第10話【朗報】猫人の肩書きゲットだぜ

「アキト」


「はいはい、どうしました」


「本国から帰還命令が出た。お前もこい」


「おや? 人間が入っても大丈夫な国になったんですか?」


「本来ならダメだ。なのでこれをつけろ」


 手渡されたのは猫耳のカチューシャだ。普通の耳まですっぽり覆うタイプの。

 こんなので良いのか、獣人国よ?

 後誰が猫ちゃんだ。虎耳をもってこい、虎耳を。


 まぁ僕の体格的に虎はあまりにも似合わないので猫で妥当か。

 いそいそと装備をする。

 なんだろうか、周囲からの視線がやけに痛い。


「お前は襲われた村で徴兵した戦士ということにする。保護してくれる村の連中との口裏は合わせた」


「俺が志願した」


 出てきたのはベアードこと熊おじちゃんだ。

 匂いで困ってた彼だ。


 その後奥さんや子供にもバカ受けの商品を提示した覚えがある。そういえば最近カースヴェルトの敵将を討ち取ったとか。

 随分その名を拠点で聴くようになった。

 匂い以外での評価とか初めてだったんじゃない?

 

 失礼なことを考えていると、ギロリと睨まれた。

 驚いた、心でも読めるのだろうかと反省しながらフレンダさんの話に意識を向ける。


「僕、嗅覚はそれほど優れてませんけど?」


「お前の能力を嗅覚がわりに使え。特別に毒を嗅ぎ分けるとかそういう設定だ」


「設定多いですね」


「特例だからな。それに、今後も耳なしとして侮蔑されたいのなら今まで通りでも構わんがどうする?」


「ありがたくつけさせていただきます!」


「ヨシ! ならば本国に帰還する! 片付けの後、臭い消しを重点的にしておけ! 奴らは我々の微細な香りまで嗅ぎ分ける。脅威なのは呪いだけではないことを念頭におけ」


「ハッ!」


 早速僕の匂いけしのレシピが大活躍だ。

 大人達がテントを片付けてる間、子供達を一手に集める。

 邪魔をさせないというよりも、自衛の手段をそこら辺にあるものでするためだった。


「良いかい、君たち。ここにはいろんな遊び道具がある。その中で君たちの今後に役立つ遊びをここで教えてあげようねぇ」


「どんな遊び〜?」


「泥団子だよ」


「泥団子〜?」


 そこそこに興味をひいてから実践する。

 泥というのは柔らかく、それを纏うことで実際に触らなくとも毒物を内包することができる優れものだ。


「普通に遊ぶ時はそのまんまこうやって丸めて投げつけるんだ。泥をいっぱいつけるのは戦士として当たり前だからね。遊びながら学んでおくように」


「戦士として泥は重要ってこと?」


「敵と戦う時、例えば熱を探知する敵がいるとする。そういう場合はどうやって敵の目を掻い潜る? 温度が暖かいと、そこにいるってバレちゃう強敵だ。蛇なんかはそういう特別な能力を持っているよ」


「お水の中に入る?」


「そうだね、それでも敵の目は掻い潜れる。でもずっとお水の中に入ってられる? 息は続きそう? 相手が注意深くその場に止まったら大丈夫?」


「無理ー!」


 一人の子が声を上げると、他もどんどん「無理かも」と気づき声を上げ始めた。

 全員が全員得意なことはない。

 ここは吐き出させることで共感性を持たせるのだ。


「だよね。僕も得意じゃない。そういう時、泥を体につけるんだ。そうすると泥が体温を奪ってくれる。相手がこちらから遠ざかるまで息を潜められる。または攻撃できる必殺圏内まで引き寄せられる。相手を一切警戒させずにね」


「そうなんだ!」


「すげー!」


「泥って便利なんだね!」


「でも僕、敵を見つけても攻撃できないよ?」


 子供の中には生まれつき、引き継いだ因子によっては牙や爪がそこまで鋭くない種族もいたりする。兎、山羊などの草食系だ。


「だからこそ、この泥が役に立つんだ。相手のどこに当たっても動きを止める効果を持つ毒を持つ草花や果実、キノコを紹介しよう。投擲はいつも遊んで命中力をつけ、いざという時はそれを包んで投げて時間を稼ぐんだ。要は鬼ごっこだね。できるかな?」


「それって普通に触って大丈夫なの?」


「普通に触ったらダメだね。だからこうやって泥を纏うんだ」


 手に泥を一定量掬い、それで触るだけで焼け爛れる花を包んで丸める。


「これで即席しびれ団子の完成だ。泥はなるべく分厚くしてね。それでも心配だったらお母さんから手袋を借りて、いつも所持するようにしててね」


「「「「はーい」」」」


 子供達は元気いっぱいだ。

 遊び方を教えたら、早速泥を丸めて投げ合ったりしていた。

 

「アキト、出立の準備ができたぞ……子供達の相手をしてくれてたのか」


「まぁ、これくらいは。彼らも何かしたくてうずうずしてました。なのでこうやって泥を丸めて投げつける遊びなんかをね」


 あくまで遊びとして紹介する。


「泥団子か。オレも昔兄と遊んだものだ」


「お兄さんがいらっしゃったので?」


「もういない。勇敢な戦士だったが、ゼラチナスの勇者に打ち取られた。賢者という才能を持つ勇者だ。どんなに優れた体術を持っていても、見えない場所から一方的になぶられてどうすることもできん。だからオレは、兄の意思を汲んで遠距離でも戦える魔法を覚えた。だが仇を打つ前に、その男は死んだと聞く」


「すいません」


 聞くのは野暮な内容だったかと謝る。


「平気だ。オレから持ち出した話だしな。それと、本国でもそういう戦士の家族は多い。いまだ人間種を耳なしと卑下するくらいには嫌われている」


「根の深い話なんですね」


「だからこそ、お前を徴用したいと上に掛け合って、受諾されるとは思いもしなかった」


「あれ、僕はこのままフレッツェンの戦士としていけちゃう感じですか?」


「なんだ? 嫌だったか?」


「いえ、どうせどこに行っても扱いは変わらないでしょうし、今はどこでも大丈夫ですね」


「一人、お前のフレンドにしてもらいたい人物がいる。それが交換条件だ」


「それくらいでしたらお安いもんです。王様とかですか?」


「話が早くて助かる。我が父がお前を一目見たいと申している」


 王様を父と呼ぶ。

 つまりフレンダさんは……ええ?


「なんだその顔はオレが獣王国の姫であることに不服そうだな?」


「随分と騎士としての地位を築いていらっしゃると思って」


「どうとでもいえ。だが、兄を討ち取られ、じっとしていられる性分ではなかっただけだ」


「血気盛んなんですね」


「引き継いだ獣の因子がそうさせるのかもな」


 狼。それがフレンダさんの引き継いだ因子だ。

 群れを率い、しかし本人も前に出る。

 近接戦が得意で、中距離、遠距離からの構成魔法も得意。


 もうこんなのチートだろ。

 ゼラチナスのお姫様もさぞかし頭を抱えたことだろう。

 そりゃ勇者も召喚したくなるわけだ。


 が、最悪を想定して先に動いておいた甲斐があった。


「これは全然関係ない話なんですけど」


「なんだ、突然」


「実は僕、他に3人フレンドがいるんですよね。フレンダさんとフレンドになる前から」


「そうか。それが一体なんの……いや、待て3人だと? 確かゼラチナスに呼ばれた勇者の数は」


「偶然なことに僕を除けば三人ですね。いやぁ、奇遇なこともあるもんですね」


「何が奇遇なものか、大法螺吹きめ。ならば彼の国の勇者はオレたちの敵にならないと思っていて良いのか?」


「僕の耐性を貫通してくるデバフがついてる可能性もありますが、話が通じないことはないと思います。今の所魅了や思考誘導、隷属化なんかは弾けてますので。そしてフレンドになることのメリットがもう一つ」


「まだあったのか?」


「はい、これが僕として非常にメリットになるもので」


 それが……フレンドの掛かってるデバフも検知して自分の耐性を増やせるというものだ。ただ僕本人が受ける時よりも非常に遅く、ゆっくりとしたものなので、即座に獲得とはならないのだけど。


 そのことを含めて話すと、フレンダさんはまた怪訝な表情をした。


「なんでお前追放されたんだ?」


「さぁ? きっと僕とあの国が合わなかったからじゃないですか?」


「フレッツェンとは馬が合うといいな」


「初手で洗脳してこなければ、僕は大概のことを許せる男ですよ?」


「初っ端で地雷を踏んだか、あの国は。御愁傷様という他ないな」


「フレッツェンではそうならないことを望みます」


「オレからそうならないように掛け合っておく」


「お願いしまーす」


 僕はその日から猫人のアキトの肩書きを得た。

 尻尾がないって?

 あんなのは飾りですよ。偉い人にはそれがわからんのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る