第28話 謁見
すでに謁見は始まっていた。多くの貴族が集められ、当事者のみが王前に立たされている。
その中にリュリュを見つけ、元気そうな姿にほっとする。しかし魔術師長に支えられたマリカの姿にユスティーナは言葉を失った。
一応は着飾っているものの、包帯だらけで立っているのもやっとのようだ。
父王はそれを気に留める様子もない。玉座で足を組み、頬杖をついた姿勢で表情なく広間を見下ろしていた。
「揃ったな。ではリュリュ・サロ。まずはお前から話を聞こう」
頷いてリュリュが一歩前に出る。
マリカがスロ王の王笏を手にしたこと。王立図書館の騒ぎもマリカが原因だったこと。その後もマリカは屋外で暴走し続けたこと。
口止めでもされたのだろう。マリカがユスティーナの命を狙ったことを、最後までリュリュは口にしなかった。
貴族たちに動揺のざわめきが広がっていく。非難の視線がマリカへ集まった。
「違うわ! わたくしはスロ王の呪いに操られただけよっ」
しわがれた声でマリカは叫んだ。顔半分は包帯で隠れ、覗く片目はぎょろりと光りまるで悪鬼に見えた。
「マリカ王女、発言はユハ王の許しを得てからですぞ」
魔術師長に制されて、マリカは苦しそうに膝をついた。それでも父王は眉一つ動かさない。
マリカを支えつつ、代わりに魔術師長がユハに向かって頭を垂れた。
「ユハ王、発言の許可を」
「言ってみろ」
「マリカ王女の陳述を聞くのは回復を待ってからにしていただけませぬか?」
「いいだろう。下がれ」
ほっとした様子で魔術師長はさらに深い礼を取った。マリカを連れてこの場を辞していく。
しんと静まり返る中、ユスティーナの鼓動が期待で高鳴った。次は自分が話す番かもしれない。
防壁に刺さった王笏。集まってきた魔。そして何よりも、穴が開きそうな防壁を塞いだのはこのユスティーナだ。その事実を早く話してしまいたい。
「では次にシルヴェステル、申してみよ」
進み出るシルヴェステルに落胆してしまう。
それでも次こそは自分の番だとユスティーナは気を取り直した。
「わたしが駆け付けたとき王笏が防壁を突き破っておりました。広範囲に亀裂が走り、状況は非常に危険なものでした」
シルヴェステルの話を内心うんうんと聞いていた。
あれは本当に恐ろしかった。あんな目には二度と合いたくない。そんなことを思いながら。
「ですがユスティーナ様の助言を受け、速やかに塞ぐに至りました。大過を免れたのもユスティーナ様の的確な指示があってこそでございます」
大袈裟なくらいの動作でシルヴェステルはユスティーナに礼を取った。
(え、ちょっと待って、初めに塞いだのはこのわたくしよ!? それじゃまるでシルヴェステルひとりの手柄みたいじゃない!)
思わず抗議の声をあげようとした。
しかし薄く唇が開くだけで、小声すら出てこない。
「そうか。シルヴェステル、大儀であった」
「ありがたきお言葉」
「次にユスティーナ、シルヴェステルの言うことに相違はないか?」
いよいよ発言が許されて、ユスティーナは焦ってしまった。否定しようにも声が出ない。
何も反応しないユスティーナに周囲から非難のざわめきが上がりだした。そんな中シルヴェステルがくすりと小さく笑う。
(全部シルヴェステルの仕業なのね!)
悟った瞬間、気づけばユスティーナはユハ王に向けて美しい所作で礼を取っていた。
「すべてその通りでございます」
自分の意思ではなく、勝手に口が動いていた。
シルヴェステルはさらに笑みを深めている。魔術でユスティーナを操ったのだ。怒ろうにも、口も体もまったく言うことを聞いてくれなかった。
「ではシルヴェステル。最大の功労者として褒美を与えよう。好きな物を言うがいい」
「では僭越ながら。ユスティーナ様の教師として、今後もお仕えさせていただきたく存じます」
「よかろう。好きにするがいい」
それだけ言い残し、玉座を降りたユハ王が去っていく。
満足げなシルヴェステルに連れられてユスティーナも広間をあとにした。
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