追放された元勇者、無能の烙印を押された少女を拾う。~修復スキルでダンジョンに追放された元魔王軍四天王を手懐けて、元凶の魔王にカチコミに行く~

読永らねる

序章 追放と出会い

第1話 運命を変える出会い

「……疲れた」


 冒険って好きか? 俺は好きだった。


 立ちはだかる強敵を仲間と一緒に打ち倒していく興奮。ダンジョンの中にしかない不思議な生き物、景色、武器防具。


 心躍るよね、俺もそうだった。


 今使ってる剣も鎧もダンジョンで見つけた。特殊な効果とかはないんだけど、頑丈でよく手に馴染む。

 仲間は色んな出会い方だったな。幼馴染、クエスト同行、敵同士……僧侶、盗賊、魔法使い。みんな大好きだった。


 でもさ、俺は今たった一人で扉の前に立ってる。


 前人未到の四つのダンジョン、その一つ。

 東の『サイハテ』の最奥の部屋、この扉の先にダンジョンの主であるボスが待ち構えているはずだ。


「なんだろうな……道中のモンスターからして動物系かな?」


 いいか? ダンジョンのボスってのはそのダンジョン中のモンスターが総掛かりでも勝てないような強さをしてる。

 作戦を立てて、何が来ても対応できるようにするのが一番。今回みたいな前人未到のダンジョンだと情報もないから、逃げる準備が一番大切なわけ。


 逃げるための準備……煙幕のための煙袋、折ると強烈な音がする組み木、一日動けなくなる代わりに半日走り続けれるって丸薬。

 ポケットからそれを取りだし、扉の傍にまとめて置く。まァ次の勇者たちに託すとしますか。


 自分でも自暴自棄になってるって分かってる。けどさ、どうしようもない感覚、分かるだろ? 走り出す方法がわからない感覚だ。


 最低限の装備だけして、俺は扉を開いた。


◇ ◇ ◇


「うわ……ドラゴンかよ……」


 中にいたのは身体を丸めて寝そべる赤色のドラゴン。種類や特徴なんかはギールに聞いたら分かったかもな、まぁ今はいないしどうでもいい。


 ダンジョンの外では滅多に見ることがないドラゴンだけど、その強さはわざわざ語る必要も無い。

 人間の数倍でかい生き物が、数倍じゃきかない膂力と速さで腕やしっぽを振り回す。それだけでも相当キツイのに、魔法や特殊なブレスを使う種類もいるらしい。


 目の前のドラゴンは僅かに首をもたげ、ちらりとこちらを見た。

 目が合うだけでなんというか……死ぬ気がする。次の瞬間には壁にたたきつけられてて、胴体が真っ二つになりそうなそんな予感。


 ただ、ドラゴンがそのまま身体を起こすと、胴体に隠れていた小さな少女が見えた。

 硬い床に仰向けで寝ており、ピクリとも動かない。遠目でハッキリとは分からないがもしかしたら長髪の少年かも。


 そんなことより、今何をしようとしていた?

 身体で覆い隠すようにして? 鼻先を向けて?


 勇者としての自覚など完全に抜け落ちていたと思ったのに、それを見た瞬間身体が爆ぜた。


「がァァァァア!!!」


 フェイントも反撃への防御も全てを捨てて、全力の一撃をドラゴンの首へと叩き込む。


 ――しかし。


 カキィン、と情けない音を立てて、剣は真っ二つに折れてしまった。


 それがなんだ、そんなことはどうでもいい。

 折れてもまだ根元は使える。頑丈な篭手もある。目は、口内は、いくらでも急所は残っている。


「落ち着けよ」


 続く攻撃のために必死で回していた頭が、唐突な言葉で真っ白になった。

 ハッと気がつけば、ドラゴンは穏やかな目でこちらを見ていた。首をなるべく下げ、あまつさえ手で子供を庇うようにしている。


「さっき寝たところなんだ、起こさないでやってくれ」


 近くで目をこらすと、僅かに少女の胸が上下しているのが見えた。肉付きからも女の子で間違いない。

 寝息を立てて、安らかに眠っている。


 ドラゴンの知脳が高い話は聞いたことがある。咆哮以外にも言葉によるコミュニケーションを使うとも。


 だが、このドラゴンは確かに


「なんだ……お前……!」


「こちらのセリフだよ青年。いきなりブチ切れて飛びかかってくるなんて……食事の最中にでも見えたかな?」


 流暢に喋るドラゴン。その余裕ある態度も、数瞬の戦闘で格の違いを見せつけられたことも、図星であることも。全部が恥ずかしくなって逆に冷静になれた。


「見えたんだよ……悪いか」


「悪くない。命乞いに仲間を飯に差し出そううとした奴もいたからな……呆れる。私に人を食う趣味は無い、こんがり焼いておいたよ」


 ドラゴンは顎で部屋の隅を指す。その先には何人分かの人間の骨がころがっていた。


「私の名はラウル。ラウル=ガリュウ=ドレンガッシュ。元魔王軍四天王だ」


「四天……っ!? お、俺は勇者……いや、勇者のイド=カインツリーだ」


 ダンジョンの中にいるのは『中の魔物』、外の世界にいるのが『外の魔物』だ。

 魔王軍四天王といえば、勇者にとっては魔王と肩を並べる敵。『外の魔物』の中でも最強の一角で間違いない……なんでダンジョンのにいるんだ?


「元……か。その様子を見るに道中で仲間が全滅でもしたか?」


「……仲間は生きてるよ。俺はパーティーを追放されたんだ。……はは、俺がリーダーで俺が作ったパーティーなのにな」


 左腕に巻かれた包帯を取り、ラウルに見せる。

 さすがのドラゴンにも異質な光景に見えたのか、ラウルは目を細めた。


「モンスターの腕を繋げたのか……」


「仕方なかったんだ。じゃなきゃ全滅してた……もう、俺には人間の回復魔法が効かない」


 失った腕の代わりに繋げた腕も、肘の辺りが裂けていてまともに動かせない。


(夢にみた『サイハテ』のボスに何を愚痴ってるんだ俺は……)


 沈んだ俺を見かねたのか、ラウルは咳払いをひとつしてから口を開いた。


「……実はな、私も追放された身なんだ」


「……は?」


 気恥ずかしいのか、目線を逸らしてラウルは言う。


「ツノを折られてしまってな、四天王を追放された。魔力もロクに使えなくなってダンジョンから出られない」


 ラウルの首にはその折られたであろうツノが提げられていた。よく見れば鼻先の部分に折れた跡もある。


「あ〜……それはその……災難だな」


「貴様ほどではないさ」


 いつの間にか俺は笑っていた。こちらを見てラウルも笑っていた。

 半ば自殺のつもりでやってきたダンジョンのボスと何を笑ってるんだ? でも仕方ない、笑うしかねぇんだもん。


「どうすっかなぁ……これから」


「戦ってみるか? 今ならハンデで魔法はナシにしておくが」


「使えないの間違いだろ」


 くだらない冗談を言い合っていると、むくりと少女が目覚めた。

 状況が分からないのか、キョロキョロと当たりを見回している。


「そういやこの子はなんだ?」


「分からん。私が起きたらここにいた」


(……このレベルのダンジョンに? 見たところ武器すら持ってなさそうだけど)


 はっきり言って見た目は汚い。あぁ、顔とかじゃなくて服装が。顔は可愛いんじゃないか? 年相応の無垢なあどけない顔、それなりに整っていて目も大きい。

 一応服として成立したものを着ているけど、よくよく見れば子供用とは思えない粗い繊維のもので汚れも多い。ていうか裸足じゃないか、怪我してないかな。


 そんな俺の心配など全く気にならない様子、ペタペタと歩いて少女が近づいてきた。


「……なおす?」


 俺の腕を指さして少女は言う。


「……ごめんね、回復魔法は俺には効かないんだ」


「……? なおしたらだめ?」


「だめってわけじゃないけど……」


 うっ……あんまりキラキラした目で見つめないでほしい。なんだか悪いことをした気持ちになる。

 どう説明したものかと天を仰いでいたら、左手に何やら温かい感覚。


「……は?」


 ……治ってる。えっ? なんで!? どういうこと!?


 持ち上げたり軽く動かしても違和感がない、捻ってみて傷口が開くようなこともまったくない。

 仰天しながら腕を確かめていると、気づけば隣でラウルが少女に頭を垂れていた。

 ……あぁ違う。高さ的に届かなくて、かがんでいるのか。


「……なおった」


 少女はそう言ってつながったツノを優しく撫でる。


 俺は開いた口が塞がらないまま、同じように放心しているラウルと数秒見つめ合った。


「「えええええええっ!?」」


 ――腕、治っちゃった。

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