24 強火の友達(文葉視点)
一頻り海を堪能した午後の暑さが増す頃、せりちゃんの親戚の別荘に移動した。海のすぐ近くにあり、歩いて一分程で到着した。各自シャワーを借りて着替えた。今は広い庭でバーベキューをしている。
音ちゃんはさっきのお兄さんとの一件について彼氏君と話をしたいんだと思う。ちらちらと彼の方を気にしている。しかし音ちゃんの隣には常に彼女のお兄さんがいて、まだ話ができていない様子に見受けられた。
私は音ちゃんのお兄さんを胡散臭く思っていた。口では「応援してるよ」と言いながら全然そのつもりがなさそう。
音ちゃんが何かの用事でその場を離れた。彼女の後ろ姿を見守っていた音ちゃんのお兄さんへ近付く人物がいた。
「まさかアンタの最愛の妹があの子だったとはな」
音ちゃんのお兄さんへ話し掛けたのはせりちゃんのお兄さんだった。せりちゃんのお兄さんは神妙な顔付きで音ちゃんのお兄さんを見た。
「頼むから罪は犯すなよ……」
周囲に聞こえないように配慮したつもりだったのだろう。だけどせりちゃんのお兄さんが低い声で口に出した内容は、二~三メートル程後方で彼らを注視していた私に届いた。紙皿に取ったお肉を食べているフリをしながら耳を傾けている。
「何を言っている?」
和やかな笑顔で音ちゃんのお兄さんが聞いた。せりちゃんのお兄さんが声を絞り出すように言う。
「何って……。アンタが普通じゃないのは分かってるんだよ」
「へぇ?」
「例えばアンタの部屋一面に貼ってあるモノだよんゴ」
発言の語尾が変だった。気になって視線を向けると音ちゃんのお兄さんが片手でせりちゃんのお兄さんの口元を掴んでいるところだった。音ちゃんのお兄さんは微笑んでいたけど嗜虐的な目をしていた。
「あれは正規のルートで入手した。ただの実家から送ってもらった家族写真だ」
音ちゃんのお兄さんは穏やかな口調で言い聞かせるように言葉を発した。せりちゃんのお兄さんの顔から手が離れた。音ちゃんのお兄さんはニコニコしていたけど、せりちゃんのお兄さんは「承知しがたい」と言いたげな表情で音ちゃんのお兄さんを睨んでいた。
不意に音ちゃんのお兄さんがこっちを見た。優しげな目でニコッと微笑まれたけど、なるほど。やはり手強そうだ。音ちゃんはさっきの件で安堵しているみたいだけど。
私は音ちゃんの相手が彼氏君でもお兄さんでも構わない。
さて。音ちゃんのお兄さんにもバレちゃったし、この場は退却しよう。気になっていた件を片付けないと。
何も聞いていない素振りで「このお肉おいしいですね~」と微笑み返した。会話も手短に切り上げる。
「あっ! せりちゃん! ちょっと相談があって……」
ちょうどいいタイミングで側を通ったせりちゃんに声を掛けた。
「何よ。相談って」
数時間前に海水浴をしていた浜へ下りた。せりちゃんも私の後を付いて来る。彼女の問いには構わず波打ち際の手前まで歩み、立ち止まって海を眺めた。太陽が水平線へ向かってゆっくりと落ちて行く。
「『場所を変えてもいいですか?』って……皆に聞かれたらまずい内容なの?」
尋ねられて思う。ここまで来れば私たちの話は誰にも聞かれない。二メートル程距離を置いて足を止めたせりちゃんを横目に見た。強めの風に煽られる髪を左手で押さえながら、こちらへ窺うような眼差しを向けてくる。
「そうですね……場合によっては、そうかもしれませんね」
答えて彼女と向き合った。視線を上げ見据えた。
「吉園君の事なんですけど」
彼の名を出すと相手の眉が僅かにひそめられた。
「彼は中学当時の、音ちゃんがキューピッドをして付き合った彼女と別れていません。今も仲がいいらしいです。……あなたは何の目的で音ちゃんに近付いたんですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます