第26話
「計画は順調か……?」
周辺が魔素に満ちた禍々しい森の中ーー、男は声の主に対して応える。
「もちろんですとも……ワタクシの計画に狂いはありません!……あなた様もきっと満足頂ける結果になりますでしょう……!」
フードを被った老ぼれのような男は、ニヤリと暗闇の中で笑うーー。
「そうかーー、ならせいぜい励め……〝私の優秀な駒〟としてーーな」
男はそう言って、通信を切る。
「もちろんですともーー、我が主〝ヘル・ゲザート〟様ーー」
その不気味な笑いは、森の中で小さく霞んで消えたーー。
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「右見て……左見て……よ〜い……!」
「しっーー!黙れ!……全く、緊張感のない奴だな……」
ーーB6階層。その一角。
薄暗い雰囲気の中、慎重に進むポピィ達だった。
「だって……セシリアちゃん今にも泣きそうなくらい怖がってるじゃないですかーー!?怖い時はちゃんと勇気づけてあげるのが女友達というものです!」
「もう友達認定かよ……」
ポピィはセシリアの両方に手を添えながら、ゆっくりとユウキの後をつける。
セシリアはぎこちないながらも、多少の安堵を浮かべた表情に戻りつつあったーー。
「すみません……私のために……ありがとうございます、ポピィさんーー」
「別にいいって!それに、こう見えてもあの人めちゃくちゃ強いから、安心して!」
胸を張って自信満々のポピィ……しかし反対的に、ユウキはめちゃくちゃテンション低めだった……。
「…………勝手に期待してる所悪いが、俺の能力はお前達を守るのに向いてないぞ?」
「………………………そうだった」
〝幽霊化〟や〝魔気吸収〟など、一対一ならいざ知らず他者を守る能力とはとても言えないだろう。
もちろんーー、ユウキが〝本気〟を出さなければの話ではあるが……。
「なあ、お前の仲間ってどれくらいいるんだ?」
ゆっくりと進んでいく中、ふとユウキがセシリアに問いかける。
「私の仲間……ですか?レックスにゼル……アレンの3人、いずれもBランクとAランクの人達です」
「3人……か」
正直キツイなと、歯噛みするユウキ。
現在の人員はセシリアのパーティーを含めてもAランク(レックス)が一人、Bランク(ゼル、アレン)が二人、Cランク(セシリア)が一人、Eランク(ユウキ)が一人とランク無し(ポピィ)。
…………あとスライムも(戦力不明)
ユウキはかつて、勇者パーティー《天賦の隊》で何度か〝白のダンジョン〟や〝黒のダンジョン〟に挑んだ事がある。
しかし、〝攻略〟まで行けたのはほんの3回ーーしかも、他Sランクパーティーとの共同潜入でやっとの事でーーだ。
故に、ユウキは知っているーー。
このB6階層にいる〝何か〟が発する魔気は間違いなくーーS+ランク相当のモンスターだ。
このメンバーで、仮に他の3人と合流できたとしても勝算は薄すぎる……。
故に、ユウキの懸念は別の所にあったーー。
(仮にモンスターに遭遇せずに他のメンバーと合流した所で、さっきの場所に戻ったとして、果たしてここから出られるのか……?)
カーヴェラやドロシーであれば、いくらでも脱出の手立てはあるだろう。(ユウキはドロシーの本当の力を知らないが……)
しかし、今この階層内にいる《魔術師》及び《魔法使い》はCランクのセシリアのみ。
事前に指定した場所に移動するタイプの《転移型魔法陣》でさえAランク以上しか取得できない〝上級魔術〟なのだから、今のセシリアには無理だろう……。
「はぁ〜……本当に、どうしたもんかねぇ……」
「?」
頭にはてなを浮かべるポピィとは対照的に、ものすごく不安の高まるユウキだったーー。
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一方そのころ。
「なあ、レックス……セシリアの奴大丈夫だろうか?」
防御職のゼルが頬にあぶら汗をかきながら、レックスに問いかける。
「心配するな……むしろ、こっちの方が危険なんだーー。いつどこから敵が現れても仕方ないこの状況……油断すれば一瞬で終わりだ……。」
リーダーなだけあって冷静な判断力で歩を進めるレックス。
「な〜に、心配いらないさ……なんなら今頃誰かと合流して、脱出するためにこっちに向かってるかもな?」
絶妙に勘の鋭い槍使いのアレン。
脱出の糸口が無いこと以外はおおむね合っていたーー。
それからどれくらいの時間がたっただろうかーー。
一本道を進んでいくと、とある大きな広間があった。
それも、異・常・な・ま・で・に・広・い・空間がーー。
「なーー、なんだこれは!?」
薄暗いこともあってか、端が見えないその広間はただ広いだけではなく、天井もとても高かった。
「なんだ……この空間は……まるで地下の空洞のようだ……」
ゼルの言葉に、息を呑む二人。
そしていつから〝そこ〟にいたのだろうかーー。
「っーー!構えて、二人とも!!」
レックスの合図に、身構えるゼルとアレン。
まるでこ・の・世・の・も・の・で・は・な・い・ような〝それ〟は、赤黒い肌に瞳が六個、翼が八個、尾が三本に、ツノが二本生えた竜だったーー。
「っーー!何……だ、これ……は……」
明らかに今まで見てきたモンスターのどのレベルでも足元に及ばないーーそう実感させられるような〝ソレ〟は本能レベルでレックス達を恐慌状態に陥れた。
「これ……は、モンスター……なのか?」
「…………ありえない、こんなの……こんなモンスターが……この世に存在するというのか……?」
茶のダンジョンーーもとい、〝灰色のダンジョン〟B6階層。
その最奥にいる主の竜はーー、あまりにも強大で、絶望的で、死を直感するほどの存在だったーー。
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