第5話 家出




 お披露目会当日。

 いよいよ魔王城へ到着した俺はスカーレットに誘導され『魔王の間』の扉の前まで来ていた。



「それでは魔王様。扉を開けさせて頂きます」

 

「…………あぁ。頼む」


 スカーレットの声に緊張を押し殺すように唾を飲み、俺はそう言った。

 すると扉がゆっくりと開き中の様子が少しずつ見えてくる。



 魔族が一人、魔族が二人…………。

 魔族めっちゃいるじゃん…………。

 

 魔王の間には既に大量の魔族が、俺が通る道を開けて両側に整列し膝まづいていた。

 俺はそのど真ん中をただひたすらに前だけを見て堂々と歩いた。


 し、視線が痛い……!

 

 現魔王の俺と初めて会う奴らしかいないのでその熱視線は当然の事である。


 そしてそのまま俺は玉座へと腰掛けた。


 

 シーーーーーーーーン


 

 あれ? これ俺が話し始めないといけないやつ?


 魔王の間は静寂に包まれていた。

 

 ていうか何話せばいいんだ? いきなり争い辞めましょうって言うか? いやいやそれはナイナイ……。とりあえずなんか話さないと胃が持たん……。


 そして俺は一つ咳払いをし口を開いた。

 

「コホン。あー。俺が魔王だ」


 そうすると――


「「「「「うぉーーーー!!!!!!!!」」」」」


 ――と怒号のような歓声が部屋中に響き渡った。

 どうやら歓迎されているようだ。

 少し安心した。

 さてこれから何を話せばいいのか。


 ――――俺がそう思案していると長い黒髪を靡かせ眼鏡をかけた一人の女魔人が俺の前に来て膝まづいた。

 その女魔人は背中に大きな黒い翼を生やし、それで体全体を覆い黒いローブを着ているかの様に見えた。



「何だ……貴様?」


「魔王様。お話の最中に失礼致します。わたくしは五芒星が一人。シエスタと申します」


 ゲェーーーーー!?

 コイツがメチャつよ五芒星の一角シエスタかよ!!

 こえーーーーーー!!

 膝まづいてはいるけど威圧感パネェーーー!!

 毛穴とかから魔力漏れてんじゃねぇの!?

 

 ………………いやいやいかんいかん。

 ここは魔王としての威厳を示さないと……!


「……何だ? 俺の話を遮ってまでせねばならん話か?」


 どうだこの魔王の威厳は……!

 その様に俺がドヤ顔をぶちかましているとシエスタは涼しい顔でこくりと頷き、口を開く。


「先代魔王様が亡くなられて早10年。人間族を滅ぼさんと我々五芒星を中心に奮起して参りました。しかしながら、ここ数年で配下の者達の士気が段々と下がってきております。ここは魔王様のお言葉を頂きたく存じます」

(10歳であられるのにこんなにも立派な振る舞い……! さすが魔王様……!! 感服いたしました……!)


 

 そうかそうか。そういうことね。

 俺の魔王の威厳がまるで通用していないようだけどOK、OK!

 じゃあここで満を持して『争いを辞めましょう宣言』を一発ガツンとぶちかましておきますか!


 そして俺は前を向き配下の者達に目をやった。

 その者達が俺を見る目はさながら神を見るような目だった。

 俺は腹を括り、魔王としての威厳を保ちつつ精一杯の大声で叫んだ。


「貴様ら! 人間族との争いを直ちに終わらせよ!」


「はっ! 承知致しました!」

(魔王様は即刻人間族を滅ぼせと仰られている……! この長く続く争いに嫌気がさしておられるのだろう……)


『うぉおおお!!! 魔王さまぁ!!!!!!!!』


 俺がそう叫ぶと五芒星の一人の女が俺の言葉に返答した。

 それに呼応するかの如く、周りの魔族達の怒号が城内をこだまする。


 ん? そんなすぐに承知しちゃうの?

 いや、待て。これちゃんと伝わってるか……?

 もう一度、次は言い回しを変えて――

 

 

「これ以上、無駄な血を流すのは辞めろ。俺は貴様ら民達が傷付くのをもう見たくは無いのだ」


「なんと慈悲深い……! 我々魔族一同、これからは決して傷を負わぬよう努力して参ります!」

(魔王様が愛して下さる魔族を傷付ける人間族をすぐに滅ぼしますからね……!)


 この女、盛大な勘違いをしているな?

 何やら涙を流して感動しているようだが?

 全くもって俺の意図が伝わっていない。

 それなら――


「争いが続けばやがて食料や武器、金が底を尽きる。このままではまずいとは思わんか?」


「おっしゃる通りでございます。では直ちに人間族の領土から金品や食料を奪って参ります」

(そこまでお考えとは……! さすがは魔王様。若干10歳にして末恐ろしいですわ……)


 違う違う、そうじゃ、そうじゃない。

 頭の中にそんな曲が鳴り響く。


 もう回りくどい言い方するのはやめよう――

 

「俺は、もう人間族と争うなと言っているのだ!!」


「なるほど……」

(そういう事ですか魔王様……。このシエスタ全て理解しましたぞ……!)


 お!? ようやっと理解してくれたか?

 全く頭の固いヤツめ。


 すると女は顔を上げやる気に満ち溢れた表情で拳を上に掲げると――


「魔王様のみこころのままに……。人間族に争う暇もない程に! 一瞬で! 一方的に! 蹂躙せよ!!!!!」


「「「「「うぉおぉお!!!!」」」」」


 ――――と叫んだ。

 その言葉の後に魔族達は怒号のような雄叫びを上げた。


 

 あーー! もう!!!

 なんでわからないんだ、このバカどもは!?



「貴様……こんなに俺が親切丁寧に優しーく言葉を尽くしてやったと言うのに……」


「はっ! 魔王様の有難いお言葉、全て我々配下の心にしっかりと届いております!」


「届いてねーよ! 馬鹿共がぁ!!! 【浮遊】!!」


 俺はそう叫ぶと『言霊』の能力でフワッと宙に舞い上がった。


 そして――


「俺の意に反した事……万死に値するからな!! 後悔してももう遅いからな!!! 【破滅の業火】!!!!」


 ――――俺はそう言うと手のひらを上に向け天井を、爆発にも似たとんでもない火力で一気に破壊した。


「ま、魔王様!? 一体何を……!?」


「お前らが俺の言う事を聞かないから……俺は家出する……! お前らなんかもう知らん!! 好きにしろ!! ばーーか!!」


 そう言い残し俺は穴が開いた天井から魔王城を飛び出した。


「お、お待ちください……! 魔王様……! 魔王様あああーーーーー!!!!!」



 

 そして俺は一瞬にして魔王城から遠く離れた所へと飛んで行った。

 

 残された魔族達は――


「あぁ魔王様…………! 我々は今、魔王様の力の深淵を垣間見たのですね……! 我々は魔王様のご意志に沿える様、これからも尽力して参ります……! そうだろう!? 野郎共!!」


「「「「うぉおおおおおお!!!」」」」


 ――――俺の意図に反し、人間族を滅ぼす為の士気を高めていた……。

 

 

 

 第一章~完~




 ☆☆☆☆☆★★★★★


 ここまで読んで頂きありがとうございます!


 これにて第一章は終わりです。

 次話からいよいよ勇者や勇者パーティーとの出会いが待っています。


 そして盛大に勘違いした魔族陣営はどう動くのか?


 魔王エルは争いを止める事が出来るのか?


 もし続きが気になる!と思って下さった方は、作品フォローと★★★で評価をいただけると筆者のモチベーションがぐぐーんと上がります!


 気軽に♡や感想もお聞かせください!


 

 青 王(あおきんぐ)

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