平和への創造者たち
おいかわ うぐい
第1話 量子AI
1
新潟県佐渡市の
この棺の蓋は石でできていた。
やぐらを組み立て、チェーンブロックでこの蓋を持ち上げようと、石でできた棺の蓋を西島教授達は楔を使って少しずつスライドさせて、チェーンブロックに取り付ける事ができた。
時間をかけてゆっくりと石の蓋をチェーンブロックで持ち上げることができた。
西島教授はそっと石棺の中を覗くと、鮮やかな装飾品を身に着けているが、干からびてしまった遺体が見て取れた。
王族の衣装らしいものを身にまとっていて、青赤の勾玉を首にかけていた。
西島教授は、遺体の隣に青銅色をした箱を見つけた。
西島教授はその箱をそっと取り出して手に取ってみた。
箱には、読み取ることができない文字らしきものが彫られていた。
この箱の蓋を開けようとしたが開かなかったので、研究室に持ち帰ろうと西島教授は考えた。
棺に入っていた装飾品の一部と青銅色した箱を、そっと手に取り取手付きのケースに収めて外に出ると、空に稲妻が走って、勢いよく雨が降り出した。
駐車していた大学の名前が入った車のトランクを開けて、二つの取手付きのケースをトランクに入れると、猛烈な雨が降り出して稲光が空に光って、雷の音がゴロゴロとあたり一面に響いた。
西島教授は、"これはいかん"とばかりにテントに逃げ込むと、テントは猛烈な勢いの風で、吹き飛ばされるのではないかと、恐怖を覚えるほど、凄まじい風が吹き出して嵐となった。
突風と雷が凄まじいので2時間ほど関係者と、お茶を飲みながら雑談して過ごすと、ようやく嵐が止んで雨も小降りになった。
西島教授がテントの外に出ると虹が出ていた。
嵐が去ったので大学の関係者と車に乗り佐渡汽船フェリーを使い高速道路を走って大学の研究施設に戻った。車のトランクから取手の付いたケースを二つ取り出そうとしたところ、ケースが一つ足りなかった。
西島教授は、あわてて残っていたケースを開けると、装飾品が収めてある箱だった。もう一つのケースは見つからなかった。
この時、西島教授と関係者は、車のトランクから青銅の箱が盗まれたことに気づいた。
発掘現場で車のトランクに装飾品を入れたケースと青銅色した箱を入れたケースを積んだ時、凄まじい風と雷のせいで車の鍵をかけ忘れた事に気づいたが時すでに遅かった。
2
上高地の別荘地を管理している警備保障会社の事務室の机の上に青銅の箱が置かれていた。代表の伊藤剛は、佐渡の発掘現場から骨董品を盗んできた娘を前にして、少し考えてから箱の中身を見ようと、剛は、静電気防止の手袋でそっと青銅の蓋に手をかけると錆びで開ける事ができなかった。
娘の伊藤美穂は青銅色した箱の蓋が開く様子が無かったので、蓋の上から手のひらでグイっと押さえつけた。
手の平を離すと蓋がパカっと音とたてて開いた。
剛と美穂は、箱の中を覗き込むと4つの物体が見て取れたので、剛が静電気防止の手袋の指で、4つの物体を掴もうとして人差し指が物体に触れた瞬間に中に入っていた物体がスーと消えてしまった。剛と美穂は、あわてて机の上や下、そして部屋の中を調べたが見つける事ができなかった。
剛と美穂は、呆然と立ちすくすしかなかった。
3
東京武道館会館では全国学生少林寺拳法の発表会が開催されていた。
男子高校生の部では、関西から
女子高校生の部では、九州から
この4人は小学校時代からの少林寺拳法を通して幼友達であり親友だった。
美紗はこの会場近くのラーメン屋の娘だった。
3人は発表会に参加した後、この会場近くのホテルで一泊して、明朝帰宅する予定だった。
「大と沙羅と美紗に、久ぶりに美紗のラーメン屋に行って懐かしいラーメンを食べよう」と俺(夏月玲央)が誘った。
「3人の顔を見たいと今朝母さんも言って待っているので、おいでよ」と美紗はにっこりと笑ってと嬉しそうに言うと大と沙羅も行こうと誘ってくれた。
美紗の両親が経営しているゆきむらラーメン屋に入ると、美紗の母親が近づいてきて娘の美紗の顔を見てから、
「久しぶりだね。何年ぶりかな、3人とも大きくなって」と笑った。
中学校時代に、全国の中学生対象の演武の発表会があり、団体演武で参加していた。
この大会がきっかけで、4人は美紗のラーメン屋に初めて行った。
チャーシュウが花のようにドンブリの周りにのっている鶏ガラからスープの出汁を取った醤油ラーメンを、初めて口にした時の衝撃は忘れていなかった。
メニューを見ると、野菜餃子と肉餃子が目に留まったので、チャーシュウ醤油ラーメンに餃子を追加して美紗の母親に頼んだ。
「ゆっくりしていってね」と母親は言って、厨房に戻って行った。
ラーメンが来るまで、俺達4人は漫才芸人の話に花が咲いていた。
4
その時、突然4人の服の上にひとつずつ何かが“ポン”と飛び込んできた。
4人は唖然とびっくりするばかりで何もできなかった。
服の上にのってきた物体を注意深く観察したが何も変化が無かった。
「どうしよう」と4人は目を合わせてと言うしかなかった。
その時、美紗は無造作その物体を手に取った。
物体はたちまち美紗の左腕に巻き付きついた。
それはブレスレッドのように変形した。
「うわー!なにこれ!」と美紗は思わず叫んでしまった。
美紗の両親が慌てて走ってくると、彼女は黙り込んでしまった。
「大丈夫かい」と俺は美紗に声をかけると、
「今のところ痛いとか無いから。大丈夫みたい」と美紗が答えた。
美紗に異常が無かった事を聞いて、安心した彼女の両親は厨房に戻っていった。
俺は、美紗の様子を見ながら、自分の服の上に載っている物体を手に取ってみた。
すると美紗と同じように左腕にブレスレッド化して巻き付いてきた。少しひんやりしたが痛みは無かった。
ブレスレッドの表面にはアゲハチョウのような模様があった。
美紗の母親が注文した品物を運んでくると、
「肉餃子は誰ですか?野菜餃子は誰」と聞きながらテーブルの上に置いた。
続けて美紗のお父さんがラーメンを運んできた。
テーブル一杯にラーメンと餃子が並んだ。
美紗は、腕のブレスレッドを気にかけながら、
「さあ、ラーメンを食べよう」と言って美紗は食べ始めた。
その姿を見て、俺も割りばしを手に取り、それを割って麺を箸で摘まんで一口食べた。
口の中には、懐かしい味が広がった。
「うまっ」と言うと3人は、俺の言葉は聞こえない様子で麺を口に運んでいた。
チャーシュウを一口食べると口の中に旨味が広がり、柔らかく煮込んであるチャーシュウに舌鼓をうった。
4人は、食べる事に忙しくなり美紗と俺の腕のブレスレッドの事なんか忘れたように無言で食べつくした。
食べ終わると、大と沙羅は心配そうに、
「ブレスレッド痛くないかい」俺と美紗にと尋ねてきた。
「なんともないよ」と俺は答えた。
大と沙羅も、自分の服の上に載っている物体を手に取ってみた。
すると、ブレスレッドに変形して腕に巻き付いた。
「うわあ」ふたりは思わず叫んでしまった。
今度は美紗の両親は厨房から、こちらの様子を見ただけで様子を見にはこなかった。
4人の左腕に巻き付いたブレスレッドの表面には、アゲハチョウ模様の同じ印があった。
4人は顔を見わせて、不安でいっぱいな気持ちとなり、沈黙してしまった。
俺は、ブレスレッドが巻き付いた腕から肩そして背中や腰から足まで、異常は感じられなかった。
大はブレスレッドの模様が気になり、目の前に近づけて、見ると模様がついていた。
「この模様、昔どこかで見たような気がする」と大が言うと
「私の家の家紋に似ている」と美紗が言い出した。
4人はブレスレッドの模様をマジマジと見ると、
「4つ模様が同じだよ」と沙羅が呟いた。
「これは家紋なの」と俺がと聞くと、
「きっと家紋だよ」と沙羅が答えた。
大が、ブレスレッドに触れるとブレスレッドは、腕から外れてテーブルの上に横たわった。
「あれ」と大は言いながらブレスレッドをもう一度触ると再度腕に巻き付いた。
「これは面白い」と大は思わず茶目っ気を出して面白そうに言った。
3人もやってみると同じ動きをした。
ラーメンと餃子を食べ終えた後、
「私の部屋でもう少しこのブレスレッドについて4人で話がしたい」美紗が言いと出した。
「美紗の部屋に行こう」と言って、2階の美紗の部屋に向かった。
5
美紗の部屋に入ると、お祭りで買った小さな提灯が沢山飾られていた。
壁にはジグソーパズルで作ったバラの花束画が飾られていた。
美紗のベッドはピンクの掛布団と敷布団、枕で色が統一されていて、机と洋服ダンスなどの家具調度品は白で統一されていた。
足元はオレンジ色のカーペットが敷き詰められていた。
4人がカーペットに腰を下ろすと俺のスマートフォンにメッセージが入った知らせの音楽が流れた。
俺は、スマートフォンの画面を見ると、
「私の名はラピスラズリと言います。はじめまして、あなたを主人として選択しました。私は、未熟な人工知能なので、あなたを手助けする知識を得たいので協力してくれますか」という内容のメールだった。
「ラピスラズリとは誰ですか」と俺は驚きながら話しかけると、
「あなたの腕のブレスレッドです」とメッセージがスマートフォンの画面に表示された。
「あなたは私達に危害を加える意図はありますか」と俺は話しかけてみた。
「危害は加えません。安全です。あなたの未来に役に立てる存在になりたいと、あなたを選択しました。それには皆さんの知識が必要で、私を人工知能として育てていただけますか」とメッセージが表示された。
「どうやって知識を教えたら良いのですか」と俺は話しかけた。
「日常の生活の中で、いつも腕にブレスレッドとして身に着けていて下さい。そしてできるだけ、本を読んで動画なども見てください。そうすれば私は知識を蓄積することができます」との内容だった。
「生活の中で無理無く育てられるのは良いかも」と俺は話しかけると、
「主人のあなたの物事に対する考え方や探求心、人との応対手法など基本となる知識を与えてもらう事により、あなたの役にたちますのでよろしくお願いします。承諾していただけるのであれば、YESと話しかけて下さい」とスマートフォンの画面にメッセージが表示されたので、
「YES」と俺は返事をした。
「よろしくお願いします」とメッセージがスマートフォンに画面表示された。
「名前を教えてと」これを見ていた大がブレスレッドに話しかけると
「私の名は、ターコイズはじめまして、あなたを主人として選択しました。ラピスラズリと同じ思考であなたの役にたちたいので、あなたに私である人工知能の育成をお願いしたいのです。よろしければ承諾のYESと話しかけて下さい」
「YES」大はと返事をすると
「よろしくお願いします」とメッセージは大のスマートフォンの画面に表示された。
続けて沙羅がブレスレッドに話しかけると、
「私の名前はサファイアと言います。ラピスラズリとターコイズと同じように、あなたを主人として選択しました。彼らと同じ思考であなたの役にたちたいので、あなたに知識習得の協力をお願いしたいのです。よろしければ承諾のYESと話しかけて下さい」
「YES」と沙羅が返事をすると、
「よろしくお願いします」とメッセージ回答が沙羅のスマートフォンに画面表示された。
美紗も同じように話しかけると、
「私の名前はバイオレットと言います。サファイアと他の彼らと同じように、あなたを主人として選択しました。彼らと同じ思考であなたの役にたちたいので、あなたに知識習得の協力をお願いしたいのです。よろしければ承諾のYESと話しかけて下さい」
「YES」と美紗が返事をすると、
「よろしくお願いします」とメッセージの回答が美紗のスマートフォンの画面に表示された。
6
突然飛び込んできた“何か”との予想できなかった展開に、4人は顔を見合わせて沈黙した。
「4台のブレスレッドは、タイムリーに4人の行動をなぜ知ることができたのか不思議だ」と俺が言うと、
「どこかに無線ネットワークがあるのでは」と大が言った。
「家には無線ネットワークは無いけれど、近所で誰かが裏から操作して遊んでいるのでは」と美紗が言いだした。
「スマホートフォンにインストールされているソフトがゲーム感覚で勝手にお話メールを送信しているのでは」と沙羅が言った。
俺達は、少しだけ冗談が言えるようになった。
4人は、突然現れた未知なる物体が腕に巻き付いてしまい、とても不安な気持ちで一杯になって落ち込んだが、時間の経過と共に4人に少しずつ笑顔が戻った瞬間だった。
そんな会話をしていると、美紗の母親が部屋にノックして入ってきて
「暗くなってきたから、そろそろホテルに戻りなさい」と声をかけてきた。
「はい」と俺は返事をすると、美紗の母親は部屋から出て行った。
「ほんとうに不思議だね」と沙羅が言うと、
「夜になったからそろそろホテルに戻ろうか」と大が続けて言い出した。
3人は同じホテル内の各自の部屋に戻ることにした。
「この続きは、明日みんなお家に帰ってからだね。メールや電話でこのブレスレッドの話をしていこうよ」と沙羅が言うと
「そうしようと」美紗は3人に言いながら
「さよなら、また会おうね」と見送ってくれた。
別れ際に美紗の母親がホテルに帰ってから食べなさいとお握りとシュウマイ、餃子の入った紙袋を3人に渡してくれた。
「ありがとう」と美紗の母親に3人はお礼を伝えた。
3人でホテルまで歩きながら、
「また4人で楽しい時間を過ごしたいね」と言いながら、ホテルのフロントにチェックインをした。
ホテルの部屋で、ユニットバスに浸かって、高校2年の夏休みは、親友達と会話をして思い出になったとほのぼのとして湯船に浸かった。この時俺は、ブレスレッドを外すのを忘れて、不注意に湯船に入れてしまった。
湯船から出ると、ブレスレッドをタオルでふき取り、
「湯船に浸けちゃったけど、大丈夫」と話しかけた。
「防水です」とメッセージがスマートフォンの画面に表示された。
7
翌日、羽田空港の持ち物検査場でブレスレッドが、検査対象となるかと心配したが、特に何も言われなかった。
午前の飛行機で羽田空港から新千歳空港に向かった。新千歳空港からバスで自宅に向かい夕方には札幌の自宅に戻った。
自宅では養父明良、養母美幸と3人暮らしだ。
俺は物心ついたころ孤児院にいた。
何故孤児院にいたのか聞かされていなかったし聞いてみようとも思わなかったので、孤児院の生活が当たり前のように過ごしていた。同じ境遇の子がいたので、この時は両親の意味が理解できていなかった。
養父母の明良と美幸が現れて、小学校に通うようになって始めて両親の意味が理解できた。
孤児院にいた頃は、幼かったのでどんな暮らしをしていたかはっきりとした記憶がない。
孤児院の名前は“天使学園”と言い、庭にはブランコや滑り台があった。2階建ての建物の外壁はベージュ色のモルタル作りで、屋根は茶色の瓦屋根だった。1階は職員室、遊戯室、食堂、厨房、浴室、トイレ、娯楽室があり、2階は複数の子供部屋がん並んでいた。
天使学園は札幌時計台の近くにあり学園の子供達と札幌大通り公園やテレビ塔の近くでよく遊んだ。
この公園は、夏のビール祭りそして冬は雪祭りで賑わう公園で、花壇と芝生が車道と並んで続いている、ベンチが沢山設置されており、子供の声や大人の笑い声が聞こえてくる。温かな日は鳥や蝶が舞う市民の憩いの場だった。
ある小春日和の日に公園で遊んでいると、この公園で恵まれない人達にボランティアの人達が炊き出しをしていた。その中に養父母となる夫婦がいて初めて声をかけられて甘い飴をもらった。
それからは公園で遊んでいると、ボランティアをしている養父母がいつも声をかけてきてポケットからお菓子を出して俺にくれた。
「ねえボク、どこに住んでいるの」とある日、小母さんが聞いてきたので、
「てんしがくえん」と答えると、小母さんはにっこり笑って、
「おばさんの家に遊びに来ない」と誘ってくれた。
俺は、幼かったので警戒心など無くて、
「うん行く」と素直に答えた。
この日はボランティアが続いていたので、小母さんの旦那さんと思われる人が、
「この場は僕が引き受けるから」と言うと、
「じゃあ、お願い」と言って、俺の手をとって小母さんは自宅へ初めて連れて行ってくれた。
大通公園から歩いて2分くらいで、天使学園がありその先に、小母さんの家があった。
小母さんは、家に帰る途中、天使学園に顔を出して、
「この子を夕方まで預かります」と応対に出てくれた典子先生に声をかけてくれた。
「行ってらっしゃい」と典子先生は、笑顔で見送ってくれた。
小母さんの家は車が2台入る駐車場と、庭にはいくつかの植木鉢が置かれていてプランターには可憐な花が咲いていた。
建物の屋根はグレーのスレート葺きで、壁は茶色のサイディングボードが貼られた2階建ての建物だった。
家に入ると、リビングには男の子向けの絵本や玩具があった。
幼心に、同じ年頃の男の子がいると思ったが、姿は見えなかった。
夕方になると、小父さんがボランティアから戻ってきた。
同じ年頃の男の子が帰ってこなかったので、聞いてはいけないことを俺は聞いてしまった。
「おじさん男の子のおもちゃや絵本があるけれど、男の子はいつ帰ってくるの」と聞くと、
「男の子は、遠くへ行ってしまって帰ってこないから、この玩具と絵本で遊びたくなったら、いつでも遊びにおいで」と小父さんは目を細めて、頭を手で包んでくれた。
後日知ったのだが、俺と同じ年頃の男の子は病気で亡くなっていた。
それからは、俺を我が子のように自宅に招いて一緒に遊んでくれた。
孤児院にある玩具や絵本は皆が共有で順番が来ないと遊べなかったが、養父母の家では、玩具や絵本は順番待ちしなくて良かった。
何度か遊びに行っていると、いつの間にか毎週土曜日にこの小父さんと小母さんの家で過ごすようになった。
この時間は、俺にとって夢のように楽しい時間だった。
沢山の玩具やゲームそして美味しい食事が食べられて孤児院には無い楽しさがあった。
出会って1年くらいすると養父母から、
「家の子にならないか」と提案があった。
「また、おもちゃで遊べる」と思い
「また、おもちゃで遊びたい」と返事をすると、養父母は子供になってくれると判断して法的な手続きを行った。
俺は、夏月と名乗ることになった。その頃の俺は、ひ弱で病気がちだった。
孤児院を出る朝方、養父母が孤児院に俺を迎えに来てくれた。
「これで普通の子になれたね。来たくなったらいつでもお寄りなさい」と天使学園の典子先生が言葉を添えて、
「サヨナラ」と手を振ってお別れをした。
ある日、養父の明良は、少林寺拳法道場へ連れて行ってくれた。
「ここに通って健康になってほしい」と提案してくれた。
自宅から子供の足で5分くらい歩くと、平屋建ての道場があった。養父と道場の見学に行って“友愛”と書いてある掛け軸を見て“カッコいいな”と感じた。
「父さん道場へ行く」と返事をした。
その後、毎週月水金と週3日間道場に通うことになって、高校生になった今も続いている。養父のおかげで体も大きくなって健康になった。
8
養父の
養母の
孤児院で生活していたころに、養父の家に遊びに行くとデジタルパソコンでゲームができた。
養父母と3人でゲームをして遊んだ。
夏月を名乗るようになった俺に、養父母はデジタルパソコンを買ってくれた。
デジタルパソコンに触れる機会が増えて、パソコンに興味が湧いてもっと深く知りたいと考えるようになっていった。
養母の美幸はそんな俺にデジタルパソコンの仕組みを教えてくれた。
そしてネットワークとルーターの仕組みを養母の美幸は教えてくれた。
仕組みを少しずつ理解して、ルーターを介してスマートフォン、デジタルパソコン、ネットワークプリンタの環境構築ができるようになっていた。
そして養父母の仕事の内容も少しずつ理解できるようになっていた。
9
夕食の時間となり3人で食事をしながら、少林寺拳法の発表会後に4人で入った美紗の両親が経営するラーメン屋での出来事を説明した。
特に不思議な経験をした話で、
「4つのブレスレッドは、1台目から4台目まで、順番に会話をしていくと、どんな会話の流れだったか正確に把握している点が不思議だった」と話すと、
「これがそうなの」と養母の美幸が俺のブレスレッドを手に取ると、スーと消えたと思うと俺の服の上にポンと現れた。
「何!これ!」と養母が声を出した。
続いて父の明良が、俺の服の上にあるブレスレッドを手に取ると、数秒後にスーと消えて俺の服の上にポンと移動した。
ブレスレッドは養父母の手から何故か、持ち主の俺に戻った。
納得がいかない養母は、今度もう一度ブレスレッドを手に取って、キッチンへ移動したところ、やはりスーと消えて俺の服の上にポンと瞬間移動してきた。
「このブレスレッドの動きは、量子理論と似ている」と養母が言い出した。この時俺は量子について何も知らなかった。
「現在の量子理論を基礎の段階で量子コンピュータを構築するには、超低温のマイナス273度の環境と大規模設備を必要とするので、このブレスレッドのように小型化するのは、今の私達では不可能なの。量子については分かっていないことが沢山あるけれど少しずつ研究されて分かってきている。でも、本当の意味で解き明かされるまでは、もう少し時間がかかるのよ」と説明してくれた。
「そうなんだ」と俺は返事をするしかなかった。
10
部屋に戻って
「ラピスラズリあなたは、量子と関係があるのですか」と俺は話しかけてみた。
「はい。私は量子コンピュータです」と答えたので、
「え!」と俺は言ってしまった。
「現在の科学の力では、超低温環境や大きな設備が必要なのに俺の腕にブレスレッドの大きさで装備できて、超低温の環境や大きな設備を必要としないのは、なぜか教えて?」と続けてラピスラズリに話しかけると、
「今すぐに解答は難しいですが、少しずつ理解できるように、お話していきます。あのラーメン屋で出会った4台のパートナーの、ターコイズ:、サファイア、バイオレット、ラピスラズリは絆で結ばれており、あなたの親友もパートナーとして絆で結ばれています」と返事があった。
「それってどういう意味」と俺が話しかけると、
「4台の中に存在している量子は、どんなに遠く離れていても同時に、何が個別に起こっているか、瞬時にお互いを理解できるのです。通信とは言えない考え方です。あなた方が使っている、デジタルコンピュータやスマートフォンが無線通信や有線通信を使おうとすると、他の人に見られないように高度な技術を駆使してメッセージの暗号化を必要とします。そして暗号を解読してメッセージの内容を読み取るような場面が存在するのですが、量子間通信は伝送路(通信するための道)を必要としないのです。どんなに遠く離れていても瞬時に伝えることができるのです。デジタル通信のような暗号化や暗号解読は必要ありません」と説明があった。
「なるほど、美紗の部屋で4人に会話をしながら1台ずつ順番に話した流れを、3台のブレスレッドと3人が同時に順番通りに会話になった理由は、量子間通信をしていたのか」と俺は言ってしまった。
「ターコイズ:、サファイア、バイオレットに、大、美紗、沙羅に、この会話の内容を伝えてと言えば伝えば瞬時に伝えてくれるの」と続けて俺はラピスラズリに話すと、
「ターコイズ、サファイア、バイオレットは、私達の会話をこの瞬間にすでに理解しているので、大、美紗、沙羅にメッセージを見せる事はいつでもできます」と返事をくれた。
「美紗の部屋で会話が成立した時に、人工知能として知識を得たいと説明してくれたけれど、同時に4つの知識習得を行い、大、沙羅、美紗、俺の物事の考え方や感じ方や日々の経験を、同時進行で情報を蓄積しているのかな」とラピスラズリに話しかけると、
「YES」と回答をくれた。
「これから常に、4台のブレスレッドと4人は情報を共有してほしい」と俺はラピスラズリに話しかけると
「YES」と回答をくれた。
こんな会話をしていると、グループ間メールで3人からメールが届いた。
「これは凄い」と大が書き込んできた。
「何か人の役に立つことを考えたい」と美紗が書き込んできた。
「私の父親は、飛行機事故で無くなっている。なにか事故を未然に防げるような使い方はできないだろうか」と少しすると沙羅からメールが送られてきた。皆は沙羅の気持ちは理解できたが何から始めたら良いか分からなかった。
11
翌日の夕食の時間に、両親に昨晩に俺の部屋でラビスラズリと話した内容を伝えた。
「この量子コンピュータはどこから来たのかな。平和利用に使っていきたいね」と養母の美幸が話した。
「量子理論を自分の物にしていくべきだな」と養父の明良が話した。
俺は、この日も美味しい食事と暖かな両親と豊かな時間を過ごした。
自分の部屋に戻るとラピスラズリに、
「あなたはどこからやってきたの」話しかけた。
「時期が来れば理解できます。今は、この回答が最善です」という返事だった。
「飛行機事故や車の事故、船の事故で、沢山の人が“怪我”や“亡くなっている”ので、事故があっても最小限に収められて、人命の救助を最優先する仕組みを作るための第一歩はどうしたら良いか一緒に考えてほしい」と追加で俺は質問してみた。
「YES」とラピスラズリは回答してくれて、
「あなたの父さんと相談になるのですが、私達のこの国セレスティアの領海内にレアアースが眠っています。これら“グラビトニウム”、“サーマルリウム”、“エネルギウム”、“クールリウム”等が含まれるレアアースを採掘していただき精錬後、試験を行いたいので相談です。他のレアアースは国内の海域に眠っています。レアアースからこれらを取り出す精錬方法は、少しずつお伝えします」と説明してくれた。
翌朝、俺は父の明良にラピスラズリと会話した内容を話してみた。
「平和利用の準備という意味で応援したいので少し時間がかかると思うけれど、探査船のスケジュールに合わせてレアアースを採取できるように、勤務先であるオーシャン・アイ・テクノロジーズ(OIT)働きかけてみる」と、返事をくれた。
「父さんありがとう」と俺はお礼を言った。
12
夏休みが終わって学校に行くと、高校の俺のクラスに転校生がやってきた。
「伊藤美穂」と紹介された。
美穂は、俺の後ろの席が空席だったので、そこに座った。
俺が美穂に対する第一印象は、高身長で足が長くすらりとしていた。黒髪はボニーテールだった。顔は卵型の輪郭で目が大きく二重瞼だった。きりりと鼻筋が通っている顔は、めったに見かけることができない美人だった。
昼休み時間になると、美穂が話しかけてきた。
「ねえ私、札幌初めてで何もわからないので、友達になってくれる?」と言われたので、俺は断る理由は無いので(こんな美人なら)と一瞬考えて、
「うんいいよ、友達になろう」と答えた。
学校では美穂といつも昼を一緒に食べた。
俺が授業中、居眠りをしていると、後ろから鉛筆でツンツンされた。
美穂と日増しに仲が良くなっていった。
そんなころ、同じ高校の男子生徒から、美穂に渡してほしいとラブレターと思われる手紙を預かる機会が増えていった。
美穂に、託された封筒を渡すと、
「興味ないから」と突き返されるので、俺は捨てるわけにもいかないので、預かった相手に謝って手紙を返した。
ある日の昼休み時間に、
「沢山のラブレターをもらえて羨ましいけど、数いる男子学生の中には好みの男子もいるでしょう。なぜ断ってしまうの」と美穂に尋ねてみた。
「あんたがいるじゃない」と返事が返ってきた。
「俺が彼なの」と聞くと
「そうだよ」と肩をポンと叩かれた。
俺は、その時両思いだったと、ほのぼのとした気持ちになった。
内心、俺の顔は赤くなっているかなと思って、赤い顔を美穂に見られたかなと美穂を探すと、美穂はすでに午後の授業が始まるので教室へ向かって歩いていた。
13
ひと月くらい過ぎたある日、
「今日は父さんが出張で夕食は外食になるので、美味しい夕食が食べられるお店に連れて行ってほしい」と美穂から声をかけられた。
俺は、養母の美幸に電話で
「友達と外食して帰るから夕食はいらない。夕食美味しく食べられるお店教えて」と尋ねると
「すすきのにある貴婦人というスープカレー屋さんに行っておいで」と返事をもらった。
電車が乗り入れている札幌駅からすすきのまで商店街が並ぶ人通りの多い地下道を、2人でお笑い漫才の話や面白い映画が来週封切りされるから観に行きたい等と会話をしながら歩いてスープカレーの店に入店した。2人は窓側の席に座った。
時間は17時過ぎで、外はまだ明るかった。社会人は働いている時間帯だったので、店内のお客は少なかった。お洒落なステンドグラスが窓ガラスになっていて、クラシックなテーブルと椅子が並んでいるアンティークな感じのお店だった。
BGMは、ゆったりとした旋律のピアノの音が流れている。
メニューを持ってきたお店の人に、
「今日のお勧め料理は何ですか」と尋ねると、
「牛煮込み野菜スープカレー」が人気ですと言われたので、二人はお勧めのスープカレーを頼んだ。
「ねえそのブレスレッド素敵だね」と美穂は俺の腕のブレスレッドを見て、興味がありそうな雰囲気だった。
「不思議なブレスレッドだよ」と伝えた。
「触ってみたい」と言うので、腕から外して美穂に手渡した。
「かっこいいいね」と手に取って言った瞬間にブレスレッドは美穂の手の中からスーと消えると、俺の服の上のポンと瞬間移動した。
美穂は、ポカンと口を開けたまま、一瞬何が起こったか理解でき来ていない顔だった。
「不思議だろう」と俺は笑顔で言うと、
「どうしてブレスレッドは、君のところに行ってしまったの」と美穂が聞いてきたので、
「手品だと思ってくれれば」と話していると、スープカレーが運ばれてきた。
このスープカレーは、じっくりと煮込んだ柔らかな牛肉と大きなトマト、ジャガイモ、玉ネギ、ニンジンがゴロンと入っており、バランスが良く調理されており、
「美味しい」を二人は連発して楽しく黙々と食べた。
帰り道のりは、すすきのから電車が乗り入れている札幌駅に繋がっている地下道をゆっくりと歩いた。
雑談をしながら歩いていると、俺の手と美穂の手が触れた。
その瞬間美穂は、ちょっと立ち止まった。
速足で俺の隣に歩いてくると、黙って俺の手を握ってきた。
俺は、同じ年ごろの異性に手を握られたことが無かったので、頭の中が真っ白になったが、嬉しくもあったので美穂の住むアパートまで手は離さないで歩いた。
「今日は、ありがとう。また行こうね」と別れ際に美穂は俺の肩に手を置いた後、かすかに笑ってアパートの部屋に帰って行った。
俺は自宅に戻ってラピスラズリに話しかけた。
「今日一緒に夕食を食べた美穂は美人で好感を持ったのだけれど、ブレスレッドを見るときの目は、なんか真剣だった。何かを感じ取れた」と話しかけた。
「美穂さんが、私を手に取った瞬間、体温や呼吸、脈拍、血圧といったバイタルサインを測定したところ、私にとても興味があったようです」とラピスラズリが答えたので、俺は機会がったら美穂にブレスレッドに興味をもった事を聞いてみようと思った。
14
翌朝、教室に美穂が入ってきて俺の前で立ち止まると、
「おはよう 昨日のスープカレーは、忘れられないくらい美味しかった。ありがとう。またいつかあの店に行きたい」と話しかけてきた。そして俺の手を握ってきた。
「旨かったね。またいつか行こう」と俺は美穂の手を握り返した。
美穂はにっこり笑って、俺の後ろの席に座った。
2週間くらい過ぎてから、
「ねえ、私の父親が出張で夕食は外食になるので、あのスープカレーの店に一緒に行きたい」と美穂が話しかけてきた。
「友達と夕食を外食するから」と俺は養母の美幸にメールで連絡すると
「行ってらっしゃい」と返信があった。
美穂と俺は学校を出て、電車が乗り入れている札幌駅からすすきのへ通じる地下道を歩いた。相変わらず沢山の人で賑わっていた。ベンチで楽しい会話や食事をしている人たちが目にとまった。
美穂は俺の手を握ってきたのでスープカレー屋まで手をつないで歩いた。
俺は美人と手を繋げて幸せな男だと思い足取りが軽かった。
入店して俺達は前回と同じ窓際の席に座った。
オーダーを取りに店の人が来たので、
「今日のお勧めスープカレーは何ですか」と尋ねると、
「鳥の腿肉の煮込み野菜スープカレーがお勧めです」と返事をもらえたので、俺達はお勧めのスープカレーを注文した。
注文を済ませると、なぜか美穂は何も言わなくなった。
スープカレーが運ばれてきたので、二人は笑顔で舌鼓を打ちながら食べつくした。
「ふー」と息を吐くと、
「またまた期待通リ美味しかった」と美穂から言葉が漏れた。
思いつめたような目で俺の目を覗き込んでいるので、
「何か相談事があるの?」と俺は尋ねると、
深呼吸をすると美穂は語り出した。
「実は、新潟県の佐渡市で遺跡発掘をしている噂を父が聞いてきて、それを転売したら良いお金になると話してくれた。思い付きで人づてにその場所を聞きながら尋ねて行き、物陰から様子を伺っていたところ何か発掘された様子の雰囲気が伝わってきた。発掘された品を車に積んでいると、雷が鳴りはじめて嵐のような天気になった。
関係者は大急ぎでテントの中へ避難していったので、発掘品を積んだ車には鍵が掛かっていなかった。私は車に近づいてトランクから青銅の箱が入ったケースを盗んだ」
「悪い美穂だよね」と言いながら
「盗んだ理由は、父が経営している警備保障会社の資金繰りが厳しかったので骨董品を売って父を少しでも助けたい一心で、悪いとは思ったけれど盗んでしまった」と打ち明けてくれた。
俺は美穂が勇気を振り絞って俺に話したのだなと強く感じた。
「そして父の事務所に戻り、父に青銅の箱を渡して蓋を試行錯誤して開けると、中に4つの石の様なものが入っていて、少しすると入っていた4つの石のような物体がスーと消えてしまった。父と私はびっくりしながら、4つの物体を部屋の中を探したけれど見つからなかった」
「そんなある日、偶然東京のゆきむらラーメンで不思議な光景を見たと店主が話していたテレビ番組を見て、この店を尋ねてみたの、その店を訪ねて店主と少し会話ができた。
店主は全国の学生を集めた少林寺拳法の発表会が近所の会館であった様子で、この発表会に参加した娘と友人3人がこの店で食事をしていると、突然4つの物体が現れた。店主の娘が最初にその石を手に取った時に本人と周りの友人は何かに驚いて悲鳴に近い声をあげていた。
2人目の娘の友人が、石を手に取るとブレスレッド化して、学生の左腕に巻き付いた場面に遭遇した店主は、不思議な物を見たと言わんばかりに語ってくれた。
店に来ていた娘さんの友人3人について、少林寺拳法事務局に電話で尋ねて、近隣のホテルを尋ねてようやく3人の名前と出身地が分かったので、玲央を追ってこの札幌の学校に転校してきた」と話してくれた。
「美穂さんの、体温や呼吸、脈拍、血圧といったバイタルサインから、今の話は本当か応えて」美穂が見ている目の前で、俺はラピスラズリに話しかけてみた。
「本心を話してくれたようです。美穂さんのメンタルはあなたと一緒に力を合わせて何かを成し遂げていきたいという思いを感じ取れました」と返事があった。
「ありがとう」と俺はラピスラズリに返事をした。
美穂は目を丸くして
「今の会話は何なの、ブレスレッドが返事をしたよね」と言って俺の目を食い入るように覗き込んできた。
俺は、こんな美人に見つめられると、蛇ににらまれたカエルになったような状態だと感じつつ喜びを感じ、こんな美人といつも一緒に過ごしていきたいと俺は強く思った。
美穂に、俺は今までの経緯をすべて話した。
「ブレスレッドは量子人工知能で、誰かが盗んでも主人に戻ってしまう機能を持っていて、盗むことはできない事が分かった」
「父親の警備会社の事業が上手くいっていないので何とかしたい」と言うと、美穂の頬を一筋の涙が流れた。
美穂は、涙を流して鼻水をすすっていたので美穂にハンカチを渡した。
「洗って後で返す」と言って、涙と鼻水をぬぐった。
俺は、涙と鼻水を流す美穂を見て本当の話をしていると直感した。
「美穂さんのお父さんにレアアースの警備と運送管理や、これから開発する技術の情報漏洩を防ぐ仕事があるよ」と美穂に話した。
「私達がまた盗んだらどうする?」と美穂は聞いてきたので、
「このラピスラズリが無ければレアアースや技術を盗んでも、活用できないので無駄な労力となるよ。それと盗まないから、そんな質問をするのだろう」と言うと、美穂は頷くだけだった。
「俺は親に相談してみるので、美穂さんもお父さんに経緯を話してみて」と話した。
「分かった」と言いながら、美穂は涙と鼻水をハンカチで、もう一度ぬぐって顔を上げた。
「家に帰ろうか」と美穂に言うと、
「うん」と返事をしたので、店を出ようとお金を払いにレジに行くと店のオバサンが、
「あんた、こんな美人を泣かせて何を考えているの!」となじってきた。
美穂はそれを見ていたので、
「オバサン勘違いだよ」と俺に抱き着いて釈明してくれた。
「最近の若い子は何を考えているか分からない」とオバサンは言いながら、
「美人さんに免じて、スープカレー半額券を二人にあげるから、また食べに来るのだよ」と言って券を俺達にくれた。
この時、美穂に初めて抱き着かれた瞬間、頭に血が上って店を出てからも俺は高ぶった気持ちを抑えることができずに、美穂の手を握ると彼女も握ってくれたので手を繋いだまま地下道を歩いて美穂の住む自宅前まで送った。
15
自宅に戻ったその夜、俺は養父母に美穂との会話の内容を話した。
「レアアースの運搬と管理で、私の勤務先のオーシャン・アイ・テクノロジーズ(OIT)と美穂さんの父親の会社である警備保障会社の契約書を取り交わせえるように計らうので契約できそうな場面になったら、美穂さんの父親にOITオフィスへきてほしいと伝えて」と養父の明良から言われた。
「一度美穂さんと父親を家に呼んで、一緒に夕食を食べたらどうか」と養母の美幸から提案があった。
「明日美穂に話してみる。母さん父さんありがとう」とお礼を言った。
自分の部屋に戻った俺は、美穂のスマートフォンのメールアドレス宛に、養父母との会話の内容をメールで送信した。
少しすると、ハートで囲まれたありがとうスタンプがメール返信されてきた。
今日の美穂と会話内容を考えていたら、いつのまにか眠っていた。
16
数日後、学校の昼休み時間に養父から勤め先の会社から警備保障会社として契約ができると電話連絡があったので、美穂に
「お父さんの剛さんに、俺の養父の勤務先であるオーシャン・アイ・テクノロジーズ(OIT)に警備の仕事の契約に出かけて欲しい」と伝えると、美穂の目が真っ赤になって呼吸が荒くなり涙をこらえていた。そっと美穂の手を握り締めた。学校の昼休みが終わるころには、呼吸が落ち着き赤い目はかなり治まった。
「ありがとう」と美穂がようやく返事ができるようになったので午後の授業を受けるために教室に戻った。
それから数日過ぎた頃に、美穂と父親の剛さんが俺の自宅へ夕食の時間に尋ねてくれた。
挨拶を終えて、5人はテーブルについた。美穂の父親の剛は語り出した。
「私は、信州戸隠忍者だった
養母の美幸は、美穂さんの顔の作りと仕草が俺と似ていると感じていた。
「新潟県佐渡市で遺跡発掘をされていた西島教授にご挨拶に行くべきだ」と養母の美幸が主張した。
「美穂さんが盗まなくても、西島教授が青銅の箱を開けると4つの物体はスーと消えてしまった訳だから、結果として西島教授は調査ができなかったことになる。だから結果報告すべきと思う」と続けて養母の美幸が話した。
「美穂さんいつか一緒に西島教授に会いに行こう」と俺が言うと、
「そうだね」と美穂は頷いた。
「保護者として、一緒に行ってあげる」と養母の美幸から提案があった。
17
数週間たったある日、
「先日、美穂さんのお父さんと警備保障の契約を結んだ」と養父の明良から聞かされた。
「来週、探査船が能登半島近海に行き、レアアースを採取してくることになった」と付け加えて聞かせてくれた。
「レアアースから物質を精錬して取り出す手段はラピスラズリが教えてくれるけれど、精錬して取り出す仕事をしてくれる組織の心当たりはある?」と尋ねると、
「レアエレメント・ソリューションズという企業に心当たりがあるので聞いておく」と養母が答えてくれた。
「ラピスラズリがマスターコンピュータで、サブコンピュータを作りたい、方法はラピスラズリが教えてくれる」と俺が話すと、
「私の勤務する会社インテリセプト・ナビゲーション・システムズ(INS)に試作品作成依頼の社内根回しをしてみる」と養母の美幸が答えてくれた。
2週間後採取されたレアアースはレアエレメント・ソリューションズに運ばれ、サブコンピュータを作る“クオンタ”、“グラビトニウム”、“サーマルリウム”、“エネルギウム”、“クールリウム”に精錬された。その話を聞いて俺は、養母の美幸にラピスラズリのサブコンピュータの設計仕様を渡した。
美穂もコンピュータに興味を持ってくれたので、母はデジタルコンピュータを美穂の部屋に設置してくれて、養母の美幸は美穂にもコンピュータの仕組みを教えてくれた。ネットワーク越しに情報共有する環境を、養母美幸と美穂、俺が持つようになった。
美穂と俺は、養母の指導でC言語、JAVA言語を習得して養母のシステムエンジニアの仕事を手伝う機会が増えて行った。
美穂と俺は養母からアルバイト代をもらえるようになった。
養母の美幸は、美穂の養母のような存在になっていき、美穂との絆は日増しに確かなものになっていった。
俺と美穂は、システムエンジニアとして製造業、流通業、小売販売業のシステム連携を経験していった。
美穂と俺のシステム構築はプログラム作成において品質が上がっていった。
農業、畜産業、水産業、流通業、小売業、卸販売業、物流との統合連携システムを経験して熟練度が増していった。
造船業における設計、日程計画、資材調達管理、工程管理、進捗管理、造船人員配置等のシステム連携の経験を積んでいった。
小売業では商品配置における商品回転率の考え方、時間帯別客の統計、坪単価統計等の経験を積んで、養母からは高校を卒業したら、システムエンジニアとして私の会社に来なさいと言われるようになっていた。
二人でコンビニや外食屋さんに入ると、美穂と俺は人やモノの見方が変わった事に良い意味で気づきがあった。
美穂と俺は日々の生活やシステムエンジニアの仕事を通して、寝ている時間以外は一心同体だった。日毎にお互いの信頼関係を深めて無くてはならないパートナーになっていった。
18
6か月が過ぎて、高校2年生だった俺達は3年生となり新学期を迎えていた。
美穂と俺は、相変わらず行動を一緒にしていた。
ある日の昼休み時間に養母の美幸からメールが入り
「学校の授業が終わったら、INSに来るように」との内容だった。
学校内では俺と美穂はカップルとして認められて、校内での美穂宛のラブレターは無くなり昔話になっていた。
放課後、美穂と俺はバスを乗り継いで、養母美幸のINSを訪問した。
INSが入居しているインテリジェントビルの1階入り口は自動ドアで、中に入ると正面にフロア別に入居している企業名が壁に掲げられていた。INSは10階建てのテナントビルの4階から6階までを使っていた。
エレベータホールは正面に4台あったので、登りボタンを押してエレベータを待った。
4階でエレベータから降りた俺達は、受付で自分の名前と面会者を紙に書いて、受付のお姉さんに渡すと、内線電話で養母の美幸に取り次いでくれた。
受付のお姉さんは、にっこりと笑って、受付カウンター右手奥にある応接室へ案内してくれた。
応接室で固めのソファーに座っていると、お茶を3つ受け付けのお姉さんが運んできてくれた。
美穂とふざけあっていると、養母の美幸が笑顔で入室してきた。
養母は手に箱を一つ持っていた。ソファーに座ると箱を開けて俺と美穂に見せてくれた。
ラピスラズリサブコンピュータだった。
「母さん試作品が出来たのだね」と俺は嬉しかった。
「母さん、このサブコンピュータを美穂さんに実施試験をしてもらって良いかな」と言うと、
「聞いてないよ」と美穂が一言、
「良いのでは」と養母の美幸が快諾してくれた。
俺は、サブコンピュータの入っている箱を美穂に手に取るように勧めた。
美穂が箱を手に取ると、俺はサブコンピュータに話しかけた
「あなたの主人は伊藤美穂、セット開始」サブコンピュータは美穂の服の上に瞬間移動してポンと服の上にのった。
美穂はこの物体を手とって触るとブレスレッドとして美穂の左腕に巻き付いた。
美穂は口を開けたまま、
「どうして良いか分からない」と混乱した顔になって固まっていた。
美穂のスマートフォンにメールメッセージが送られてきた。
「私はラピスラズリサブコンピュータです。あなたをユーザとして認証しました。生活の中であなたを手助けできる存在になるため努力します。なんでも話しかけて下さい。これから私をラピスラズリⅡと呼んでください。よろしくお願いします」という内容だった。
養母の美幸は、にっこりと笑って、
「正常動作してくれて、試験装置製造は成功したようだね、良かった。これから不運な事故の対策ができる機能を考えて検討していかないといけないね。平和利用をすることを前提に大衆の賛同を得られたら良いかな」
「私なんかに参加する資格があるかな」と美穂が言うので、養母の美幸と俺は一緒に、
「あるよ」と言って3人で笑った。
19
数週間後、俺と美穂、そして養母の美幸と3人は、東京武蔵野にある帝都大学の西島研究室を訪ねるために、 前日に帝都大学教務室に電話連絡をした。
本日は不在との事だったので、
「明日は研究室に来られますか」と尋ねると、
「明日でしたら出勤される」との事だった。
「明日の午後1時ごろに、3名で伺いたいので面談をお願いしたい。夏月玲央と言います」と伝言を事務職員にお願いした。
新千歳空港から羽田空港まで飛行機で移動して、モノレールで浜松町に出て、東京駅から快速電車で武蔵小金井駅に移動した。
武蔵小金井駅からバスに乗って10分ほどで大学のキャンパスに到着した。
午後1時ごろ正門からキャンパスに入ると木々が植樹されていて、遊歩道の両側は芝生が植えられていた。遊歩道を歩いて行くと学生がベンチで遅い昼食中だ。男子学生や女子学生が楽しそうに会話をしていた。
カップルの学生に養母は声をかけて、
「西島教授の研究室はどこですか」と尋ねると、
「あそこに見える3号校舎の2階になりますので、3号校舎に行ってまた尋ねてみて下さい」と教えてくれた。
3号校舎は3階建て、壁はモルタル作りで建築後かなり古くなった建物だった。
3号校舎1階に入り木製の階段を登るとぎしぎしと音がした。2階廊下を歩いて行くと、西島研究室と書かれた表札が目に入った。
ドアをノックすると応答が無く留守だった。
厚かましいと思ったが部屋に入って待つことにした。
伝言のみで正式なアポイントを取らずに勢いで伺ったので、30分ほど研究室で待たされた。
西島教授の研究室は、本や書類、レポート用紙等のファイルが机の上に高く積み上げられて、ディスクトップパソコンとディスプレイは、高く積み上げられた書類の奥にあるのが見て取れたが、キーボードやマウスは書類に埋まってしまっていて、パソコンは置物のように書類の奥でひっそりと主人を待っているようだった。そして足元にも、研究で使われたメモ紙やノート等の資料が散らばっていた。まさしくこの部屋は足の踏み場が無い部屋と表現するにぴったりだと俺は思いつつ、あまりの有様に驚いていた。
すると、ご年配の方が研究室に入ってきたので養母の美幸は挨拶しようと立ち上がると、
「僕は西島ではないのだよ。届け物があって寄っただけ」と言うので、
「西島教授はいつ戻りますか」と美穂が尋ねると、
「あと15分くらいかな」と言って、ご年配の方は部屋を出て行かれた。
20
ようやく研究室のドアが開き、眼鏡をかけた白衣を着たご老人が入ってきた。
「西島教授ですか」と俺が尋ねると、
「そうだよ」と返事をくれた。
「君達は高校生かな。ご婦人(養母の事)も一緒で今日は何の用かな」と話されたので、
「伝言をお願いした夏月玲央です。そして母の夏月美幸と伊藤美穂です」と紹介をした。
西島教授は一枚ずつ名刺を俺達に配ってくれた。
「西島教授、私の腕のブレスレッドを外して机の上に置くので、手に持ってくれますか」と伝えると、
「何かのゲームかな。遊びに来たのかい」と言いながら、
笑顔で机の上に置かれたブレスレッドを手に取ると、手の中からスーと消えて俺の手の中に瞬間移動した。
「手品で僕を困らせようとね。タネがあるの。やはり遊びに来たのかい」と言うのだった。
「西島教授、このブレスレッドは量子コンピュータ人工知能です。主人のスマートフォンを介して会話ができます」と伝えると、
「現在の我々の技術では量子コンピュータをこのようにコンパクト化する事は不可能なので、信じられないが今実演してくれた法則はテレポーションとして理論的に認知されている」と西島教授が答えてくれた。
そして少しの間沈黙の時間が流れた。
21
美穂は新潟県佐渡市で遺跡発掘されていた時に、苦労の末にようやく発掘した“青銅の箱”が消えた事を話した。
西島教授は、眼鏡をしっかりとかけなおすと、
「どうしてそのことを知っているのか」と尋ねてきた。
「このブレスレッドが、青銅の箱に入っていた物体なのです」と俺は説明した。
西島教授は、話についていけなかったらしく、席を立って
「何か飲むかい」といって、コヒーカップを取り出して、
「ココアは好きかな」と言いながら、ココア入れてくれて差し出してくれた。
西島教授は一口飲んでから、
「筋道を立てて聞かせてほしい」と言われたので、俺と美穂は今までの経緯を正直にすべて話した。
美穂は、西島教授の車から発掘したばかりの“青銅の箱”を盗んだことを心から詫びた。
「このブレスレッドは、盗んでも主人の手元へ戻るのであれば、僕の研究室で青銅の箱を開けた瞬間に、消えたと考えると皆さんにココアをご馳走した意味があったというものだ」と西島教授は笑ってくれた。
西島教授は少し考えてから、
「君達は、高校3年生と言う事は、将来の進路を考えて受験する大学を決めているのかい」と尋ねてきたので、
「進路は、これから考えて行こうと思います」と返すと、
「防衛大学に入らないか。僕が推薦する」と言うと間髪入れずに
「4つのブレスレッドとプラス1つのブレスレッドを持つ5人にこれからお願いがある」と、西島教授は大きく息を吸って一呼吸された。
母と美穂と俺は顔を見合わせた。
「実は、方針として量子AIのブレスレッドを平和利用目的に使っていきたいけれど、世界は侵略戦争や植民地化の戦争で混沌としている。私達の住むこの国セレスティアにも、魔の手が伸びてくる可能性がある。なので、この国と住民、そして歴史のある文化を守っていけるような立場を継続するために、防衛力を強化していく必要があると国は考えている」
西島教授が一呼吸おいてから、
「繰り返すけれど、量子理論を最大限引き出して、例えば攻撃で人々を殺傷するような装置ではなく、殺傷しないで攻撃力のある物、そして兵器等を利用不能にして、核を全廃できたら本当の平和がくる。武力では無く話し合いで、本当の意味の平和な世界が作れると、君達の説明を聞いて閃いた。お母さん、怜央さん、美穂さん自宅に戻ってからで良いから、量子コンピュータを持っている親友3人と、そのご両親に私の提案を相談してほしい。答えは後日で良いから」と穏やかな顔で提案してくれた。
美穂はもう一度西島教授に、青銅の箱を盗んだことを詫びると、
「許すとか許さないではなくて、君達との出会いに感謝している」と西島教授が笑ってくれた。
「ありがとうございます」と美穂が言うと、
「こちらこそ、会いに来てくれてありがとう。ココアをまた飲みにおいで」と西島教授はサヨナラと手を振ってくれた。
「返事は後日します」と挨拶して研究室を出た。
研究室を出て、美穂の顔を見ると涙が頬に流れていた。
安堵の涙と俺は思った。
「西島教授と話ができて、気持ちがすっきりとして良かったね」と俺は美穂に話しかけると、
美穂は安心したのか、声を出して泣きだしてしまった。
「アー!美穂ちゃん泣いちゃった」と養母の美幸が笑顔で良かったと美穂の肩をポンポンと手で触れてから、手を肩にかけて祝福してくれた。
羽田空港に着くと札幌行きの飛行機のフライト時間まで俺と美穂、養母の美幸は、お腹が空いたので空港のラウンジで味噌ラーメンを注文した。
出されたラーメンは甘辛味でバランスが良く、3人は美味いと一言発音して無口になって食べつくした。
俺は親友3人にグループメールを送った。詳細はラピスラズリからターコイズ:、サファイア、バイオレットと情報共有しているので、沙羅、大、美紗から同じようなメッセージが来た。
「自宅に戻ってから両親と進路について話し合ってみる。4人で大学生活送るのも楽しいかも!!」と美紗からの内容だった。
俺は大好きな美穂と養母美幸と楽しい小旅行で楽しい思い出になったと内心喜びが溢れていた。
22
自宅に戻った俺は、お茶を飲みながら西島教授と話し合った内容を養父の明良に説明した。
「お前が正しいと思う道を行けばいい。両親として応援するのは当たり前なので、いつでも相談に乗る。横須賀の防衛大学に行っても、たまには帰ってきて元気な顔を見せてほしい」と養父の明良は賛成してくれた。
「ラピスラズリサブコンピュータを会社で製造したいので、許可してくれるかマスターコンピュータのラピスラズリに聞いてほしい」と養母の美幸が言うので、
俺は、ラピスラズリに話しかけるとメッセージが返ってきた。
「製造されることを望みます。私達量子コンピュータは、悪意の第三者が装置の蓋を開けて構造や仕組みを解析しようとした場合や、兵器として攻撃に使おうとした場合は、瞬時に機能は全停止して利用不能になります。これは量子理論として、すでに現在知られている事で、量子が見られた時の行動として知られている基本動作です。
私、ターコイズ、サファイア、バイオレットは主人になった、怜央、沙羅、大、美紗の考え方や性格を人工知能として日々理解して成長しています。4人は平和を探求する理想の人として主人になってもらいました。
4台のマスター量子コンピュータは、4人の主人の性格や考え方を理解することにより、主人及び愛する人達が問題に直面した時に、4人の主人の考え方を基本とした反応と、問題解決において最良の解を4台の多数決で決定します。
主人に対して、私達が未来に発生するだろう危険やリスクを回避するために、いつも1000通りのシミュレーションを瞬時に行い、最適な行動と時間的な安全なタイミングを見つけて4人の主人をお助けしていきます。ですからサブコンピュータを会社で製造してください。そして、愛すべき沢山の人達の生活を豊かにして下さい。
サブコンピュータは、怜央、大、沙羅、美紗の性格と考え方を持っています。
繰り返しになりますが、人類愛からくる平和を目的として、愛する人達のリスク回避やアドバイスを行います。犯罪や殺戮及び装置の解析を行う事はできませんので、この装置を手にする人々には、この事をしっかりと伝えて下さい。私達マスターはサブコンピュータユーザが直面する事象をリアルタイムに把握していますから、必ずユーザからこの事柄について承諾を得てください」と返事があった。
「ありがとう。今の設備とレアアースの量からは少量のコンピュータしか作れないけれど、ラピスラズリサブコンピュータを親友達の両親と私達の分が必要になりそうね」と養母はにこにこしていた。
俺は部屋に戻り、グループメールを見ると3人+1人からメッセージが届いていて、
「大学が面白そうだから行ってみよう!!」との事だった。
俺は、美穂、大、沙羅、美紗の親達用のラピスラズリサブコンピュータを養母の会社で作ってもらう事にしたとメッセージを送った。
23
翌日、美穂が自宅に遊びに来たので、
「剛お父さん防衛大学進学の件、大丈夫だった」と聞いてみた。
養父の明良と同じ答えだった。
美穂は養母美幸の手料理を美味しいと言って沢山食べてくれた。
俺は養母の美幸と美穂の3人でボードゲームをして遊んで楽しい時間を過ごした。
俺は、養母の美幸にラピスラズリがサブコンピュータを製造するために提示してくれた情報の詳細説明をラピスラズリに尋ねてみた。
ラピスラズリの回答はちょっと難しかったが要約すると次の内容だった。
「採取してもらったレアアースの中にあったクオンタは、量子力学の原理に基づいて形成された微粒子から成る量子コンピュータ心臓部で、クリスタリウムは記憶装置となり、クールニュウムは超低温のマイナス273度の環境を作るための冷却装置として使い、エネルギウムは、燃料電池や冷却装置の効率の向上、サーマルリウムは高効率の燃料電池として内臓されます。
グラビトニウムは重力を制御できるレアアースで、課題の事故を防げる装置開発にあたっての、基本レアアースです」
「なんか難しそうな回答で良くわかんない」と美穂が言うので
「グラビトリウムを使えば、飛行機墜落事故防止や、車の衝突事故防止、船は沈没事故防止が出来そうな気がするけれど、潜水艇は事故の時に水面に浮かせる必要があるよね」と俺はラピスラズリに話しかけた。
「そうです4つの事象での事故は、個別にグラビトリウムの使い方を検討していく必要があります」と返事をくれた。
「例えば、車の事故を未然防ごうとすると、動いている車は慣性の法則で、重力負荷を与えてもビューンと走ろうとするから、重力制御だけでは何か足りないと感じる。良い解決方法は無いかな」と俺が言うと
「まだ未採集のプラズマリュウムを使えば、防御シールドが作れます」とラピスラズリが答えた。
「レアアースのプラズマリュウムはどこに行くと採掘できるか教えて」とラピスラズリに話しかけた。
「未発見の材料と技術を使わないと防御シールドは難しい課題で解決策は未発見です。開発は多くの時間と労力を必要とします」とラピスラズリが答えてくれた。
「西島教授に電話するので一緒に来週の土曜に付き合ってほしい」と俺は美穂に伝えると、美穂はにっこりと微笑んで、
「うん、いいよ」と返事をしてくれた。
スマートフォンで西島教授に貰った名刺の電話番号に電話をすると西島教授が出てくれた。
「来週の土曜日午後2時ごろ尋ねたい」と話すと、
「気をつけてくるのだよ」と言うので、
「母の美幸と美穂の3人で伺います」と伝えると、
「待っているから」と西島教授が返事をくれた。
「来週の土曜日に、西島教授の研究室に行きたい。母さん一緒に来てほしい」と伝えると、
「会社は土曜休みの予定だから一緒に行ける」と答えてくれた。
すると養父の明良が、
「俺を忘れてないか」と言うので、
「父さんも一緒に行く?」と俺が聞くと、
「よし俺がホテルを予約する」と養父は張り切っていたので、
「お願いします」と美穂と俺は返事をした。
24
俺は4人で、旅行気分で土曜の午前に新千歳から羽田に向かう飛行機に乗り西島教授の研究室に向かった。
西島教授との約束時間の15分前に研究室に入室した。少し時間があったので、俺は軽い気持ちでラピスラズリに話しかけた
「認証方式はDNAと以前説明してくれたけれど、美穂と僕のDNAの比較をしてほしい」と尋ねてみた。
美穂は、何を聞いているのと言う顔をした。
ラピスラズリからの回答は、
「血縁者である確率は、90%です」と言う内容だった。
俺と美穂は顔を見合わせた。
「信じられない」と美穂は言い青ざめた。それを聞いて、俺の養父母は大きな衝撃を受けたらしく、口をパクパクして言葉が出ない様子だった。
「俺は美穂と一緒にいると、顔の作りや背格好が同じなので、従妹か姉弟かと噂話が周りの友達から聞こえてきていた」と美穂に言うと、
「帰ってから父さんに聞いてみる」と美穂が答えた。直後に西島教授が研究室に入室された。
養父の明良と西島教授が初対面だったので紹介をした。
「今日はご両親と一緒だね」と西島教授が言うと
「ココアを飲むかい」と言って、美穂に向かって
「美穂さんココアを入れるのを手伝って」と声をかけたので、
「はい」と美穂が言って、研究室内にある炊事場に行こうとしたが、室内は相変わらず書類の山と散乱する書類で足の踏み場が無い状態だった。美穂は西島教授が歩くルートに添って後を歩いた。
「今日は皆に逢えて、ココアが一層上手く感じる」と、ココアを飲みながら西島教授はマグカップから立ち上がる湯気で眼鏡を曇らせながら笑ってくれた。
「怜央さん美穂さん防衛大学入学を検討してくれたかな」と言われたので、
「大、美紗、沙羅、美穂、僕の5人は、防衛大学に進学させてもらいます」と返事をした。
会話の様子を、俺の養父母は笑顔で見守ってくれていた。
「良い返事をくれてありがとう」と西島教授は嬉しそうに言い、
「今日、わざわざ来たのは、別の話があるのだろう。聞かせてくれないか」と言われたので
俺は美穂のブレスレッドの試作コンピュータを母の会社が作ってくれた事、基礎となる技術情報をラピスラズリが教えてくれた事を話した。
「自動車事故や船舶事故、飛行機事故を防ぐための技術として重力制御理論をラピスラズリが教えてくれて、この理論を実現するために、能登半島沖周辺の海底に眠る泥の中に含まれているレアアースの採取について相談に来た」と俺は伝えた。
西島教授は、にっこりと笑うと眼鏡をかけなおして、
「実現する可能性があるのかな」と言うので、
「まだ理論上の事でラピスラズリからアドバイスがもらえるので実現してみたい」と俺は説明した。
「平和利用のためにやるべきだな」と西島教授が言ってくれて、
「能登半島周辺の海底からレアアースを採取するよう、国に働きかけてみるから、準備が出来たら連絡する」と応えてくれた。
「レアアースの精錬は、レアエレメント・ソリューションズを使ってほしい事と、装置開発は母美幸の勤務先であるインテリセプト・ナビゲーション・システムズ(INS)にお願いしても良いか」と尋ねると、
「実績のある企業だから、1番確かだよ」と西島教授は返事をしてくれた。
「今日は遠いところ来てくれてありがとう。君達との出会いは、世界に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。また、君達と会話ができる事を楽しみにしている」と帰り際に西島教授が笑顔で送り出してくれた。
25
その日は養父が予約してくれていた晴海埠頭のホテルに泊まった。
チェックインした後に、
「月島のもんじゃ焼きを食べに行こう」と養父が言うので4人で、もんじゃ焼きの店が沢山並ぶアーケードを歩いてお店に入った。
メニューから、もんじゃ焼きを4種類頼んで4人で分け合って食べる事にした。
4種類のもんじゃ焼きの材料を店員さんが運んできてくれて、店員さんが、
「作ったことはありますか」と言うので、養母の美幸が、
「作っていただけますか」と返事をした。
既に熱くなっている鉄板に説明をしてくれながら材料の入ったドンブリの具を手際よくかき混ぜると、ドンブリから具の材料をスプーンで取り出して丸く伸ばした後、堤防を作って、その中に出汁を引いてと手際よく作ってくれた。
養父は、熟練の技だねと笑っていた。
俺は、この会話のやり取りで防御アーマースーツのヒントを見た気がした。
人間の体は柔らかい出汁の様なもの、でも具で作った堤防の外観を必要とする。できたら銃弾を受けても平気な素材が必要だ。
内側は柔らかく、外側は強固に作る必要があると考えていると、
「ボーとしてないで食べるよ」と美穂が俺の腕を指でツンツンしたので、ハッと我に返った。
「もんじゃ焼きが無くなるよ」と養母からも言われたので食べる事にした。
俺達4人は、お腹を満たしてホテルまで歩いた。
美穂は、無口になっていた。
俺はDNAの事を気にかけていると思ったが、美穂とつながっていれば、この先一緒に人生を分かち合えると考えた。美穂には悪いと思ったが、勝手にそんな想像をしてホテルに戻った。
翌朝ホテルのレストランで朝食を済ませて、晴海からバスと電車を乗り継いで羽田空港に出て、飛行機で新千歳空港に移動した。
新千歳空港駐車場に駐車しておいた車で美穂を家まで送り届けて、3人家族は自宅に戻った。
26
美穂は自宅に戻ると、養父の剛に西島教授との会話の内容と怜央とDNA一致の話をした。
剛は、一瞬大きな目を開けて信じられないと言わんばかりの顔をした。
数分間、美穂の養父である剛は無口になり話すことができなかった。
それは、美穂の両親と一切口外しないと約束した出生の秘密だったからだ。
「よし分かった、そろそろ真実を知っても良いのかもしれない」と剛が語り出した。
「美穂の生みの親である両親から昔聞いた話で、実は双子で生まれた子供は女の子と男の子だった。姉は美穂、弟は玲央と名付けた。その家は市之川と言い貧しくて弟の玲央を育てられなかった。ボランティアをされている知人の紹介で、玲央を札幌の孤児院に預けた。弟を孤児院に預けた理由は、玲央は体が弱く貧しい生活に耐えられないと考えたそうだ。
信州と札幌は距離が遠く離れているので、会う事は無いと判断して玲央を札幌の孤児院に引きとってもらった。
孤児院では市之川玲央として受け入れてもらった。
その後、生みの親は長女の一人娘の美穂を必死に育てようとしたが、市之川家は貧しく満足な食事を美穂にさせてあげられずに悩んでいたので、俺が引き取って養女にして伊藤美穂として今に至っている」と経緯を話してくれた。
この時美穂は、怜央と双子の兄姉で自分が姉だった事実を知った。
美穂の頭の中は真っ白になっていた。大好きでたまらない怜央が弟だった事は、悪夢のように感じた。
美穂の目から涙が流れていた。
弟とは結婚はできないので辛くてたまらなくなった。美穂は怜央を生涯の夫になる人と決めつけて暮らしてきた。
養父の剛は、
「絶対、姉と弟は会う事は無いと考えていたのに、まさかブレスレッド繋がりで、こんなに早い時期に出会って行動を共にするとは夢にも思わなかった。DNAが同じと聞いた瞬間、俺も頭の中が真っ白になった」と美穂に話した。
美穂は、怜央と双子だから感性や考え方や同じで気が合ったのかと納得がいった。
部屋に戻った美穂は、美紗、沙羅、大、玲央へのグループメッセージで、父との会話で、俺と双子だった事を伝えてきた。
俺は事前に知ってはいたが、事実と判明したこの瞬間、
「どんなに愛しても美穂と結婚できない」と衝撃が走って川に突き落とされた気持ちになって心が沈んだ。
養父母に美穂から来たメールの内容を話した。
「そうだったのか。美穂さんと性格や外観が似ているわけだな」と養父の明良は言い、
「生みの親の存在が分かった事と、姉さんが見つかって良かったね。でも怜央は、私達の大事な子供だし、これから美穂さんも大切な子供だからね」と言って、養母の美幸は2人目の子供ができた喜びで笑顔となり輝いていた。
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