第11話

 

「それでね、パパったらブラック・ピッグ見かけた時に私たちの前に出て『お前ら!娘達には手を出させん!!』って意気込んでた割にすぐに吹っ飛ばされちゃって〜、結局ママの魔術で倒しちゃったんだけど、その時のパパのちょっとカッコ悪かったところがおかしくておかしくてーー」


けたけたと笑う私とカーヴェラさん。少し同情気味に苦笑いするグレイスさん。本来だったらまだ立ち直るのに時間がかかるはずなのに、この人達との会話はものすごく心の傷を癒してくれた。


と、そこにガタンッとドアが勢いよく開けられる。


「ポピィ〜!?起きたのポピィ!!」


背丈は私の腰くらいまであるだろうか?翠色の髪とくりくりっとした同色の瞳。

どこかで見覚えがあるような、小さな女の子が私の名前を呼びながら駆け寄る。


「よかったポピィ〜!無事だったのね!ケガは無い?やけどは?痛いところはない?」


「う、うん……ありがとう……ところで〜、あなた……だぁれ?」


「ひぇぇぇぇぇ!?」


ガーンと雷にでも打たれたように驚いた顔で叫ぶ女の子……確かに見覚えはある気もするが、どうも心当たりがない。


「ワタシよ!わからない……?もしかして、頭ケガしたんじゃ……?ポピィ頭大丈夫?」


人の事を頭が悪いみたいな誤解を招く言い方はやめてほしいのだけれど……どうやら私とこの子は知り合いらしい。


うーんと悩むポピィの後ろでは、クスクスとカーヴェラの笑い声がした。


じーっ、と見つめる女の子……どこかで見覚えが……?


「わかんない」


こてん、と転ぶ女の子。どうやらものすごくショックだったらしい。


「ワタシよ!ヒュイよ!あなたのお姉ちゃん!」


「お姉ちゃん……お姉……ヒェェェェェェェェェ!?」


全く同じリアクションで阿鼻叫喚の叫び声が室内に反響する。


とうとう笑いを堪えられないカーヴェラは、わははと腹を抱えて笑い転げだした。


「一体何があったのヒュイ!?何で一日でこんなちっちゃい幼女に……!?」


肩を掴んでぶんぶんと揺さぶる私と、どう説明したらいいものかと思い悩むちっちゃいヒュイ……ようやく静まってお互いに話をするのは日が沈み込んだ後のことだったーー。



「実はワタシ、体の細胞が半分以上壊死してたんだって〜」


ヒュイの開いた第一声は、にこやかな笑顔とは正反対で心中やかでは無い物騒な言葉から始まったーー。


「何でも毒と火傷とケガ?とか色んなダメージが蓄積されて〜、このままじゃカーヴェラさんの特注の包帯をしてても一週間しか命が持たないって言われちゃったの!だから、〝ある特殊な秘術〟を使って治してもらったんだ!!わたしにはよくわからないケド……」


「特殊な秘術……カーヴェラさん、それって一体どのような魔術なんですか?」


ズズズッとコーヒーをすすりながら、聞き流していたカーヴェラ。


コトッとコーヒーカップを置くと、


「太古に失われし〝禁断の秘術〟ーー《人体再生錬金術》さーー。」


「人体再生……錬金術?」


「ああ、人間の細胞の余分な部分を取り除き、不足している部分を取り除いた細胞を代用して補う……まあ言ってしまえば錬金術に使うやり方を〝人間〟で代替したわけだな。まあ、言ってしまえばゴーレムに作り替えた訳だ」


「ーー!また御前様はそのような道徳にも倫理にも法にも触れるような事を平然と……」


頭を抱え呆れ顔をしているグレイス。


「だが、だ。重要なのは〝過程〟ではなく〝結果〟だろう……?道徳倫理法を遵守して見殺しにするのとそれを無視して生かす道を与えるのと、果たしてどっちが本人や遺族が求める結果になるんだろうねぇ……?」


ニヤリと魔女のような顔を平然とトンデモ発言を連発するカーヴェラ。だが、その真理は至って事実に基づくものだった。


「私……は。感謝してます。たとえどんな形でも私とヒュイどちらも生きる事ができたんですから、カーヴェラさんは間違いなく、私たちの命の恩人です。」


「うんうん!ヒュイもカーヴェラさんの事大好きだよ!」


よしよし、とヒュイの頭を撫でるカーヴェラ。


その笑顔はまるで我が子を慈しむ母親のようだった。


「で、どうするんだ君はこれから?」


「……そうですね。」


一転変わって重苦しい空気になる。


「家は焼け、鍛冶場は瓦解してしまいましたし、とてもじゃないですが今の私に新しい場所へヒュイを連れていく余裕もありません……なのでカーヴェラさん。改めてお願いします!私を弟子にしてください!」


深々と頭を下げて頼み込む。


その様子を見たカーヴェラは。


「いいよ。ただ、アタシは手加減を知らないからね……。アンタが少しでも気を緩めれば死ぬ事になる……。その覚悟はあるかいーー?」


コクリッ、と頷く。


ポピィの覚悟を決めたその目線は真っ直ぐ、カーヴェラの瞳を見据えていたーー。

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