来し方行く末 劇団ルート66

晴坂しずか

プロローグ

 観る人の心に残る芝居をするのが夢だった。

「劇団ルート66」はまさに夢へとつながる道だと信じていた。仲間たちと日々切磋琢磨せっさたくまして、いい芝居を作り上げていく。どんな困難があっても仲間たちがいるなら乗り越えられる。

 信じていたんだ。本当に。ある時、現実を見て気がついた。

 いくら夢を追いかけても、血のにじむような努力をしても、ちっともいい結果など出ない。むしろ状況は悪くなっていくばかりじゃないか。

 生まれた時代が悪かった。不景気のトンネルからはまだ出られそうにない。消費税は上がり、近年は物価高まで続いている。きっとこの先、陽の光の下に出られる日など来ない。

 あんなにまぶしかった夢もかすんで見える。そもそも夢を追うようになったのはどうしてだっけ。

 ああ、思い出した。初恋の人が子役として活躍しているのを知って、自分も同じ世界に入りたいと思ったんだ。またあの子に会いたくて演劇を始めたんだ。

 でも、いなかったな。どこにもいなかった。あの子はとっくのとうにやめていたんだ。

 理不尽や不公平がまかり通る世界で、夢を追って生きていくのは何よりも辛いことだ。憧れだけで飯は食っていけない。

 分かっていたのに、追いかけたあの光が忘れられなかった。観る人の心に残る芝居をするという、新たな夢を追いかけた。みっともない現実逃避だ。

 気づけば夢への道はぬかるんでいた。一歩進む度に足を取られて、もう根性や忍耐では越えられない。足を上げることすら億劫おっくうになってきた。

 それでも幕は開く。朝日は昇る。満身創痍まんしんそういの心を押して、今日も部屋を出る。

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