第12話【悲報】生き急ぐ若者多すぎ問題

 あれから僕は王様と出会い、フレンド登録した。

 その時に市民権と、店を持つ権利を得た。


 要は僕の知識や蘊蓄をフレッツエンの住民たちに使ってくれと言う願いを受けた。

 まぁその程度ならと安請け合いしたわけだが……


「あのクソガキども! また僕の倉庫にあった作りかけのアイテム持っていきやがった!」


 僕は子供達から絶賛舐められているのか、しょっちゅう倉庫が荒らされている。

 大人と違って子供はお金を持っていない。

 だから完成品を買うお金がなく、犯罪に手を染めるのだ。


 ただ犯罪をするにも前科を重ねる勇気はないのか、作りかけのものを持っていくのだ。親はどう言う教育をしてるのか、顔が見てみたいもんだな。


「よう、いるかい?」


「あ、親一号」


「なんだよ突然」


「いや、最近の子供の手癖はどうなってるんだと思っててな」


「なんの話だ?」


「うちの倉庫からしょっちゅう作りかけのアイテムが盗難に遭うんだ。犯人は割れている。どうせお前達の子供グループが狩ごっこをしているとかだろう? 僕は詳しいんだ」


「狩ごっこか、お前にはそう見えてるんだな」


「違うのか?」


「全然違うぞ。普通に狩だ。俺たちフレッツェン人は今ぐらいの歳の頃から狩りに連れていくんだ。カースヴェルトの連中があちこちに呪物を置いて行ったせいで、野生動物がいないので、曲者を追い払うことで修練を課してるんだ」


「修練なら、武器くらい買ってやれ。盗みは良くないぞ?」


「うちの子は普通に爪や牙が武器だ。多分盗みを働いたのは兎人か羊人の子供だろう。叱るならそちらの親に言うのが筋だ。俺じゃない」


 こいつ、自分の家は関係ないって言い切りやがったな?

 お前の子供のグループだろうが。


「お前が引率したんだろ? 引率者が責任取れよ。安くしてやるから」


「お前の武器、法外な値段がついてるってもう少し自覚をだな」


「その分画期的だからな。このスリングショットとかどうだ?」


 弾くと三方向に弾け飛ぶスリングショットの紹介をする。


「何向けだ? せっかく照準を当ててるのに、明後日の方向に飛ぶとか本末転倒すぎる」


「バカだなぁ、まっすぐ飛ぶと見せかけて、回避方向を塞ぐためにあるんじゃないか。狙う相手が地に足つけてるんなら、これだけで相手にダメージを蓄積することができるんだ」


「お前の画期的は画期的すぎてわからん。そしてこんなわけのわからんものに金塊を20個出すやつもそうそういないだろうに」


 金塊。これがこの街の通過だ。

 基本的には粒、欠片、塊という括りで。

 銅、鉄、銀、金というグレードに上がっていく。

 ちなみに僕の店で売ってる商品は最低単価が金塊だ。

 ベアードはこれをぼったくりと言い張るのだから困ったものだ。


「だいたい、素材が木で金塊は無理がある」


「わかってないな。この木、お前の爪でも壊れないぞ?」


「そんなわけあるわけないだろう?」


 ベアードはふふんと鼻を鳴らした。

 なんなら大木の一つや二つ、倒したことがあると自負してきているベアードだ。


「そういう塗料を塗ってあるんだ。だからこその値段で、頑丈さだけが取り柄だからこうやって変形させるだけで刺突武器にもなる」


 スリングショットのつまみ引くと、上の部分が外れて短刀になる。

 それをスリングショットにセットして、発射すると、壁を貫通して石の的に突き刺さった。

 木製の短刀が、である。


「すぅーー」

 

 ベアードが先ほどまでの自信を引っ込めて顔を青くしながら浅い呼吸をする。


「どうだ、この威力? 木製だと侮った相手の心臓すら射抜くぞ? 金塊で買えるなら安いもんだろ?」


 簡単な力で石の間とから引っこ抜き、もう一度セットしてつまみを押す。

 そうすることで元の三方向スリングショットに戻った。

 ちゃんと買う人向けにこの隠し武装の説明は隠しておくつもりだったんだが、あまりに売れないので、ここらで明かしておくことにした。

 これを機に興味を持ってくれる人が出てきたらいいなって。


「この技術、いっそ武器屋に売ったらどうだ?」


「んー、そういうのは僕の美学に反する」


「こんな金額で売るより、いっそ大儲けできると思うんだが」


「僕は別に儲けたくてこんなことをしてるんじゃないんだぜ?」


 ただ蘊蓄を使ってくれる人がいないから、自分で形にしてるだけだ。

 金儲けをしたいわけじゃない。

 そういうのは性に合わないんだよ。


「そうかい、そりゃ初めて知った」


「そういやお前はウチまで何しにきたんだ? 犯罪者集団の引率さん?」


「その言い分はいちいち引っかかるな。まぁ、これはお前にしか頼めないことなんだがな」


「僕にしか? どんなのだ?」


「カレーが欲しいそうだ」


「なるほど、懲りない自殺志願者がいるらしい。どこの誰だ?」


 カレー。それは僕が楽しむためだけに作り上げた猛毒を凝縮させた何か。

 毒耐性がない奴が、そうそう口にしたら間違いなく死ぬ。

 けど香りだけはとにかく最高で、それだけでご飯何杯かはいける!

 と言わしめる香辛料である。


 なお真水で十数回希釈して、ようやく飲める濃度になる。

 カレーは飲み物とはよく言ったものだな。

 フレッツェンは特に肉を生で食う習性がある。

 その味変にカレーソースを作ったのだが。

 これがまた周囲に大好評で困り果てているのである。


「うちの娘が、初金星をあげた祝いに食べたいと」


「バカじゃないのかお前。親なら止めろよ、娘が可愛くないのか?」


「可愛くないわけないだろう! ぶっ殺すぞ?」


 ダンッと力強くテーブルを叩く。

 凄んだところで自殺するような選択肢を真に受ける奴があるか。


「じゃあ、どうしろっていうんだ? 毒物を用意しろってだけじゃないんだろ?」


「もちろんだ。美味しく食べられるように改良してほしい。毒林檎ジュースにやったみたいに」


「また無理難題をふっかけてきたな。僕に引き受けるメリットが何もないというのが早くもやる気をなくさせているが」


「作ってくれたら、そこのぼったくり作品をいくつか購入してやる。それでどうだ?」


「ぼったくりじゃないってーの。まぁ、そういうことなら少し頑張ってみますかね」


 どっちみち、遅かれ早かれこうなることは目に見えていた。

 勝手に味見して死なれるよりかは全然いいか。


 フレンドにしちゃうのが全然早いんだけど、上限があるからな。

 勇者三人、フレンダさん、王様でもう五人。

 残り五人はこんな和気藹々で使うもんじゃない。


「一日くれ」


「今日祝ってやりたいんだが」


「じゃあ、このまま持ってくか? 墓場まで一直線で良ければ」


「今日あやすのに苦労しそうだ」


 ベアードを見送り、僕は店を早じまいした。

 どうせ閑古鳥が泣いてるし、早く閉めても客なんか来ない。


 なんだったら猛毒を食えるための蘊蓄を活かしたほうが全然、みんなのためになりそうだと思った。


「よし、出来た」


「三日もかけやがって。おかげでうちの娘はヘソを曲げたぞ?」


「うるさい、猛毒を口にするんだ。それを平気にする特効薬が三日でできたんだぞ? 普通は大発見と大喜びするところだ」


「喜んで娘の機嫌が治るんだったらいくらでも喜んでやる」


「この親バカめ。今日は僕の奢りで宴を開く。その時に自慢の愛娘を連れてこい。笑顔を約束してやるよ」


「期待してるぜ?」


「当たり前だ。その代わり、約束は果たせよ?」


「なんか約束してたっけか?」


「うちの店の商品を買ってくれるというやつだ!」


「負けてくれるっていう話で乗った覚えがあるんだが?」


「2割くらいは負けてやるよ」


「もう一声!」


「十分譲歩してる! その上でカレーも普通に飲めるようにしたのに! 僕の方が損してるんだが?」


「まぁいいじゃねぇか。おかげでみんなカレーを飲めるんだ」


 ニコニコ顔でベアードが言う。


「ああ、そのことだが。全員は飲めないぞ?」


「おい、話が違うじゃないか」


「僕が請け負った注文は娘の笑顔を取り戻す、それだけだった。娘一人ぶんのカレーを美味しく飲める薬の発明だったはずだ。他のみんなは僕のお店から金塊単価の薬を買うしか飲む方法はないぞ?」


「ぐっ! 騙しやがったな?」


「おいおい、こちらにタダ働きさせたのはどこの誰だったかな? カレーは文字通り奢るが、薬を無償でくれてやるのはお前の娘一人分だ。それ以外は僕の店で商品を買えばおまけでつけてやるよ。これ以上の譲歩はないぞ?」


「それでいい! じゃあその盾とスリングショットを買う! 俺とカミさんの分はそれで確保でいいんだな?」


「毎度あり」


 その日のカレーパーティは大好評だった。

 カレーの美味しさと、散財した大人たちの嘆きの声で悲喜交々だったのはここで語ることではないだろう。




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