れる。30代とは思えない陶器のような白い肌に赤い唇は、まるで童話の登場人物のように人間離れしていて美しく――目は獲物を狙う猛禽類のごとく鋭い。

「お久しぶりです、ギルベルタ・フォルクマン基地指令殿」

「おっと、随分と刺々しいね? 気軽に『ギル』と呼んでよ、エミリー」

 ギルベルタは握った手をそのまま引き寄せるとエミリーを抱きしめた。全身を包み込む心地のよい温かさと、勇猛果敢な軍人らしからぬ控えめな甘い匂い。それらは長旅で疲れたエミリーの心に容易く入り込んできた。彼女もまたギルベルタを抱きしめ、そして思わずその肩口に顔をうずめた。

 ギルベルタは、黙って彼女の背中をさすった。

 しばらくすると「さて」と言ってギルベルタが身を離した。狩人のごとく相手を射貫くような瞳は、今ばかりはエミリーに向かって優しく細められていた。

「立ち話もなんだから、私の部屋に行こうか。エミリーが来るからと東側から茶葉を取り寄せておいたんだ。それを飲みながら少し話をしよう」

 彼女に肩を抱かれ、エミリーは小さく頷いた。僅かな安堵によって潤んでしまった目元を見られないように俯きながら、こっそりと鼻をすすった。


 シュテンデン北方都市オンズにある第25陸軍基地の一室はギルベルタのために設えてあった。明るいクリーム色のカーテンや窓際に生けられた花、上品な小花柄のティーセット、そして統一感のあるダークブラウンの調度品など、それだけ見れば誰も軍の施設だとは思わないだろう。

 赤いクッションの椅子にゆったりと腰かけたギルベルタは紅茶を口にし、その香りにほぅと息を吐いた。

「さすが、トーアンズから取り寄せただけのことはある。まるでリンゴをそのまま齧ったかのような香りだ。エミリー、クッキーも一緒に食べなさい。私はさっき食べたんだがこちらも薔薇の香りがして美味しかったよ」

「人がせっせと準備しているときにつまみ食いしてましたもんね」

「味見と言いなさい、トム」

 気安い様子で言い合う二人を眺めながらエミリーは紅茶をちびちびと飲んでいた。猫舌なのだ。少し含んだだけで果物の甘い香りが口いっぱいに広がり、心に幸せがじんわりと広がる。そこへおすすめされたクッキーをさくりと齧る。軽い食感の生地と共にバターの甘さと薔薇の香りが舌の上でほどける。

「美味しいかい?」ギルベルタが微笑んでいる。あまりに呆けた顔をしていたのかと、エミリーは居住まいを正した。それを見て彼女はいっそうおかしそうに笑った。

「長旅だったからすぐにでも横になりたいだろうけど、その前に緊張をほぐすことも必要だと思ってね。少しは気が休まっただろうか」

「お気遣いありがとうございます。会ったらギルベルタさんに取って食われると思っていたので、ひとまず安心しました」

「好物は最後に取っておくタイプなんだ。油断しちゃいけないよ」

 彼女たちはしばらくおしゃべりに花を咲かせた。まるで古くからの友人であるかのように、次から次へと話題に事欠かなかった。

「さて」

 そう言ってギルベルタは足を組み直す。少しばかり悲しそうな顔でエミリーを見つめる。エミリーもまたティーカップを置いて真っ直ぐに彼女の視線を受け止めた。

「ずっとこうやって話していたいが、そういう訳にはいかないね」

 エミリーは「そうですね」と頷いた。そう、彼女は楽しいおしゃべりをするためにこの地に来たわけではないのだ。

「エミリー・ヴァイゲル参謀本部補佐官、君のここでの過ごし方について話をさせてもらおう」


 これから軟禁生活が始まるのだ。エミリーの心に再び重い鉛のようなものが沈んでいった。

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