第13話【朗報】カレーの意外なる効果!
例のカレーのお供が抱き合わせて販売されてから数日、何故か王様にお呼びされた。
カレーの件かな? と思ったら案の定である。
「聞いたぞ、其方が作り出すカレーなる毒物は、症状を引き起こさずに飲み込めば眠っていた身体能力を引き起こすそうだな。おかげで我々の戦力は鰻登りだ。改めて例を言おう」
知らん……なにそれ……怖っ。
「もったいなきお言葉でございます」
そんな効果はつけた覚えがない。
実際、ほぼ無害で食べられる僕にはそんな効果ついてないぞ?
それとも毒物無効薬品と掛け合わせてそのような効果が出たのか?
「して、いつ私にそのカレーなる品は献上されるのか」
「あの、話聞いてました? それって結構な毒物なんですが。うちの商品を買ってくれたらおまけで緩和する解毒剤を抱き合わせて手渡してるだけで、普通に毒です。食べ物ではありません」
「だが、私は其方のフレンドだ。毒物は無効だと聞いておる。そして娘もな、いつ食べる機会が来るかと心配しておったぞ?」
え、そうなの?
側仕えてるフレンダさんは無表情で僕を見つめてる。
尻尾が揺れてる気がするのはきっと気のせいだろう。
欲しかったんなら言えばいいのに。
帰国してから、あんまり城下町に来なくなったのは単純に仕事が忙しいからだと思ってたけど、他に理由でもあるのかな?
「気づかず申し訳ありませんでした。後日人を遣わせましょう」
「ダメだ。非常に危険な毒物だと聞く。使用人には扱わせられない。貴殿が直接持ち運び、我々に配膳せよ」
「危険だってわかってんなら食べないでくださいよ」
「だって気になるんじゃもん」
だってとか言っちゃったよこの人。
「アキト、オレも噂を聞くだけで、食べれてないのを不服に思う。最悪、父上を連れてお忍びでお前の店に遊びに行ってもいい」
ダメでしょ。何王族が護衛なしで彷徨こうとしてるんですか。
フレンダさんは強いからいいけど、王様はつい最近まで謎の奇病にうなされてたばかりでしょ? 病み上がりを連れ回すんじゃありません!
「僕は構わないんですが、食べさせるのは二名だけにとどめてくださいよ? おかわりしたり、身内に勧めたりするのもなしです」
「「!!」」
2人して「信じられない!」みたいな顔してら。
僕は事前に毒物だと言ったよね?
なんで王族がそんなに警戒してないんだよ。
それはそれで問題だろ。
危機意識どうなってんだ?
「毒物だって説明しましたよね?」
「だが特効薬があるのだろう?」
「僕のお店の商品を買い付けてくれた方にのみ限ります。単品での販売はしておりません」
「そこをなんとか。我が騎士団の底上げに武器を買いつけてもいい」
「うち、アイテム屋なんですけど。武器なんてスリングショットくらいしかありませんよ?」
「嘘を言うな。ベアードが短刀を見せびらかしていたぞ? 木製でありながら振るうだけで岩をも切り裂くそうじゃないか。一つ欲しいくらいだ」
「それはスリングショットの裏の効果ですね。僕の力じゃ、スリングショットにセットして、発射することで岩に刺さるくらいの威力しか出ません。振るって岩が切れるのは初耳です。そんなのできるの実質ベアードさんだからじゃないですか?」
「あのなぁ、アキト」
「なんです? フレンダさん」
「普通どんなに鍛えても、木製の武器で石は切れない」
「普通はそうですね。しかし僕が発見した特殊な硬化剤を使えばそれが可能なんです。よかったらそっちのレシピは公開してもいいですよ」
「毒素は?」
「あるわけないじゃないですか。僕をなんだと思ってるんですか?」
「「毒ジャンキー」」
2人して酷いや。
僕はその日ひっそりと枕を濡らすのだった。
後日、カレーと特効薬を加工した福神漬け、硬化剤の素材を持って登城する。
兵士からは瓶から漏れ出た漂う香りに興奮を抑え切れない態度を露わにされ、すれ違うメイドたちからカレーの封じられてる瓶をひったくられそうな気配をビンビンに感じながら謁見の間へと至る。
「今日こそ食べさせてくれるのだな。この日という日を待ち侘びておったぞ」
「今回食べさせるのは特濃カレー、いわば猛毒バージョンです。先日僕個人が開いたカレーパーティで薄めまくったスープカレーの比じゃないことを先に明記しておきます」
「濃厚とな? 今から楽しみじゃのう」
「ごたくはいいから早く準備しろ。先ほどから腹の虫がうるさくて敵わん」
この王族ときたら、僕の気持ちもわからずに催促ばかりうるさいんだから。
「流石に厨房を使うのは忙しないので、この場でご用意しますね。今日食べていただく皆様以外の方には事前にこれをお渡しします」
僕は陶器の中にたっぷり仕込んだ福神漬けを1人、1人に手渡していく。
猛毒と銘打ったように、こちらも最高級の特効薬となっている。
うっかり嗅ぎすぎて中毒症状を起こしても、緩和できるお墨付きだ。
「それはなんだ?」
「毒物を緩和させる特効薬にございます。僕の国ではカレーといえばこれ! と言うほどの愛称を持っておりました。まずはカレーのまま頂き、のちにこれと合わせていただきましょうか」
僕は三人分のカレーを用意。
僕、王様、フレンダさんの前に配膳して、頂きますをした。
なんで僕の分があるのか?
そんなもん毒味以外の何者でもない。
事実確認をする以前に毒物の塊なのだが、僕にとって効果がある毒はフレンドにも波及するのだから僕が食べて大丈夫な必要があるのだ。
「では最初に失礼します。僕はカレーにはライス派なのでライスと一緒に召し上がりますね? 皆さんにはお肉を付け合わせにご用意してます」
米は行商人から買い付けた。
基本的にフレッツェンでは米食文化がなく、これれは家畜の餌になるようだった。
買い付けて自分で食うと言ったら大目玉を喰らった覚えがある。
まぁ、普段から毒物を扱ってるので今更だけどな。
「もぐもぐ。うーんデリシャス。これは福神漬けも試したくなる。もぐもぐ」
普段独り言は言わないタチの僕だが、本当にうまいものを食べると出ちゃうのだ。
それ以前に僕には説明責任があるので、食事中のマナーはある程度無視させてもらった。
相手に一切に何も言わせずに、完食。
特に何かの特効薬を飲むこともせず、体になんの異常もないことを明かした。
「ごちそうさまでした。やはりカレーにはライスが最高だ。ささ、皆様も温かいうちにお召し上がりください。もしもライスがよろしかったら、ご用意しますよ」
「ぜひ頼む! さっきからすっかりそれも食べてみたいと言う気がしてならん!」
「それよりも先にこのステーキと共にいただこうじゃないか」
すっかり涎掛けを濡らしながら、王様がフォークで肉を切り分けてカレーに浸して食す。
フレッツェンは獣人国なので、基本食は肉である。
別に生食文化があるわけでもなく、ちゃんと加工された肉も食べられている。
その中でも最もポピュラーなステーキをチョイスしたわけだ。
「ふぅむ! これはすごいな。肉を食しているのに口の中がカレーで満たされておるぞ!」
王様の頭の上の耳がピクピクする。
フレンダさんに至っては無言で尻尾をブンブンさせた。
相当気に入ってくれたらしい。
ステーキは僕が一切関与してないので、おかわりを申し出たら専属のシェフが次々とお代わりを持ってくるシステム。
ライス派僕しか食べないのもあり、おひつからよそって手渡す形で準備してある。
肉を食べたら米を所望されたので手渡していく。
僕はステーキをもらってご飯の上に乗せて食べる。
ここの肉は肉汁たっぷりで口の中で溶けちゃうような極上の一品。
そこにカレーをちょい足し。
あとは混ぜてかっこむ。
マナーなんて関係ない。僕がマナーだ。
ご飯の正しい食べ方はこれだ!
適当に言ったら王族も真似して食べ始める。
なんか、ごめん。
申し訳なくなりながらも、カレー会食は恙なく終わりを迎えた。
「いやぁ、感服した。民たちが夢中になるのもわかった気がする。これを国民食にしようと思うのだが、どうだろうか?」
「僕からはやめとけ、としかいえませんね」
単純に、特効薬を作るのも、カレースパイスを作るのも手間だからだ。
なんで猛毒を好んで作るのか。これがわからない。
「オレからも頼む、アキト。研究資金が必要ならオレの小遣いからもいくつかだそう」
「私からも頼む、落ち込んだフレッツェンの活力をより一層高めるのにこれらは活かせる気がするのだ」
王族が2人して頭を下げる始末である。
正気か?
「あの、聞いてました? これは毒なんですよ」
「聞いていた。だが、振りかけるだけであれほど活力のみなぎるスパイスは初めてだった。もしこれを野戦中にいただけるのなら、我らは死兵隣らず、勇猛果敢な将に変わる。それほどの効果を持つ」
なんか大層な効果があるみたいに言ってるけど、それってただ力尽きる前に発揮する火事場の馬鹿力だったりしない?
毒物を国民食だなんて馬鹿のやることだ。
そんなふうに思いながらも、僕は二つ返事で快諾した。
毒を食らわば皿までだ。
ちなみに硬化剤には見向きもされなかった。
解せぬ。
後日。
カレールゥと福神漬けを抱き合わせて販売した。
福神漬けがルゥに比べてだいぶ多いのは、念には念を入れてのことである。
連日売り切れで、うれしい悲鳴をあげる僕がいた。
もしどこかのバカが単品で食えば、間違いなく『不可解な死』として取り上げられるだろう。
しかしここで予想外の事態が起こった。
「え、カレーを食べたあと、内気で臆病な草食種が大岩を拳で砕いた?」
知らん……なにそれ……怖っ
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