第14話 希望。

 終演後、やおいの母親の運転する車の中で。


「栄子ちゃん、楽しかった?」


 やおいに尋ねられて大きく頷く。


「ファンになったかにゃ?」


 ニャアにらんらんと期待に光るまなざしを向けられる。


「そう……ですわね」


 栄子は、この高揚は白霞と黒守によってもたらされたものだけれど、ファンになったということなのかと自分に問いかける。


 出した結論は。


「わたくしは……その……荒唐無稽だと笑われるかもしれませんが、ファンとして彼らを応援するのではなく……」


 栄子は言葉を途中で途切れさせ、続きを口にするのをためらった。

 コンが。


「栄子氏、言いたくないなら無理しなくても良いのですぞ」


 その気づかいが嬉しく、栄子は覚悟を決めた。

 しゃんと背筋を伸ばし、一音一音はっきりと発声する。


「わたくしはライブが本当に楽しかった。日々の有象無象を忘れ去って夢心地になりましたわ。でも、わたくしはそれを享受する立場ではなく、同じように『夢を与える側』になりたいと願ってしまったのです」


 やおいたち三人がまぶたを限界まで開いてまじまじと栄子を注視する。


「それは」

「つまり」

「アイドルになりたいということですかな?」


 やおい、ニャアちゃん、コンに向かって栄子は決意を秘めたまなざしを送り「その通りですわ」と宣言する。


 栄子はこれまで数々のコンクールで優勝してきた。

 努力して「一番」を獲って来た。

 だが、それはすべて「誰かを蹴落として得たもの」だ。


 そのことに気づき、栄子は改めて「みんなに夢を与え、代わりにみんなから応援をもらいながら輝く存在になりたい」と願ったのだ。


 自己満足の一番ではなく、誰かをしあわせを届ける唯一を目指したい。

 それが栄子の新たな目標である。


 やおいたち三人は信じられないとばかりにしばしぽっかり口を開けていたが、やがて。


「すごい!」

「びっくり箱を開けたみたいだにゃあ!」

「ふふふふ、そういうことならサポートは惜しみませんぞ!」


 てっきり「何を馬鹿なことを」と笑われると予想していた栄子はぱちぱちとまばたきする。


「ロイヤルパーティーが所属している芸能事務所のオーディションがあるみたいですぞ。これに応募しましょうぞ」


 スマホを操作していたコンが表示されている画面を栄子に向ける。

 一次選考は書類審査とのことだ。

 運転していたやおいの母親の耳にもしっかり聞こえていたらしく。


「そこなら安心だね。なかにはアイドル志望者を食い物にするところもあるから、評判をちゃんと調べないと」


 栄子は今までの生活で芸能事務所の名前などチェックする機会はなかったので、改めて「安全な芸能事務所」を教えてもらいメモした。


「写真が必要なんだね」

「とびっきり綺麗に映った写真を送るにゃ」

「カメラマン役は吾輩に任せて下され」


 全員に応援され、栄子は新たに胸に宿った「希望」に自然と笑みを浮かべるのだった。

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