第三十二話 お家デート5

「ミズち、ちなあたしは今日は泊まってもいいという"覚悟"を持ってこの家に来たんだけど、どーする?」


「不必要な覚悟決めてもらったところ申し訳ないけど、帰っては貰うよね。普通に」


「このお家が将来わたくしの家になるという可能性を鑑みて、わたくしはこの家に"住む"という表現でもって泊まらせて貰いますわ」


「鑑みすぎかな、ちょっと。仮定に仮定を重ねすぎ」


「家庭に家庭を重ねる……? それは"結婚"と捉えて差し支えない……?」


「あるなぁ。常識という名の差し支えが」


 夕方になりそろそろ、といった雰囲気が流れてくる。


 結局、分かりきっていたことではあるが、介護というのは名ばかりでただひたすらに世間話とゲームとお菓子に終始した。


「甲斐性無いなー。女の子が泊まってあげるって言ってんのにさー?」


「高二で甲斐性あったら人生苦労しないって」


 分かりきってる返事に思わず笑う。ミズキが寝泊まりを許可するところは想像がつかない。

 例えば「いいよ」と言われたら、自分は言葉通り泊まっていただろうか? サラはふとそんなことを考えた。


「今日はもう帰らないって言ったら?」


 なんとなくその答えが気になって、ミズキにイエスの返事を引き出そうとしてみる。


 我ながらなかなかの発言だとサラは思う。キョウの押せ押せの姿勢がうつったのかもしれない。


 蠱惑的すぎるとかえって引いてしまうので努めて淡白に話しかける。


 さながらチキンレース。ミズキがイエスと言いそうなギリギリの境界までおっかなびっくり踏み込んでゆく。


「ね? 友達んちに泊まるっていえばウチの親オッケーだよ?」


 ええ、とはにかむミズキ。その心は、恥ずかしいのか、冗談だと受け取っているのか。どちらだろう。


 あともし本当にイエスと言われたら自分は嬉しいのだろうか、高まるのだろうか、それとも冷めるのだろうか。


 なんでこんな試すようなことをしているのか、それも併せて、よく分からないでいる。


 じっとミズキの方を見つめていると、ミズキが目を細めて眉間に皺を寄せる。

 

「ダメー。親呼んで迎えに来てもらいますからね」


 冗談めかしく、ミズキにしては珍しくちょけて否定する返事だった。


「親を呼ぶ……? 親同士の顔合わせということでよろしいでしょうか?」


「いや、違うとおもう」


「なぁんでわたくしにはそんな冷たいんですの!」


「……キョウちゃんはがっつき過ぎなんだよね。もっとツツシミを持った方がいいと思う」


「わたくし慎みの化身でしてよ? 映画館でポップコーン食べる時音が鳴らないように細心の注意を払って映画に集中できなかったことがありますわ?」


「あっ、分かる」


「わっ……かんないなー。気にしたことないや」


 イエスを引き出すことはできないまま、話は別の方向へ膨らんでいった。

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