ガガンボ

佐々井 サイジ

Y子の小学生時代の同級生:真田瑠未さん(仮名)

 Y子ちゃんとは小学校の四年生と六年生のときに一緒のクラスでしたが、仲良くなったのは六年生になってからです。

 六年生のクラスはそれまで仲の良かった友達がみんな別のクラスになってしまって、修学旅行でグループ分けするときにどのところにも入りにくかったんです。いじめられてたわけではなかったんですけど、みんなよそよそしくて。でもY子ちゃんから「瑠未ちゃん一緒になろう」と声をかけてくれました。Y子ちゃんはもともと明るくて人気の女の子でした。性格も良くて、男子からもモテているという話も五年生までよく聞いていました。

 Y子ちゃんがグループに入れてくれたことがきっかけで仲良くなって私の家にも来て遊ぶようになりました。でもY子ちゃんの家には一度も行ったことがありません。一度「Y子ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」と聞くと「うちはガガンボがいるから……」と言われました。ガガンボと言えば蚊を何倍も巨大化したような羽虫で私の住んでいたアパートにも時々いました。気持ち悪かったですが、それだけでやんわり断られたのはよくわかりません。でもその時はY子ちゃんも口を閉じちゃったので、なんとなく触れちゃいけないんだなと思って、それからは家に行きたいと言うことはありませんでした。

 Y子ちゃんは小六の三学期に転校してしまいました。中学でも一緒のクラスになれたらいいねって言い合っていたので、私はすごく寂しくてY子ちゃんに抱きついてしばらく泣きました。Y子ちゃんも同じく涙してくれたのですが、「ごめん瑠未ちゃん、ガガンボのせいで」と耳元で嗚咽交じりに囁きました。どうしてガガンボが瑠未ちゃんを転校させる理由になったのかがやっぱりわかりません。

 中学に進学したあとの瑠未ちゃんが悲惨だったことは聞きました。瑠未ちゃんと一緒の中学の子と通う塾が一緒で、その子が喋ってくれました。

「瑠未ってY子と同じ小学校だったんだよね。あの子めちゃくちゃいじめられてるよ」

 三学期に転校したY子ちゃんはクラスになじむことができず、いじめられ始めたそうです。最初は机に落書きされたり上履きを隠されたりといったものから、髪の毛を切られたり耳たぶにホチキスをされたとも聞きました。どうして瑠未ちゃんがそんな目に遭わないといけないのかわかりませんでした。でも正直、瑠未ちゃんが転校せずに同じクラスでいじめられていたら、自分が助けに行けただろうかと疑問に思います。瑠未ちゃんがあまりに可哀想で可哀想で、でもちょっとだけ違う学校で起こった出来事であったことに安堵した自分がいます。

 瑠未ちゃんが中三で亡くなったのはやっぱりいじめが原因ですよね。Y子ちゃんの家が火事になって一家全員亡くなったのは悲しくてたまりません。ただただY子ちゃんが安らかに眠れることを祈ります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る