第二章 勇者パーティとの邂逅編

第6話 勇者との邂逅




 魔王城からド派手に家出した俺はようやく涙も止まり、一人寂しく空を飛んでいた。

 


 

「家出したのはいいものの……行先とかなんも決めてなかったな。腹も減ったし」


 俺はそう呟くと、ふと後ろを振り返る。

 すると魔王城はもう影も形も見えなくなり、かなり遠くまで来た事がわかった。


 次に下を見ると森を抜けた先に小さな村が見えた。

 その村は人間族の領地の端に位置し、魔族の領地に一番近い所である。


「んーー。とりあえずあの村に降りるか。でもこの辺には人間族しかいないだろうしこのままでは怪しまれるかな?ならば――【隠蔽】!」


 そう言い俺は頭の角と魔族特有の赤い目を『言霊』の能力で隠し地上に降りた。


  「よし、これでどっからどう見ても魔族には見えないだろう。さて、これからどうしたものか。知り合いもいないし頼れる人もいないし――」


 そして俺は暫くその場で立ち止まり思案した。



「――――!!! 閃いたぞ!!」


 俺は誰もいない森の出口で大声でそう叫んだ。

 しかし急に恥ずかしくなり辺りをキョロキョロと見渡す。

 そして辺りには誰もいない事を確認するとホッと胸を撫で下ろした。

 


 因みに何を閃いたかと言うと――

 

 段ボールに俺自身が入り《誰か拾って下さい》と書いた紙を貼り付ける。

 そこで通りがかった人間に拾われて助けて貰う。


 ――――というもの。

 名付けて『段ボール捨て猫大作戦』である。


 ほら、みんなもドラマとかアニメとかで見た事があるだろう?

 段ボールに猫を入れて捨てられているのをさ。

 現実ではあまり見ないけど……。

 

 それはともかく! 人間というのは優しい生き物で、捨てられているか弱き者を放っておけないという心理がある…………はずだ!

 少なくとも俺はそうだ!

 俺はその心理に目を付けたという訳だ。

 

 それに道端に捨てられている身寄りのない俺を拾ってくれる人は良い人に違いない!

 もしかしたら俺の『魔族と人間族の争いを止める』という目的の手助けになってくれるかもしれない!

 そんな淡い期待を抱きつつ、俺は作戦を実行に移した。


【段ボール 出現】

【紙とペン 出現】

 

「よし、こんなもんだろう!」


 そして俺は言霊で発現させた紙にペンで文字を書き、段ボールに貼り付け、その中にスッポリと収まった。

 

 あ、因みにこっちの文字や言葉は日本語が自動で翻訳されるらしい。

 なんという御都合主義。

 感謝感謝である。


「さて、あとは誰か良い人に拾われるだけだな。……ふぁーーー。眠いな……。食べる物も無いし少し寝るか」


 そして俺は小さな段ボールの中で静かに眠りについた。




 ――――――翌朝


 ちゅんちゅんちゅんちゅん


 子鳥のさえずりで目が覚めた。

 すると目の前に見知らぬ男が立っていた。


 

「僕? 大丈夫かい?」


 その男は俺に優しい声色で声を掛けてきた。

 俺は眠い目を擦り目の前にいる男をしっかりと観察した。


 男は少し長い金髪で目は青く、顔は凄く整っているが服はボロボロである。

 年齢は高校生くらいだろうか?

 こんな子が同じ学校にいたら間違いないなく学校内の女子は漏れなく彼の虜になるだろう。

 そんな事より……。


「誰だ? 貴様」


「き、きさま……!?」


 男は初めは驚いた様子だったが俺が子供だからだろうか。

 すぐに表情がへにゃへにゃと緩み弱々しい顔付きへと変わる。


「ハハハ! 凄い言葉を使うねー。俺『貴様』とか初めて言われたよー!」


 話し方で何となくこの男は優しい子なのだろうと俺は思った。


「で? 俺は貴様が誰かと聞いているのだが?」


「あぁ! ごめんごめん! 俺はユーリ! そこのサイハテ村で暮らしてる。君は?」


「俺は魔……。コホン! ……エルだ」


「そうかー! エルっていうのかー!」


 へー。あの村サイハテ村って言うのか。

 まぁ人間族の領地の端にあるし、らしいと言えばらしいのだが。

 ユーリは俺の名前を何度も言いながらニコニコとしている。


「そうか。それで? 貴様は俺を拾ってくれるのか?」


「うん! いいよー!」


 軽っ!

 何だ? この軽い返事は?


「いいのか? 俺は金も無いし何も返せないぞ?」


「大丈夫大丈夫! 俺もお金ないし!」


 全然大丈夫ではない。

 こいつ子供を育てる大変さを理解していないのか?

 まぁ俺も育てた事無いから知らんけど。


「わかった。なら頼む」


「うん! 頼まれたぁ!」


 何ともまぁ本当に軽い男だ。

 こんな奴が勇者だったら人間族は終わりだな。


「それで? 貴様は魔族の領地である森の近くまで何をしに来ていたんだ?」


「ん? あぁそれは王都に向かおうとしてたんだ。そしたらエルを見付けたんだよ!」


「そうか。…………なら一ついい事を教えてやろう」


「フフ。変な話し方だね。どうした?」


 ユーリは俺の話し方をクスクスと笑いながらそう聞いた。


「王都はこちらではなく、反対だぞ……」


「ええぇーー!!??」


 ユーリは驚きその後、酷く落ち込んでいた。

 俺はスカーレットに教わる形で人間族の領地の事も勉強していた。

 そのおかげで都市の位置関係くらいはわかるのである。


「貴様……まさか王都の場所を知らんのか?」


「いや、村から出て左って事は覚えてたんだけど……」


「村から出て左? それは何処から出て左なんだ?」


 サイハテ村にはこれといった出口や門は無く、村の何処からでも外に出る事が出来る。


「……あ。そうか。出る場所によっては右に行かないといけないのか」


「貴様……さてはアホだな……?」


 俺は酷く落胆していた。

 俺を拾ってくれた優しい人間がこんなにもアホだという事に……。


「アホじゃないよ!! こう見えても俺は勇者に選ばれたんだからね!」


「はぁ!? 勇者だと!!??」


「えっ!? う、うん、そうだけど……? どしたの……?」



 マジかよおい……。

 コイツが……勇者だと?

 こんなアホで弱々しい男が勇者だと!?

 終わった……。

 人間族は魔族に滅ぼされる……。

 これは確定だ…………。


「そうかー。 勇者かー」


「そうだよ! あ! さては疑ってるなー?」


「いや、自分でそう言うってことは貴様は勇者なんだろうよ」


「そうそう! 俺は勇者なの! だから早く王都へ行かないといけないんだけど……。そうだ! エルも一緒に王都に行こう!」


「はぁ!? 何で俺が勇者の貴様と一緒に王都へ行かんとならんのだ!」


「えー! 駄目かな? 俺がエルを拾ったんだから一応エルの保護者なわけだし」


「良いわけないだろ! 俺は魔王だぞ!!」


 俺はまさかの勇者との出逢いに動揺し、つい自分が魔王だと口を滑らせてしまった。

 

 まずい……。

 コイツは勇者だ。

 なら魔王である俺を殺すか?

 まぁ負ける気はしないが……。

 

 そう思ったのも束の間。

 ユーリは声を出して大笑いを始めた。


「ハハハハハハ! エルが魔王? そんな訳ないよー! こんな可愛い子供が魔王だったら俺でも勝てるよー! な! 一緒に行こ! エル!」


 コイツ全く俺の言葉を信じてないな。

 この世界の奴らは本当に俺の話を聞かないな。

 それに貴様みたいなアホが俺に勝てる訳ないだろ!

 もう一度言おう。アホが!!


 と心の中で叫ぶ俺だった。



 そうして俺が魔王だと信じないアホ勇者ユーリと共に身寄りの無い魔王の俺は王都へと向かうのであった――――

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