コワい噺

松倉愛

知ってはいけない人形の話

 これ、実際にあった私自身経験したイヤな話なんですけど、聞いてもらえます?


 うちの家族って祖父が亡くなるまで、2年に1回くらいのペースで一族で旅行に行くのが伝統というか、習慣だったんですよ。

祖父母とアメリカの従兄弟家族、私の家族の11人。これだけの大所帯、本当に迷惑だったと思うんですけどね。


 それで、いつだったかな。私が専門学生の頃だったから18か19くらいの頃の旅行の時。祖父の出身地のT県に行ったんです。

 私、昔からこの旅行行事が嫌で嫌で、当時付き合ってた彼氏にずっとメールで「つまんない」「かえりたい」って愚痴ってた気がします。


 色々観光しましたよ、観光地っぽいところを沢山。

「あー、こんなのもあるんだなー」

なんて呑気の考えてた気がします。

沢山観光して、旅館についたんですけど、その時点で何ていうのかな、違和感というかイヤな感じというか。

多分色々回ったから疲れたんだろうと思って、気にしないようにしてたんですよ。

従兄弟たちなんて私よりも一回り以上年下でしたし時差ボケとかで辛いのもあるだろうし、最低限年上である以上もうちょっとしっかりしないとなって一応思ってたんです。


 部屋割りはそれぞれの家族ごとで3部屋でした。◯時に⬛︎⬛︎の間で夕食だからそれまでは自由時間みたいな感じで。

 部屋に入ると梁に段ボールが置いてあったりして、旅館としてどうなんだろとは思ったんですけどね。畳の普通の部屋でした。

 時間が来るまでは従兄弟の末の子が部屋に来て一緒にお絵描きしたりして、まぁ楽しい時間を過ごしてました。


 時間が近づいてきたんで、家族で⬛︎⬛︎の間に行ったんです。

部屋に向かって縦2列で11人並んで座るんです。ちょうど中央の床の間を挟んで。


 最初はそれ気づかなかったんです。料理も美味しいなーなんて思いながら、一族でわいわい話しながら食事して。

途中で、ね、なんか床の間に違和感を感じたんですよ。

最初から置いてあったはずなんです。その子供の人形。けど、それまで全然気づかなくて。

急に目が離せなくなっちゃって。だから隣の席にいた母に聞いたんですよ。母は所謂視えるタイプの人だったんで。


「お母さん、、なに」


そしたら母が言うんです。


「気にしちゃダメだよ」


そんなの、言われたら余計気になっちゃうじゃないですか。案の定、目が離せませんでした。

魅入っちゃったって感じですかね。


 そこからでした。状況が変わったのは。

部屋に戻るなりなんとなく調子が優れなくて。とりあえずお風呂に入って、まぁ家族揃って就寝消灯って感じで布団に入ったんです。


 一回は寝たと思います。けど寝苦しくて。目が覚めた時には文字通り世界が回ってました。

喉が灼けるように痛んで、声も出ない。頭も痛くて目が回って。咽頭痛と高熱、頭痛。所謂風邪の症状だったんですけど、本当に急に。


 自分だけじゃどうしようもないと思って、母を起こそうとしたんですけど、いつもはちょっと声をかけるだけで目を覚ます母がどれだけ揺すっても、声をかけても目を覚さないんです。

父を起こそうとしても、妹を起こそうとしても誰も全く起きる気配さえ感じなくて、自分だけが時間の止まった世界で動けるようなそんな気持ち悪さが止まりませんでした。


 結局、痛くて辛くてどうしようもなくて、深夜バイトをしていた彼氏にずっとメールして助けを求めてました。痛い、辛い、苦しい、帰りたい。彼にはイヤな思いをさせてしまったと思います。


 ほぼ気絶に近い状態で寝たんだと思います。途中から記憶がなかったので。次に起きたらもう朝でした。

家族に説明して、旅館の人に体温計を借りたら38度は超えていて、喉も真っ赤。冷えピタを貼って、朝食の時間が終わるのを部屋で待ってたのか⬛︎⬛︎の間で待ってたのかそれすら覚えていません。何しろ意識が朦朧としてたので。


 チェックアウトの時間になるまで部屋で休んでたはずです。荷物もありましたから。

それでチェックアウトでロビーに集まった時、異様な光景が広がってました。

おでこに冷えピタを貼ってる子が何人もいるんです。咳き込んでる子も。ぐったりした赤ちゃんも。昨日はそんな光景、見なかったんです。


 そのあとはその状態のまま旅行の後半戦で高熱のまま観光地を巡りました。今のご時世だったら大問題ですね。その当時はそんな問題視されてなかったんで。もう15年近く前のことですし。


 もう途中から記憶はなかったです。気づいたら駅のロビーにいて、新幹線に乗るタイミングでした。「ああ、これでもう終わる」って辛うじて持ってた意識がプツンと切れた気がします。実際には歩いて帰ってるはずなんですけどね。覚えていないだけで。


 翌日か翌々日、病院に行きましたが診断結果は風邪。ただのちょっと酷めの風邪でした。


 この話はここまでなんですけどね。

つい先日、母にアレはなんだったのか聞いたんですよ。


「知らなくていい」


だから、今も私はアレがなんだったのか、知らないままなんです。


あの時の子供達が熱を出した理由がなんだったのかは、多分誰にもわからないんです。


母以外は。


けど、あの人形のせいなんじゃないかなって私は思ってるんですけどね。

着物を着た木彫りの人形。

一体なんだったんでしょうね、中に入っていたのは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コワい噺 松倉愛 @studio_mucco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ