第一章 天才魔王爆誕!!編

第1話 転生


 時は遡り、俺が魔王として転生する前のお話。


 ◇

 


 俺の名前は内身善行(うつみよしゆき)。四〇歳のフリーターだ。


 何で四〇歳にもなってフリーターなんかしてんだって? そんなの決まっているだろう? 怠惰だから…………デス!!


 まぁ冗談はさておき、実は俺は周りからお人好しだの優しすぎるだの色々と言われている。だが俺にはそんなつもりは一切無く、ただ弱い者が淘汰されるっていうのが嫌いなだけだ。

 

 カツアゲされている陰キャ少年を助けたら、代わりにヤンキー達に気絶するまでボコボコにされたり、学校で虐められている子がいて止めに入れば、上履きを女子更衣室に隠されるイタズラを三年間続けられたり……。

 

 などと、色々痛い目に遭っては来たが俺は今生きている。五体満足で生きているのだ。それだけでいいじゃないか。


 

 そんな俺は高校卒業と同時に一人暮らしを始めた。理由は簡単。

 俺の家はあまり裕福ではなく、大学に行けるのは俺か妹かのどちらか片方だけだった。何の目標もなかった俺は、妹が大学に行きたいと言うので早々にその権利を妹に譲った。

 

 それからは家賃や生活費を稼ぐ為バイト三昧。必死に日銭を稼ぐ日々が続き、気が付けば四〇歳になっていた。


 そんな底辺人生を歩んでいる俺だったが何一つ後悔はしていない。

 アニメや漫画やゲーム等の趣味も満喫しているし、フリーターで童貞ではあるが、一人で好きなように生きる人生も楽しい。今すぐ死んでも全く未練を残さず成仏していけるだろう。



 プップーーーー!!!



 そう。こうやって突然トラックが突っ込んで来て死んでも全然平気――――――――



 ドガアアアーーーーン!!



 ――痛い…………。あぁ……これは死ぬな、俺……。

 うん。でも本当に悔いは無いな。全くと言って良い程にこの世に未練が無い。

 でももし……もし次があるのなら……。今とは全く……違う……人生……が……。


 こうして俺の四〇年という人生の幕は、突然閉じられた。



 ◇



 気が付くと俺は真っ白な世界にいた。俺は辺りを見渡した。アニメやマンガやゲーム等を紳士の嗜みとして殆ど網羅していた俺は、この状況を瞬時に理解した。


「あ、アニメとかでよく見るヤツだ……」


 死んだと思ったら急に女神様が現れて、貴方は私の手違いで死んでしまったので――――的なノリで異世界転生出来る『アレ』だ。

 


「あのーもし? 内身善行さん?」


 俺が辺りをキョロキョロしていると女性の声がした。その声の方に目をやるとアニメとかでよく見る『The女神様』って感じの美女が立っていた。

 

 ――ほーら来た。やっぱり女神様が俺を異世界に転生させてあげるっていうアレだな。


「はい、俺が内身善行です。で、何処の異世界で勇者として魔王を倒せばいいですか?」


 俺は終始キリッとした顔で女神様にそう言った。しかし、女神様は首を横にブンブンと振ると思いがけない事を言い始める。


「貴方に転生して頂くのは勇者ではなく、魔王です」

 

「はい?」


 俺はこの女神様が何を言っているのか理解出来なかった。


 ――この状況で異世界転生するなら勇者、最低でも人間に転生するものだろ……?

 あ、でもスライムとか蜘蛛とか他にも魔物に転生してた人も居たか……。いやそんな事より……。


「魔王って、女神様!? 何故、俺が魔王なんです!?」

 

「私は貴方の生前の行いを全て見ておりました。貴方は百人に一人、いえ百万人に一人もいないのではないかと思える程のお人好しです。ですのでそんな貴方には現魔王の息子として転生して頂き、次の魔王となった暁には魔族と人間の争いを止めて欲しいのです」

 

「え、え……? 話が全く読めないのですが、そんなに俺がお人好しと言うのなら本来、勇者に転生するのが王道では……?」


 俺は戸惑いながらも女神様にそう言うと、女神様は今度はゆっくりと首を横に振った。


「貴方ほどのお人好しが魔王になったとしても、人類を滅亡させる等の考えには至らないでしょう? それに残念ながら勇者はつい先日その世界に新たに誕生したばかりなのです」

 

「そう……なんですね……。まぁ俺がお人好しかどうかはとりあえず置いておいて……。そうですね。別に魔王になったからと言って人類を滅ぼそうとは思わないでしょう。では女神様は俺に内部から魔族を滅ぼせと?」

 

「いえ、そうではありません。私は貴方に転生して頂く世界の神です。人間族も魔族も全て私の子供のようなものです。どちらも争うことなく平和に、幸せに暮らして欲しいのです」

 

「あーー。そういう事……ですか。わかりました女神様。――――俺転生して魔王になります。ですが、そうなると俺の親となる現魔王が邪魔になるのでは?」


 俺は争いを止めようとすると現魔王の存在が邪魔になってくるだろうと危惧した。しかし女神様は満面の笑みを浮かべながらこの様に仰られた。


「そのような心配には及びませんよ。何故なら現魔王には貴方が転生するのと同時に死んでもらうので」

 

「えーーー!? さっき言ってた『私の子供たち』発言はどこへ!?」


 俺は思わず、無礼だとは承知の上で女神様にツッコんでしまっていた。しかし女神様は構わず笑顔のまま続ける。


「それに加えて貴方には転生特典として何でも願いを一つ叶えて差し上げます」

 

 ――出た、転生特典。何にしようか。

 全属性魔法が使えるとか。いや、鑑定スキルも捨て難い……。うーん……。


「はぁ……。この待っている時間も勿体無いので、私がランダムで決めますね」

 

「え!? ちょ、待ってくださいよ! ここ一番大事な所でしょ!?」


 女神様は俺の言い分などは全く聞かず、退屈そうな顔で胸の谷間に指を差し込みゴソゴソとしてから一枚のカードを引き抜いた。


「えー……はい! 貴方の転生特典は『言霊』に決まりましたよー! よかったですねぇー」

 

「えぇ……そんな勝手に……。それに言霊? 何ですかそれ……?」

 

「大丈夫ですよ、ちゃんとチートです」

 

「そんなニコニコして言われましても……」


 俺の転生特典は『言霊』に決まったようだった。

 そして美しく優しそうに見えていた女神様の笑顔も今では悪魔のようにすら見えて来た頃合で、いよいよその時はやって来る。


「では、内身善人さん。早速私の世界、"ニコワールド"へ転生して頂きますね! あぁそれと、転生後は身体だけでなく、精神までもが幼児化する事もあるので気をつけて下さいねー! それではいってらっしゃいー!」

 

「またそんな急に色々と……! ――――って……うわぁーーー!!!」


 女神様が笑顔でそう言い手を振ると、俺の体は光り始め次第に意識が遠のいて行った。

 

 ――へぇー。異世界転生ってこんな感じなんだな。

 漫画やアニメで何度も見た光景を俺が体験する事になるとはな。

 

 さて、魔王になって人間族との争いを止めるって話だったけど何からしていけばいいのやら……。ていうか転生特典の『言霊』の説明もなんも聞いてないし……。



 ◇



 そして俺は気を失い、目を覚ますと小さなベッドに寝かされていた。

 

「魔王様、ようやくお目覚めですか?」


 そんな俺の頭上から、若い女性の声がした。

 

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