第17話
ボウッーーと、ユウキの手に紫色の炎が宿る。
そして、ユウキの手がスライムに触れようとした、その刹那ーー。
「やめてーー!!!」
バッーーと駆け寄ったポピィが、スライムに抱きつく。
「お、お前何やってんだ!そいつ魔物だぞ!」
慌てて魔炎ーー《ダーク・バーニング》を解除するユウキ。
と、ポピィはユウキの目をじっと見つめて、
「だってこんなにかわいいもん!可愛いは正義だよ!?ユウキさん!!」
うるうると必死の懇願で見つめるポピィに、ユウキはくしゃくしゃと頭を掻いたーー。
「ったく……ハァ、わかったよ。ここはスルーだ……次行くぞーー」
「ねぇ、この子連れてっていい?」
カチンッと、その場で固まるユウキ。
「……………………なんて?」
「この子連れてっていい?」
「ダメに決まってんだろーー!!!」
ポピィのお願いに、頭を悩ませるユウキであったーー。
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もっとも太陽の恩恵を受け、もっとも美しい月明かりの夜を過ごし、もっとも雨の恵を使いこなし、もっとも穏やかな風を受ける位置にそびえ立つ標高2000メートルの山の頂上に立つ大国ーー〝聖国〟には〝冒険者ギルド〟の本部の他に〝聖者ギルド〟というものがある。
冒険者ギルドは聖者ギルドの下部組織にあり、冒険者ギルドで華々しい成果や活躍をあげたパーティーだけが、聖者ギルドに昇格できる形だ。
そんな聖国にある三つのうちの一つ女神像がある聖者ギルド内にて、勇者パーティー《天賦の隊》が次の任務についての話し合いが終わった後、クローがエリを呼び止めていた。
「なあなあ〜……あんな奴の事忘れて俺とくっつけよエリ〜?」
軽薄そうに、数人の取り巻きを連れたかき上げた髪の男ーークローが言った。
「だいたいあんな奴の何がいいってんだ?使えるのはどれもガキが使うような初級魔術だけ、機転が効くのは認めるがそれだけだーー。所詮は万年Eランクの冒険者……《天賦の隊》には不相応の人材だーー。お前程の奴が評価するのは、ずっと一緒にいたってだけだからだろう?」
それに対し、紫と白のコントラストで彩られた半袖にミニスカート、白紫色の髪が腰丈まですらりと伸びた表装の少女ーーエリがため息を溢す。
「はぁ……そうね、確かにあいつとはガキの頃からの付き合いだから評価しているーーそれはあるわ。だけど、このパーティーはあいつがいたからここまでこれたーーそれもまた事実よ」
(ま、わたしが評価しているのはそんな目・に・見・え・る・程・度・の・事・じゃ無いんだけど……)
今回の作戦は《天賦の隊》が総動員しなければならないほど大掛かりなため、天賦の隊で参謀を務めるエリだけでなく、トップのSランク四人が全員集合する程の事態だったのだーー。
「ハッーー、今じゃ俺たちの隊の人数は100を超え、最低でもBランク、Aランクが30人程で、トップである俺たちは4人が全員Sランクだぞ?Eランクのあいつがこの隊に必要だ?買い被りにも程があるだろう……腕相撲では俺に、剣術勝負ではエドワードに、魔術の勝負ではエミリーに、知略勝負ではエリに、他の諸々でも他のパーティーメンバーと比べて取り分けて秀でた所はない……あんな奴を買って……いや、〝飼・っ・て・や・っ・て・た・の・は・〟エドワードとお前だけだ」
あからさまエリの反感を買うような言い回しをするクロー。
取り巻きの男達もケケケと同調するように笑っていたーー。
「あ、そう。私をからかいたいだけなのはよくわかったわーー。私はアンタみたいな〝暇人〟の相手をしてる程暇じゃないの。次の作戦で詰めないといけない事もたくさんあるし……大した用事がないならこれでーー」
そうそこまで言いかけたエリを遮るように、クローは続ける。
「あいつは本当に残念な奴だったな〜!!あの《伝説の魔法使い》カーヴェラの弟子なのにお前と違って〝出来損ない〟で、〝役立たず〟で極め付けはーー」
クローは次の任務で使う備品を持ちながら、あからさまにユウキを貶けなすようにーー
「〝荷・物・持・ち・係・の・お・荷・物・君・〟なんだからよぉ」
ギリーーと歯噛みをし、我慢の限界に達したエリが翻してクローを睨みつける。
「…………もう一度あいつのことを貶めるような事を言ってみろ……アンタの足りない脳みそじゃあ想像もできないような地・獄・を・見・せ・て・や・ろ・う・か・?」
髪と同色のーー白紫色の瞳でキツく睨みつけるエリに対して、待ってましたと言うようにクローは舌なめずりをする。
「……ほう、お前が見せてくれる地獄ならぜひ味わって見たいものだなあ〜」
それに対して《天賦の隊》トップの参謀ーーエリが初めてキレる様子を見たクローの取り巻き達は、あぶら汗をかいて狼狽えていた。
「クロー!エリ!何をやっている!?」
作戦の詰め合わせの待ち時間に、珍しく遅れているエリの様子を見に戻ってきたエドワードが声を荒げてやってくる。
「ちっ……なんだよエドワード……今いい所だったのに……」
またか、とばかりにため息をつきながら額に手を当てるエドワード。
「ハァ……クロー、エリはお前みたいに暇じゃ無いんだ……くだらない事でいちいち呼び止めるな……」
かつかつともう用は無いと言わんばかりに、歩み出すエリ。
「おいおい〜、もう行くのかハニー?もう少し遊ぼうぜ〜」
「クローッ!!」
怒鳴りつけるエドワードを前に、両の手をあげてわかったよと言わんばかりに引き下がるクロー。
それを見計らってエドワードもギルドを後にする。
「あんなお荷物から解放されて〜!!よかったなあ〜エリ〜!!」
そんな最後まで口を慎まないクローを見てエドワードは去り際に、
「ユウキの代わりにお・前・が・去ってくれれば……どれだけよかったか……」
「ッーー!!」
そう呟いて、その場を後にするエドワード。
エドワードの口からそう言われるのは意外だったのか、クローは目を丸くする。
静寂が戻ってきたギルド内は、いつもより閑散としているのだったーー。
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「だぁーーー!もうっわかったよ……!お前も頑固な奴だなあ!!」
スライムを連れてく連れてかない議論で時間を費やしていたユウキとポピィは、ようやくポピィの連れていく主張がまかり通る形で収まったのであった。
「やったー!これからよろしくね!スライムちゃん!!」
「ぴぎぃーー」
ユウキの魔の手から救われたからか、ポピィに凄く懐いたスライムが嬉しそうな声をあげた。
「ったく……言っとくけど俺は世話しねぇからな!危なくなってもコイツは助けねぇし、エサ一つやんねぇからな!!!」
「鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!ユウキさんの鬼兄ぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーー!!!」
騒ぎ立てるポピィを尻目に、ハァとため息をつくユウキ。
(……全く、コイツの世話に一番不適任なの俺だろ絶対ーーー!帰ったらお師匠に文句言ってやる!!)
茶のダンジョン第1階層は、スライムを仲間にするという形で幕を閉じるのであったーー。
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