第62話 カレンの過去
照らされた部屋の中を見渡すと、採掘用のツルハシなどが転がっている。
他にも、土の固まった上着が無造作に放置されている。
ここで誰かが採掘作業をしていたみたいだ。
という事は、ここから出口に繋がっているかもしれないな。
部屋の奥の方に移動すると、左右に繋がる道があった。
俺たちが来た方向から考えるに、左に進めば入って来た方に出られる。
右に進むと、最奥の方に繋がっている可能性があるな。
「もう本当に最悪! 服も泥だらけだし。ケドラ、あんたがあんな魔法を使うからこんな事になったのよ!」
「そんな事を言われても、知らないよ。俺は助けようとしただけだ! 天井が崩れるなんて思わないだろ!」
二人は部屋の中に入るやいなや、再び喧嘩を始めた。
まだ、喧嘩するのか。少しは落ち着けよ。
はぁ、仕方がない。ここは少し強めに注意をしておくか。
二人の喧嘩をやめさせるべく近寄ろうとすると、カレンが先に二人の間に割って入る。
「二人とも、喧嘩はよくありませんよ。ケドラさんもミラさんも少し落ち着いて下さい」
「でも、ケドラがあんな魔法を放ったから、前に進めなくなったわ。神父様を助けに行ける通路が塞がったのよ!」
「えぇ、そうですね。それでも、私はどうにか道を探して必ず助けに向かいます」
カレンは冷静な表情で、二人をなだめる。
その時の彼女は、言葉とは裏腹に強く拳を握っていた。
「あ、あの。カレンさん、ごめんなさい……」
「いえ、ケドラさんのおかげで命拾いしました。あなたを責めるつもりはありません」
「でも、俺のせいで前に進む道が断たれてしまった」
「きっとどこかに、この先に繋がる道があるはずです。それを探しましょう」
と言うと、カレンはこの部屋から最奥の部屋に繋がる道を探そうと振り返る。
「みんな安心しろ、ここから出口と最奥どちらにも繋がる道がある。恐らくだけどな」
「本当ですか!?」
カレンは驚いた表情をすると、俺の後ろにある道を確認して喜びの声を上げる。
「ここを通れば、最奥の部屋に行けるのですね。良かった……。今すぐ向かいましょう」
「そういう事はすぐに教えてよ、おじさん。カレンさん行きましょう」
と言うと、ミラは立ち上がるが、すぐに足がふらつき地面に再びしゃがみ込む。
やはり、疲労が溜まっているんだな。
このまま奥に進めば、間違いなく悪い結果になる。
「ミラ、カレン、二人ともここまでずっと戦いっぱなしだったんだろ? 今は休憩して、そこから奥に進もう」
「グレイさん、私は大丈夫です。皆さんはここで休憩をして下さい。私は今すぐにでも……」
カレンは先を急ぐように、最奥に繋がる道の方へと歩き出そうとしたが、俺の方に倒れ込む。
「カレン、無理はするな。外傷は治っても、疲労までは回復させられないんだ。今は大人しく休め」
「そうみたいですね。分かりました、少し休憩をしてから向かいましょう」
「あぁ、そうしてくれ。敵がここに現れないとも限らない。一応、俺が見張っておくからお前らはそこで休め」
こうして、無理に行こうとしていた二人をなだめ、部屋で休憩をさせる。
ミラは相当疲労が溜まっていたのか、横になると眠りに就いた。
ケドラも、しばらくの間は起きていたがミラと離れた位置で座ったまま眠った。
カレンはと言うと、黄色の石があしらわれたネックレスを大事そうに握りながら眠る。
みんな、疲労が限界に達していたのだろう。
思いのほかすぐに眠りに就いてしまった。
座ったまま眠りに就いた二人と違って、こんな場所で横になって眠れるミラは凄いな。
そこから三人を見守りつつ、通路の奥の方を眺めていた。
ミラとカレンの言い草だと、この先に神父が居るような話し方だったな。
道中で何か神父の手がかりを見つけたのか?
本当は三人を連れて、一度戻ろうと考えていたが、この調子だとケドラ以外の二人は前に進もうとするだろうな。
考え事をしていると、後方から物音が聞こえた。
誰だ? 敵か?
すぐさま振り返ると、そこにはカレンの姿があった。
「なんだ、カレンか。敵が居るかと思って、驚いたぞ」
「驚かせてしまい、申し訳ありません」
「で、どうしたんだ? まさか、一人で先に進もうとしてたりしないよな?」
「そのまさかです」
「駄目だ。まだ、疲れてるだろ。それに、この先に神父が居るとは限らないだろ」
「いいえ。居ます。このネックレスは神父様……、いえ、父の物です」
彼女は胸元からネックレスを取り出し、俺に見せる。
何かしら、手掛かりを見つけていたのだろうと思ってはいた。
だから、ネックレスの事を聞いても驚きは無かった。
だが、その後の言葉に動揺する。
彼女は父の物とそう言った。
教会で見た彼女たちの関係は、そういう風には見えなかった。
神父はカレンの事を『カレンさん』と、敬称をつけて呼んでいた。
そのせいで、てっきりただの仕事上の付き合いだと思っていた。
「父親って言ったか?」
「そういう風に見えないですよね。無理もありません、私たちは血が繋がっておりませんので」
そこからカレンは、自分の身の上話を始めた。
彼女はスラム街で生まれ、非常に貧しい生活を送っていた。
両親は仕事に就くことが出来ず、食事は教会に恵んでもらっていたそうだ。
その時、初めて神父に出会った。
当時のスーロのスラム街はとても環境が悪く、今とは比べ物にならない程、犯罪と疫病が蔓延していた。
そんな状況をよく思わなかった両親は、カレンを教会に預けようとしていたらしい。
両親の相談を受け、神父はカレンを預かる事を了承した。
そして、カレンは両親に連れられ、いつものように教会へと向かった。
カレンはその日も、また食事を恵んでもらいに行くものだと思っていた。
教会の近くまで来た時に、両親から教会に預かってもらう話を聞かされた。
カレンはその事を酷く嫌がり、その場で立ち止まり両親に泣きつき始めた。
両親はそんなカレンを、泣き止ませるようにあやそうとしたその時だった。
後方からナイフを持った男が両親を次々と刺した。
カレンは目の前で刺され、苦しむ両親を涙ながらに見ていた。
男は、両親の持っていた袋とネックレスを奪うと、次はカレンに向かってナイフを振りかざそうとした。
その時、教会から出て来た神父が男を魔法でねじ伏せた。
神父は急いで両親の元に駆け寄ると、回復魔法をかけ続けた。
しかし、神父が回復魔法をかけた時にはすでに両親は事切れてしまっていた。
神父はカレンを抱きかかえ、教会に戻ると、その場で待つように指示した。
その後、両親や襲ってきた男の事を街の兵士たちに任せて戻って来た。
神父はカレンを自分の胸に抱きよせると、カレンに向かって魔法を使用した。
その後、この事件を忘れたように神父と共に過ごしたそうだ。
「そんな事があったんだな」
「私も、2年前まではこの事を覚えていませんでした」
「どういう事だ?」
「父が私を抱きしめてくれた時、魔法を使ったって言いましたよね。あの時、記憶操作の魔法を掛けられたみたいです」
彼女はネックレスを強く握りしめ、話を続ける。
「父はきっと私を守ってくれたのでしょうね。辛い記憶から……、あの時の男からも」
「そうなんだろうな」
「本当の父ではない事が分かった今でも、あの人は私の父です。そして、私を守ってくれた恩人でもあります」
彼女は顔を上げ、真剣な眼差しで俺を見ると、決意を口にする。
「――だから今度は私が、お父さんを守りたい! だから、グレイさん! 行かせてください!」
彼女は疲弊している。今、ここで行くことを許したら、怪我をするかもしれない。
そんな事は分かっている。分かりきっている。
だが、こんな話を聞いて誰が、止められようか。
「……分かった。だが、一人では行かせない。お前らも行くんだよな」
「えぇ、当然よ! カレンさんの背中は私が守るわ!」
「俺も行きますよ! 必ず助け出しましょう!」
カレンが身の上話をしている最中に、起きて話を聞いていたのが見えていた。
ミラとケドラは、カレンを励ますように笑顔を見せる。
「皆さん……。ありがとうございます」
「俺たちは依頼を受けたんだ。神父を必ず、助け出してやる」
「そうよ! 失敗したら私の名前に傷が付くわ!」
「それじゃあ、お前ら、行くぞ!」
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