第24話 ラジオ。
夜、栄子は眠れないまましばらくベッドの上をゴロゴロし、やがて諦めておきあがった。
せっかくだから夏休みの宿題でも片付けようと学習机に腰かけたところで、災害があったとき用の小型のラジオの存在に気が付いた。
何気なく電源を入れると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
『私は白霞さんと黒守さんのファンです。行きたい大学の受験を控えています。模試ではC判定で奇跡でも起きなきゃ合格なんてありえないのですが、それでも頑張りたいです。この気持ちが当日まで続くよう、一言でいいですから応援を下さい』
どうやら『ロイヤルパーティー』がやっているラジオ番組で、リスナーのメッセージを白霞が読み上げたところだったらしい。
栄子は宿題を後回しにしてラジオに耳を傾けることにした。
『頑張ってる君に奇跡が起きるのを願ってるよ!』
白霞はその一言だけだったが、黒守は。
『合格したら、それは奇跡なんかじゃなくお前の頑張りの結果、実力だ。自分にもっと自信をもって実力をつけるために励め』
いつも仏頂面で愛想のない黒守だが、冷血漢ではなく照れ屋なだけなのだと栄子は微笑ましくなった。
同時に、メッセージを読み上げられたリスナーのように、オーディションを受ける人々はみんな努力しているのだと悟る。
「わたくしは……」
目を閉じ、アイドルになると決意した瞬間を思い出そうとする。
初めて『ロイヤルパーティー』のライブに参加した時、ファンとの一体感に感動した。
誰かを蹴落として「一番」になっているのではなく、ファンに「夢」を与えて応援をもらう「唯一」なのだと……。
「わたくしが目指しているのは、ファンという太陽に照らされて輝く月なのですわ」
太陽がなくては、月は輝けない。
栄子はやっと「人は一人では生きていけない」という一般論を実感した。
一人の方が気楽かもしれない。
嫌われたら最後だという怖さもある。
それでも。
「わたくしも、頑張りますわ」
どこかで必死に勉強しているだろうリスナーと、『ロイヤルパーティー』の二人に誓うのだった。
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