彼女が僕らを裏切るまで
@kain--
第1話
シズクは浅い眠りから目覚めた。
太陽の光が窓から差し込んでいるが、部屋の中はまだ暗く冷たい空気が消えない。
ベットから体を起こして身支度を整え玄関に向かう。
「おはようございます、シズク様」
家にいるほとんど使用人が綺麗な列をつくり、ドアの横に並んでいる。
「おはようございます、お父様はまだお見えになりませんか?」
シズクの問い掛けに答えるかのようにドアが開いた。
「おかえりなさいませ」
一挙手一投足違わず使用人達はお辞儀と挨拶をした。
ドアを開けた本人はその光景を満足そうに眺め、挨拶を返した。
手には縄を持っていて、なにかを連れている。
「お父様おかえりなさい、その後ろの方は……」
「これは新しく買った奴隷だ、お前ももう16だろう?外に連れていく機会が増えるだろうから護衛を買ってきた」
縄に繋がれた褐色肌の赤髪の少年は、シズクよりも少し背が高く体格がいいが歳は同じくらいだという。
切れ長の黒い目はこちらを睨んでいるように見える。
シズクは睨まれても何も言わず、申し訳ない気持ちで下を向いた。
本来の護衛とは主人を魔物から守り報酬をもらう仕事だが、奴隷の場合は護衛とは名ばかりの身代わりに近い。
守るべき人が傷つけられそうになった時に、魔物との間に立ち代わり主人を逃がすのが役目だ。
仕事上助かることが少なく、大抵の場合は使い捨てにされる。
なので、武術に優れたものよりも同じ位の身長や年齢のものを選ぶことが多い。
「少し背が違うが同じようなものだろう。さっそく3日後には隣町である医師達の会談にお前も参加させる。私に恥をかかせないよう勉強に励みなさい」
近くにいた使用人に縄を渡し、奴隷を地下の牢屋に置いておくように言いつけると、さっさと部屋に戻って行った。
赤毛の少年は抵抗もせずに、地下へと続く階段を裸足で降りていった。
その夜、食事を済ませたシズクは毛布と本、厨房のコックにもらったパンを持って地下へと降りた。
シズクの先祖は昔、王と密接な関係にあり王政に批判的な者を連れ去り、この地下に閉じ込め殺していたという本を読んだことがあった。
内容をしっかりと読む前に家のものに取り上げられてしまったため、内容も真偽もわからなかった。
地下は冷たい空気が漂っていて、それが気温的なものなのか霊的なものなのかは分からない。
広い牢屋を一つ一つ確かめていくと、錠をしっかりとしてある牢屋を見つけた。
明かりで照らすと、朝見たものと同じ赤毛の少年が壁にもたれて座っていた。
「何の用だ」
少年の声は、食肉目の動物が唸るような低い声だった。
「ごめんなさい!あ、朝に見た時に寒そうだったので毛布を渡そうと思ってここに来たんです」
シズクは低い声に驚き声が裏返ってしまった。
毛布を近づけると、少年は奪うように受け取り体を包むように被った。
「あの、ご飯はもらいましたか?パンを1つ持ってきたのですが食べますか?」
「使い捨ての奴隷に飯なんて持ってくるバカはいねぇ。よこせ」
パンを奪い取るとちぎらず口に運びガツガツと食べ始めた。
初めて見る食べ方にシズクは驚き戸惑っていたが、少年が咳き込み始めたため、急いで水を手渡した。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、3日ぶりのメシとなると飲み込み方も忘れちまった」
受け取った水で何とかパンを流し込み、ため息混じりに言った言葉をシズクは聞き逃さなかった。
「3日なにも食べられていないのですか?」
「あ、あぁ。商人も買い手が決まってからはなにもよこさなくなった。お前の親父もなにもくれなかったしな」
少し前のめりに質問してきたシズクに目を丸くしながらも少年は素直に答えた。
「そんな……」
「んなことより、肉持ってきてくれよ」
ショックを受けているシズクをよそに少年は、次に欲しいものを要求してくる。
「いえ、久しぶりの食事にお肉は……今日もスープやお野菜の方が良かったかもしれません」
独り言のようにブツブツ話すシズクに、少年は舌打ちをした。
そして、牢屋の隙間から手を伸ばしシズクの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「オレはお前の代わりに死んでやるんだ、最後のお願いくらい聞いてくれよ、優しいお坊ちゃん」
怯えきった目で見つめるシズクに、嘲るような声音でそう呟いた。
手を離され自由になったシズクは、持ってきたものを全て置いて階段の方へ暗くなった牢屋を背に駆け出した。
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