こわい彼氏
隣乃となり
おかしい
最近、彼氏の様子がおかしい。
浮気を疑っているとかそういうことではなくて、本当になんだか「おかしい」のだ。
誰もいないところに話しかけたり、たまに無表情でどこか一点を凝視していて、そういう時は呼びかけても全く反応しない。
中でも私が一番おかしいと思っているのは、彼氏が外出するたびに必ず何かしらの動物の死骸を持ち帰って来ることだ。
一番初めはアリの死骸だった。潰れたアリを手に握って、家に帰ってくるやいなや嬉しそうに私に見せてきた。衝撃的すぎて、私は何してるの!?と思わず問い詰めたくなったが、彼の嬉しそうな顔を見たら、たかがアリごときで責めたら可哀想だな、と思えてきて、特に何も言わなかった。
でも最近、それがエスカレートしてきている。
一昨日は雀、昨日はカラスの死骸を持ち帰ってきた。私はいい加減良くないと思い彼を叱ったが、彼は「だってあったから…」と言葉を濁すばかりだ。
まるで小さい子供と話しているみたいだった。
そういえば彼は最近、言動なども時々子供っぽくなっている。死骸を持ってくるのも、小さい子にありがちな無邪気さ故の行動なのかな、と思う。
でも、それなら尚更良くない。
彼はもういい大人だ。この年で子供っぽい行動をとっているのは、つまり、なんだろう…何か精神を病んでしまっている可能性もある。
今までの常軌を逸した行動も、精神を患っているからと考えると自然かもしれない。
だったら…
ガチャリ、と玄関の扉が開く音がして思わず体が硬直した。
―――帰ってきた。
今日は何を持ち帰ってきているのだろうか。
どくん、どくん。自分の心臓の音が大きくなっている。
頼むから、変なものじゃありませんように。
「ただいまー」
最悪な想像をしていたからか、それを裏切られたことに驚いてしばらく声が出なかった。
―――持ってない。何も。
彼が手ぶらであることを確認して、思わず安堵のため息が漏れかけた。
「おかえり」
今日はちゃんと笑顔で言うことができた。彼は私に微笑み返して、手を洗いに洗面所の方へ向かった。
良かった。今日はおかしくないみたい。
でも―――こんなことを毎日続けていくのだろうか。玄関の鍵が開く音に動悸が収まらなくなって、彼の手の中の残酷な未来を想像する、こんな生活を。
ほんのりと、だけど確かな、破滅の予感がした。
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