三国:劉備に追放され、私は孫尚香を横取りしました
@ggbond222mm
第1話 孫尚香
深い夜、静寂が広がっている。大きな雪がしんしんと降り、戦火を経たばかりの荊州の大地に舞い落ちていた。急な馬蹄の音が公安城内の静けさを破った。
「駆けろ!」
「駆けろ!!」
一人と一騎、馬を走らせる。その目は前方を見据え、雪の夜に星のように輝いている。少年は鞭を振り、千山の雪を越えて進んだ……前方には公安郡守の邸宅があった。
……公安郡守の邸内。
暖かい炭火が部屋全体を春のように温めている。耳の垂れた白い顔の中年男性が愛情を込めて幼い子供を見つめていた。「阿斗ももう七歳だ。学問を始めるべきだな。」
彼こそが赤壁の戦いで曹操を大敗させた劉備であり、荊南四郡を降伏させた劉玄徳であった。
大漢建安十三年、曹操は八十万の大軍を率いて南征したが、赤壁の大火で全ての野心は灰となった。それ以来、曹丞相の中華統一の野望はこの大江で止まった。同じ年の腊月、孫権と劉備は荊州を分割した。一時、天下の大勢が風雲急を告げた。
この時の劉皇叔は、意気軒昂としていた……「嫌だ!」阿斗は婦人の懐で身を捩って叫んだ。「阿斗は勉強したくない!勉強したくない!」
「よしよし、勉強しなくてもいいのよ。」糜夫人は急いで宥めた。「阿斗は生まれてからずっと苦労してきた。今でもまだ七歳だもの。この学問の苦労をどう耐えられるというのか?」
劉備は二年間、阿斗に学問を始めさせようとしてきたが、毎回阿斗のわがままに阻まれていた。愛子の白く柔らかい顔に不満の色が浮かんでいるのを見て、劉皇叔はまたしても心を柔らかくした。
「仕方ないな……」
……大雪が降り続き、玉のように美しい雪片が乱舞していた。
一人と一騎、公安郡守邸の外で止まった。雪の夜に馬を駆ける若者は朱色の大門を見つめ、心の中で安堵の息をついた。馬から降りると、休むことなく、凍えた手と青白く紫がかった顔で郡守邸に向かって大股で歩み寄った。
「公子!」
「公子様にお目通りします!」
門外の侍衛たちはその見慣れた顔を見て、一斉に跪いた。若者は軽く頷き、足を止めずに庭を通り抜け、明るく灯された大広間の外に到着し、階段を上ろうとした。
突然、全身甲冑の大柄な男が彼の前に立ちはだかった。「止まれ!」
「父上の命令で、寒さが厳しい時は外部の者の入場を禁じられている……阿斗が風邪を引くといけないからな。」
甲冑を着た男は劉封といい、劉備の義子であり、普段は劉備の護衛を務めていた。若者は劉封を見上げて平静な口調で言った。「私も外部の者か?」
劉封は劉備の義子に過ぎない。しかし、この輝く瞳を持つ若者は劉備の長男、劉武だった。劉武は元々この世界の人間ではなかったが、目が覚めると劉備の長男に転生していた。
もし劉武が外部の者なら、この広大な公安郡守邸にはもう劉備の身内は誰もいないことになるだろう。
劉封は口を開きかけたが、突然止まった……それはあまりにも強い殺気を感じたからだった。その冬の夜の星のように輝く瞳を直視することができなかったのだ。
劉封は寒さに震えながら、頭を下げて言った。「何事か?私が取り次ごう。」
劉武は依然として淡然とした表情で言った。「江夏から急報です。」
江夏?
漫然としていた劉封は急に身を引き締めた。
前荊州牧の劉表の長子、劉琦は江夏で療養中である。
劉皇叔が荊州を手に入れようとするなら、この長公子を避けて通ることはできない。まさか……
劉封は考えを巡らせずに、急いで堂内に入っていった。
寒風が吹き荒れていた。
雪はますます激しく降り積もり、
玉のような氷の花が舞い狂っていた。
瞬く間に、劉武の身に積もった雪は寸ほどの厚さになっていた。
ギィー!~
耳をつんざく音が響いた。
閉ざされていた堂の扉が轟然と開いた!
煌々とした灯火が庭の雪を金色に染め上げていた!
劉武が顔を上げると、
広い袖を纏った姿が、輝く灯火に照らされて自分の方へ大股で歩いてくるのが見えた……
近づいてくる、どんどん近づいてくる!
その人物は美しい顔立ちで、肩まで垂れた耳、膝まで届く長い腕を持っていた。
まさに劉武の父、仁義の名を天下に広めた劉備、劉玄徳であった!
「江夏の件、どうなった?」
彼の声はいつも通り穏やかで優しかった。
だが、親しい者ならば、この皇叔の声に微かに震えがあるのが分かるだろう。
話す間にも、彼は急ぎ足で廊下の階段に立ち、風雪に立つ劉武をじっと見つめた……
劉武は拱手して言った。「長公子劉琦が急な病に倒れ、急死しました。」
急な病に倒れ、急死……
劉武の言葉が響き渡ると、周囲は静寂に包まれた。
聞こえるのは雪の音だけであった。
数日前、劉武は突然公安城を出発し、今夜雪の中を帰ってきたのは、
長公子劉琦のために、この「急病」を仕組むためだった。
今や、大事が成ったのだ!
……
劉琦が死んだ!
ついに彼は死んだ!!
劉皇叔の袖の中の手は青筋が立つほどに握り締められていた。
劉琦が死ねば、荊州で自分以上に荊州の主にふさわしい者など誰がいるというのか?
この荊州は、最終的に劉備の基盤となるのだ!
劉備は深く息を吸い込み、冷え切った寒さでなんとか動揺を抑えた。
雪の中の劉武を見つめながら、彼は微笑んで言った。「入って来い。」
「はい。」
……
温められた酒器からは湯気が立ち昇っていた。
劉武は座に着いた。
元々温かい表情をしていた糜夫人の顔は、瞬時に冷たくなった。
彼女の膝に抱かれた阿斗は、自分が兄と呼ばなければならないこの見知らぬ者を見て、思わず口をとがらせた。
劉備はわずかに横目で見て、「この数日、お疲れ様だった。この杯を飲み干して寒気を払ってくれ。」と言った。
劉武の記憶の中で、父親が自分に対してこれほど優しかったことはなかった。
今日、こんなにも心配してくれるとは?
劉武の心に一瞬温かい気持ちがよぎり、温かい酒樽を手に取って言った。「父上に感謝します。」
温かい酒が劉武の喉を通って腹に落ちていった。
その時、元々劉武を快く思っていなかった阿斗は、父親がこの嫌な奴に酒を与えたのを見て……
直接劉武の食卓の前に駆け寄って……
劉武を指さして幼い声で言った。「また来たの?」
「何でいつも僕の家に来るの?」
幼い声が堂内に響き渡った。
瞬時に、大堂は静寂に包まれた。
皆が呆然とこの場面を見て、どうしたらいいのか分からなかった。
阿斗は再び言った。「ねえ、聞いてるの?何でいつも僕の家に来るの?」
糜夫人は冷たい目で劉武を見て、隠れた得意げな表情を浮かべていた。
一方、劉備劉玄徳は今、何事もなかったかのように冷静な表情をしていた。
劉武の手にある酒樽は、まだ半分しか飲んでいなかった。
その時、阿斗の幼い声が耳に響き渡っていた。
残りの温かい酒は、瞬時に冷たく感じられた。
劉武はもう少しも暖かさを感じなかった……
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